第60話 合格者一名
広域資格の合格通知は、拍子抜けするほど普通のメールだった。
《合格》
冬真は三回読んだ。
「文字、増えませんよ」
由奈が言う。
「分かってる」
「スクショします?」
「もうした」
「してるんだ」
新田は祝わなかった。
「来月から資格手当。あと案件単価も上がる」
「いくら」
「そこだけ速いな」
その日の午後、国土異常対策庁から人が来た。
月島怜。
三県案件の会議にいた女だ。
黒いスーツ。無駄のない資料。椅子へ座る前に、冬真の社員証を一度だけ見る。
「広域資格、合格おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「でも、問題があります」
やっぱり祝うだけでは終わらない。
「久世さんの能力が、久世さんにしか使えないことです」
冬真は少し笑った。
「俺はそこ、長所だと思ってますけど」
「国家運用では欠点です」
「いきなり夢ないですね」
「夢の話はしていません」
月島は一枚の写真をテーブルに置いた。
大型商業施設。
閉鎖済みの立体駐車場。
写真の中央に、冬真には白く見える一点があった。
終了点。
——のはずだった。
なのに、気持ち悪いほど綺麗すぎる。
「これを切れますか」
月島が聞いた。
冬真は写真から目を離さなかった。
「切れます」
一拍置く。
「でも、切りません」
月島が帰った後、冬真は例の商業施設写真をもう一度開いた。白い点は綺麗だった。今まで自分が探してきた終了点より、はるかに見つけやすい。
それが嫌だった。
新田が背後から覗く。
「切れるのに切らないって、説明できるか」
「まだ」
「じゃあ現場で説明できる材料拾ってこい」
「止めないんですか」
「お前が“気持ち悪い”だけで会社止める気はない。でも、お前が切らないって決めたなら理由はあるんだろ」
冬真は少しだけ驚いた。
「信用してる?」
「調子乗るな。投資してる」
「言い方」
新しい社員証を指で弾かれる。
「回収させろ」
冬真は写真を閉じた。明日、その白さの正体を暴く。
月島が持ってきた写真を拡大すると、白い終了点の周囲だけ清掃状態まで不自然に良かった。オイル汚れがなく、タイヤ痕も途中で途切れている。
「現場が終了点に合わせて片付けられてる」
冬真は月島へ電話をかけた。
『事故後の復旧作業です』と、帰路の月島が答える。
「順番を確認したい。終了点が見つかったから片付けたのか、片付けた場所が終了点になったのか」
月島の指が止まった。
「後者なら」
「人が作れる」
会話がそこで切れた。
冬真の中で、今までの前提が一つ崩れる。怪異の終了条件は“見つけるもの”だと思っていた。もし誰かが作れるなら、自分の能力を騙すための終わり方も作れる。
怖い。
同時に、少し燃えた。
自分の能力へ真正面から挑んでくる相手が、初めて現れた。




