第49話 出口なし
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次の瞬間、表示が消えた。
代わりに一行。
EXIT CLOSED。
出口閉鎖。
「終わった?」
御厨が聞く。
冬真は残因を探る。
軽くなっている。
でもゼロではない。
「まだ」
通信室の外で足音がした。
一人。
白いシャツ。
黒いズボン。
黒い腕時計。
顔だけが、うまく認識できない。
冬真は初めて正面からそれを見た。
「お前が、俺を出した?」
人影は答えない。
御厨が冬真の前へ出る。
「近づくな」
人影は止まった。
冬真の頭に、言葉ではない感覚が落ちてくる。
閉じた。
「今の、こいつ?」
御厨が聞く。
「たぶん」
人影が一歩後ろへ下がる。
その向こうに、存在しない扉が開いた。
白い光。
レスキュー・ゼロの出口とは違う。
冬真は一歩も動かなかった。
「行かない」
人影は待つ。
「俺たちはこっちから出る」
御厨が頷く。
三人は来た通路を戻った。
振り返った時、人影も扉も消えていた。
黒時計の人影が現れた時、御厨は一歩前へ出た。
反射だった。
冬真を庇うため。
「主任」
「何」
「顔見えない相手に前出るのやめません?」
「殴り合いなら俺の方が強い」
「そこは譲ります。終わらせる方は俺の仕事です」
こんな時でもいつもの会話が出た。
そのおかげで、冬真は人影を“八年前の答え”ではなく“今目の前にいる未確認現象”として見られた。
聞きたいことは山ほどある。
なぜ自分を出した。
何者だ。
二〇一八年に何をした。
でも、存在しない扉の向こうへ行く理由にはならない。
答えより安全を優先する。
以前の自分ならできなかった選択だった。
◇ 自分で出る
しらせぎを出たあと、冬真は初めて黒時計について一つ確信した。
「あれは出口を作れる」
「レスキュー・ゼロとの違いは?」
由奈が聞く。
「ゼロは、先に出た結果を使う。黒時計は、最初の出口そのものを作る」
御厨が腕を組む。
「だから危険?」
「便利すぎるから」
存在しない出口でも、通れば外へ出られる。
人は使う。
災害時ならなおさら。
でも一人が通るたび、現実にはない“出られた結果”が残る。
それが増えれば、レスキュー・ゼロのような二次現象が生まれる。
二〇一八年は、それが全国ネットワークへ複製された。
「助けるための出口が、災害を広げた」
冬真は言った。
善意か悪意かではない。
便利な結果には、原因が必要だった。
原因を飛ばした救済は、どこかに未払いを残す。
新田が報告書を読んで言った。
「珍しく良いこと言うわね」
「報告書に書きます?」
「書かない。抽象的すぎる」
「ですよね」
代わりに、現場指針へ一行が追加された。
『確認不能な避難経路が出現した場合、利用は最終手段とし、利用後は必ず因果閉鎖確認を行う』
冬真は追加された一行を二度読んだ。
八年前にはなかった一行だ。次に同じものを見た誰かが、今度は迷わず立ち止まれる。
十分だ、と思いかけて、やめた。十分なわけがない。もっと早く見抜きたい。もっと大きい事故を切りたい。次は八年も待ちたくない。
「久世」
御厨が呼ぶ。
「帰るぞ」
「はい」
「飯どうする」
「焼肉」
「さっきまで終電の話してただろ」
「終わった記念です」
「お前、五万円入ってから財布ゆるくなったな」
「今日は主任持ちで」
「帰れ」
由奈が笑った。冬真も笑いながら、端末の EXIT CLOSED をもう一度だけ見た。
次は、もっと早く終わらせる。




