第63話 二人目の調査官
商業施設の駐車場で、冬真は病院への残因転移を口にした。月島はすぐに反論した。
「転移型なら観測ログに痕跡が残るはずです」
「だから残ってないように作られてる」
「推測です」
「そうです」
「推測で病院を止めますか」
冬真は黙った。
そこを突かれると弱い。
月島は国家データベースを開く。
同型事故、十三件。
全件、終了後に周辺別施設の軽微トラブルが増えている。
「……増えてるじゃないですか」
「統計的有意差は出ていません」
「人が死ぬまで待つ?」
「私はそう言っていません」
月島の声が少しだけ硬くなる。
「あなたが正しい可能性と、あなたが間違う可能性を同時に扱っているだけです」
冬真は言い返しかけて、やめた。
嫌いな言い方ではある。
でも間違ってはいない。
御厨が壁にもたれた。
「二人とも正しいなら、現場見ろ。口で終わらすな」
冬真と月島が同時に御厨を見る。
「主任、たまに良いこと言いますね」
「たまには余計だ」
月島の反論は、冬真が嫌いなほど筋が通っていた。国家データベースでは終了条件一致率九八・七パーセント。過去十三件で再発なし。
「数字だけなら切ります」
「では、なぜ切らない」
「見えてるものが変だから」
「その“変”を他人が判断できない」
痛いところだった。
冬真は一度、白い点から離れた。自分だけが見えるものを武器にしてきた。でも国家級の現場で“俺には分かる”だけを通し続ければ、結局自分一人がボトルネックになる。
腹は立つ。けれど、月島を黙らせるより先に、月島でも否定できない証拠を拾う必要がある。
「病院行きましょう」
「理由は」
「そこまで行けば、たぶん言語化できます」
「たぶん、ですか」
「嫌なら置いていきます」
「行きます」
病院へ向かう車内で、冬真は月島の十三事例を読み込んだ。どの案件も、報告書だけなら本当に綺麗に終わっている。再発なし。負傷者増加なし。施設復旧。
ただし周辺二キロへ範囲を広げると、小さな事故が増える。停電、転倒、設備故障。単独では異常扱いされない程度。
「大事故を、小事故に薄めてる?」
月島がハンドル越しに頷く。
「仮説としては」
「それなら統計で消える」
「はい」
冬真は資料を閉じた。
鷹取という名前をまだ知らない段階で、もう相手の考え方が見え始めていた。事故を消すのではない。誰も大事故と呼べない形へ薄める。
それは怪異より人間らしい発想だった。




