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第69話 逆照

 七人が死んだ現場を、冬真は一件ずつ見て回った。


 三件目。


 古いマンションの非常階段で、足が止まる。


「……逆だ」


 月島が振り返った。


「何が逆なんですか」


「線」


「それじゃ分かりません」


「今それ言う?」


「私は見えてないので」


 冬真は一度黙った。


「……原因と結果が逆向きです」


「最初からそう言ってください」


 月島相手だと、雑な省略が通じない。


 普通の残因は、原因から結果へ伸びる。


 壊れた配管から浸水へ。

 事故から死へ。

 怪異から終わらなかった現象へ。


 ここにある黒線は違った。


 死という“結果”から、細い線が過去へ戻っている。


 冬真は手すりに触れた。


 白い偽終了点を頭に置く。


 そこから逆向きに辿る。


 商業施設。

 病院。

 事故認定。

 保険査定。

 避難モデル。

 終端設計室。


 視界の奥で、誰かがファイル名を書き換える指先まで一瞬だけ見えた。


「原因を正面から探す必要ない」


「理由」


「偽物の終わりから戻れば、本物に行ける」


 もう一度辿る。


 今度は線が逃げない。


 冬真のこめかみが痛む。知らない場所の地図を無理やり頭へ押し込まれるような感覚。


『主任、大丈夫?』


 由奈の声。


「大丈夫じゃない」


『即答』


「でも続ける」


『それを大丈夫って言わないんですよ』


 御厨が横から言った。


「終わったら寝かせる」


「勝手に決めないで」


「倒れてから言え」


 月島だけが真顔で冬真の顔色を見ている。


「何です」


「続行可能か見ています」


「御厨さんと同じこと別の言葉でやらないで」


「私は記録に残します」


「余計悪い」


 由奈が通信の向こうで笑った。


 その間にも、一本だけ異様に濃い線が浮かび上がる。


 人の命を、もっと“損失の小さい場所”へ押し流す計算式。


 冬真はその式の入口を見つけた。


「由奈。ここからサーバーログ掘れる?」


『位置ください』


「送る」


『主任が見たものは証拠にならないですよ』


「分かってる。だから現実の方を拾って」


『その言い方は好き』


「仕事して」


『はいはい』


 数分後。


『出ました』


 アクセス記録。


 設計会社のアカウント。

 事故前日のログイン。

 終了点設定ファイルへの変更履歴。


 冬真は壁から手を離した。


「能力、増えた?」


 月島が聞く。


「見える範囲じゃなくて、見方が増えた」


『名前つけるなら?』と由奈。


「逆照」


『厨二』


「じゃあ案出して」


『戻り線』


「逆照で」


「二択が弱い」と御厨。


「主任は黙ってて」


「お前も主任だろ」


 一瞬、全員が黙った。


 由奈が先に吹き出した。


『主任多すぎ』


 冬真も笑った。


 でも視界の奥には、まだ一本の黒線が残っていた。


 偽の終わりを作った人間のところまで、今度はこちらから辿れる。


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