第64話 終わったふり
病院地下の非常電源室で、冬真は残因を見つけた。
黒い線は細い。
でも確かに商業施設から来ている。
そして驚いたことに、病院側には“開始点”がない。
結果だけが届いている。
「移されてる」
月島も画面を見た。
「どうやって」
「記録です」
商業施設の事故報告。
避難完了記録。
保険査定。
営業再開判定。
全てが同じ一点を“終了”として登録していた。
「社会が先に終わったことにした」
冬真が言う。
「それを残因が使った」
月島が病院の配電図を閉じる。
「なら、あの終了点を切ったら?」
冬真は細い線の先を見る。
病院地下へ集まる。
「こっちが本番になります」
医療センターには、夜間だけで二百人以上の患者がいる。
冬真は息を吐いた。
「危なかった」
月島は初めて素直に言った。
「止めて正解でした」
病院地下では、非常用発電機の低い振動が床から足へ伝わってきた。小児病棟の夜勤交代まであと一時間。ここで電源が落ちれば、数字では済まない。
冬真が細い残因へ触れようとすると、線がわずかに逃げた。自然な残因ではない。誰かが“見つけにくいように”細くしている。
「これ、怪異だけじゃ無理です」
「人が触っている?」
「少なくとも、人の記録を使ってる」
月島はすぐ施設側へ営業停止延長を指示した。さっきまで冬真に根拠を求めていた女が、証拠が出た途端いちばん速く動く。
冬真はその背中を見て、少しだけ評価を変えた。
「何ですか」
「別に」
「今、何か言おうとしました」
「仕事早いなって」
「褒めるなら普通に言ってください」
「面倒だな」
病院の非常電源室から病棟へ上がる途中、小児科の廊下を通った。夜の病院は静かだが、完全には眠らない。ナースステーションの灯り、点滴ポンプの電子音、眠れずに廊下を歩く母親。
冬真はここへ残因を押しつける設計をした人間が、この廊下を見たのか考えた。
「見てないでしょうね」
月島が言う。
「顔に出てました?」
「分かりやすいです」
「それ嫌だな」
「二十四歳ですから」
「年齢便利に使わないで」
病室の一つから子どもの笑い声が聞こえた。冬真は白い終了点を切らなかった自分の判断を、そこで初めて完全に信じた。




