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第70話 偽物を切る

商業施設の再開期限は正午。


 冬真は十一時四十八分に五階へ戻った。


 白い終了点はまだそこにある。


「切るのか」


 御厨が聞く。


「偽物は切らない」


 冬真はその横へ手を伸ばす。


 逆照でしか見えない、細い黒線。


 病院へ。

 七人の過去案件へ。

 設計モデルへ。


 鷹取が作った“転嫁関係”。


「こっちを切る」


 断因。


 白い終了点が砕けるように消えた。


 同時に、駐車場全体で警報が鳴る。


 残因が戻ってくる。


「本体来るぞ!」


 御厨が叫ぶ。


 無人車が一斉に動き出した。


 冬真は逃げない。


 戻ってきたからこそ、やっと本当の形が見える。


 事故の根は、三日前の衝突ではない。


 立体駐車場の自動誘導システムが、存在しない空き区画へ車を案内し続けていた。


 終了点は管制端末。


「見切った」


 御厨が冬真の肩を掴み、迫る車の進路から押しのけた。


「早くしろ!」


「今やります!」


 月島が避難誘導を取り、御厨は冬真の脇で退路を確保した。

 管制画面の《満車》と《空車》が同時に点滅した。存在しない空き区画へ、車を送り続ける矛盾。

 冬真が端末へ指を置く。


「ここで終わりだ」


 断因。


 全車両が止まる。最後の一台だけ、冬真の靴先三十センチで停止した。

「……近い」

「近いじゃねえ!」と御厨が怒鳴った。


 十二時ちょうど。


 鷹取からメッセージが来た。


 《一本取られました》


 冬真は返さなかった。


 代わりに由奈へ送る。


 《今日、昼飯おごって》


 《勝った人が払ってください》


 事故が終わった後、施設の責任者は冬真へ深く頭を下げた。三日前なら、営業損失を理由に怒っていた人だ。


「今日は再開しません」


「その方がいいです」


「いつ再開できますか」


「明日、物理設備の確認が終わってから」


 冬真は今度は言い切れた。怪異は終わった。あとは普通の設備点検だ。


 月島が横で「行政側も同意します」と続ける。


 外へ出ると、もう昼を過ぎていた。由奈から店の地図が届く。徒歩七分。

 冬真は《行く》とだけ返信した。鷹取には返さない。一本取った、というゲームに付き合う気はない。


 でも次に何を仕掛けてくるかは、少し楽しみでもあった。


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