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終わったはずの事故を、俺だけがまだ見ている  作者: YunCang


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52/110

第52話 三つの現場

三県同時発生なら、普通は三班に分かれる。

冬真は会議室に入って五分で、それを止めた。

「分けないでください」

県ごとの担当者が一斉にこちらを見る。

月島怜という国土異常対策庁の女だけは、表情を変えなかった。

「理由は」

「残因が同じです」

「見える、という話ですね」

「そうです」

「再現性は?」

初対面から嫌なところを突く。

「俺以外にはありません」

「では、それを前提に三県の運用は変えられません」

御厨が椅子の背にもたれた。

「久世。喧嘩するなら短くしろ。雨は待たねえ」

「してません」

「その声はしてる」

由奈が三地のログを一つの画面に重ねた。

降雨開始は同時。

停止も同時。

濡れ続ける人の数だけ違う。

東京十二人。

埼玉八人。

千葉二人。

「数が減ってる」

冬真が言う。

「距離?」と由奈。

「たぶん」

黒い線を追う。

東京から埼玉。

埼玉から千葉。

最も遠い千葉で、線が太い。

「根は千葉です」

月島が初めて眉を動かした。

「東京が最大被害なのに?」

「だから逆です。東京は結果が大きい。原因は一番遠い」

冬真は立った。

「三県を回る必要はない。千葉に行きます」

三県の担当者は、それぞれ自分の現場を最優先にしたがった。東京は人数が多い。埼玉は住宅地が近い。千葉は設備が古い。全部もっともらしい。

冬真はホワイトボードに三つの時刻だけ書いた。降り始め、最初の転倒、最初の意識障害。秒まで揃っていた。

「別の事故なら、ここまで揃わない」

月島が資料をめくる。

「同期する理由はまだ説明できていません」

「だから説明するために分けない」

自分でも少し強い言い方だと思った。でも引かなかった。以前なら“見えるから”で押していた。今は、他人にも見える証拠を一つずつ机へ置ける。

御厨は何も褒めず、出口側の席から立った。

「千葉行くなら車回す」

それで十分だった。

会議室を出た後、月島が廊下まで追ってきた。

「一つだけ確認します」

「まだある?」

「千葉が根因という判断、残因視を除いた根拠は?」

冬真は歩きながら答えた。

「被害人数と残因強度が逆。東京ほど人が多いのに線が薄い。伝播なら距離で薄くなる方が自然」

「最初からそれを言えばよかったのでは」

「今まとまった」

月島は少し黙る。

「即興ですか」

「現場って大体そうでしょ」

「国家資料には書きづらい」

「じゃあ上手く書いて」

「私の仕事を増やしましたね」

その言い方には、さっきより棘が少なかった。冬真は月島が“能力を信じない人”ではなく、“能力だけで他人を動かしたくない人”なのだと理解し始めた。

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