第75話 四十三本のトンネル
翌朝、限定共有通知の配信が始まった直後、全国四十三本の道路トンネルから同じ通報が入った。
出口表示が百メートル早く出る。
運転者は出口が見えたと思って減速する。
でもそこには壁しかない。
事故はまだ三件。
死者ゼロ。
「今なら止められる」
冬真が立つ。
月島も同時に資料を閉じた。
「全国連携をかけます」
四十三地点の監視状況が壁一面に出る。四十二地点は映像、神奈川の一件だけは位置と計測値だ。
冬真の視界には、四十三本の黒線。
そのうち四十二本に白い点。
一つだけ、白い点がない。
「偽物、四十二」
御厨の声が通信に入る。
『残り一個が本物?』
「逆かもしれない」
冬真は画面へ近づく。
鷹取なら、そう見せる。
答えが簡単すぎる。
四十三本目のトンネルは、神奈川の旧湾岸線だった。
現在は工事閉鎖中。
車は一台もいない。
だからこそ、誰も死なないはずだった。
四十二地点の映像は、どれも似ていた。暗い壁、白い矢印、出口まで百メートル。違うのは事故が起きる前か後かだけ。
一件目の衝突映像で、運転手は表示を見た瞬間ブレーキを踏んでいる。二件目では後続車が追突。三件目は大型トラックが壁へ寄った。あと一時間続けば死者が出る。
「全閉鎖は?」
冬真が聞く。
月島が即答する。
「物流影響が大きすぎます。段階規制」
「人命優先って言わないんだ」
「人命優先だから物流も見ます。救急も食料も同じ道路を使う」
冬真は頷いた。こういう答えは嫌いではない。
神奈川の一件だけ、映像がない。工事閉鎖中だからカメラも止まっている。
何も見えない場所が、一番強く冬真を引っ張った。
四十三本のうち、最初の死亡事故が起きるまでの予測時間は二時間四十分。冬真はその数字を見て、少しだけ安心しそうになった。
「二時間ある、と思いました?」
月島が聞く。
「ちょっと」
「私もです」
次の瞬間、四件目の追突映像が入る。負傷者三人。時間予測は一気に意味を失った。
冬真は椅子から立った。
「やっぱ現場行く」
「神奈川?」
「一番何も起きてないところ」
月島が頷く。
事件は被害が大きい場所だけ見ればいいわけではない。何も起きていないこと自体が、異常な時もある。
それを見抜くのが、自分の仕事だ。




