第61話 白い終了点
現場は郊外の大型商業施設だった。
閉鎖された立体駐車場の五階。
事故は三日前。無人の車が壁へ突っ込み、運転席には誰もいなかった。
異常反応は消失済み。
施設側は営業再開を急いでいる。
冬真が五階へ上がると、白い一点が見えた。
終了点。
普通なら、そのまま切る。
でも近づくほど気持ちが悪い。
残因が、そこへ向かって綺麗に並びすぎていた。
「作ったみたいだ」
御厨が横を見る。
「何が」
「終わり方」
月島が端末を確認する。
「既存の十三事例と一致します。条件は満たしています」
「だから嫌なんです」
「感覚ですか」
「今は」
冬真は白い点の前でしゃがんだ。
床には黄色い誘導線。
避難方向。
壁には施設の事故対応手順。
全部が同じ場所を指している。
そこだけが、あまりに正しい。
「切らない」
施設責任者が声を上げた。
「今日中に再開できなければ数千万の損失です!」
冬真は立ち上がった。
「数千万で済むなら、今日は閉めてください」
五階は営業中のフロアから切り離され、シャッターの向こうだけ時間が止まったようだった。下では子どもの声と館内放送が聞こえる。壁一枚向こうに日常がある。その近さが、冬真にはかえって嫌だった。
白い点へ近づくと、残因が自分から道を譲るように整列する。親切すぎる。怪異はそんなに親切ではない。
「月島さん、既存事例って全部これくらい綺麗?」
「資料上は」
「資料上、ね」
冬真はしゃがんだまま、床の誘導線を指でなぞった。黄色い塗料は事故の翌日に引き直されている。終了点が“発見された”後に、現場の方がその位置へ合わせられていた。
先に答えがあり、後から世界が整えられている。
それは調査ではなく、設計だった。
駐車場の奥で、閉鎖された非常扉が小さく鳴った。風はない。誰も触っていない。白い終了点だけが、その音に合わせて一瞬明るくなる。
冬真は反射的に手を伸ばしかけ、止めた。
「今の、誘ってる?」
御厨が言う。
「たぶん」
「怪異にモテるな」
「嬉しくない」
月島は現場写真の時系列を追っていた。終了点が最初に確認されたのは事故の二時間後。その三十分後に誘導線が引き直され、さらに一時間後に保険側の“復旧可能”判定が出ている。
「人がこの一点を強くしたのは確かです」
冬真は白い光を見る。
怪異が人間の正しさを利用している。そう考えると、この綺麗さが急に悪趣味に見えた。




