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終わったはずの事故を、俺だけがまだ見ている  作者: YunCang


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64/112

第64話 終わったふり

病院地下の非常電源室で、冬真は残因を見つけた。


 黒い線は細い。


 でも確かに商業施設から来ている。


 そして驚いたことに、病院側には“開始点”がない。


 結果だけが届いている。


「移されてる」


 月島も画面を見た。


「どうやって」


「記録です」


 商業施設の事故報告。

 避難完了記録。

 保険査定。

 営業再開判定。


 全てが同じ一点を“終了”として登録していた。


「社会が先に終わったことにした」


 冬真が言う。


「それを残因が使った」


 月島が病院の配電図を閉じる。


「なら、あの終了点を切ったら?」


 冬真は細い線の先を見る。


 病院地下へ集まる。


「こっちが本番になります」


 医療センターには、夜間だけで二百人以上の患者がいる。


 冬真は息を吐いた。


「危なかった」


 月島は初めて素直に言った。


「止めて正解でした」



 病院地下では、非常用発電機の低い振動が床から足へ伝わってきた。小児病棟の夜勤交代まであと一時間。ここで電源が落ちれば、数字では済まない。


 冬真が細い残因へ触れようとすると、線がわずかに逃げた。自然な残因ではない。誰かが“見つけにくいように”細くしている。


「これ、怪異だけじゃ無理です」


「人が触っている?」


「少なくとも、人の記録を使ってる」


 月島はすぐ施設側へ営業停止延長を指示した。さっきまで冬真に根拠を求めていた女が、証拠が出た途端いちばん速く動く。


 冬真はその背中を見て、少しだけ評価を変えた。


「何ですか」


「別に」


「今、何か言おうとしました」


「仕事早いなって」


「褒めるなら普通に言ってください」


「面倒だな」


 病院の非常電源室から病棟へ上がる途中、小児科の廊下を通った。夜の病院は静かだが、完全には眠らない。ナースステーションの灯り、点滴ポンプの電子音、眠れずに廊下を歩く母親。


 冬真はここへ残因を押しつける設計をした人間が、この廊下を見たのか考えた。


「見てないでしょうね」


 月島が言う。


「顔に出てました?」


「分かりやすいです」


「それ嫌だな」


「二十四歳ですから」


「年齢便利に使わないで」


 病室の一つから子どもの笑い声が聞こえた。冬真は白い終了点を切らなかった自分の判断を、そこで初めて完全に信じた。


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