第43話 六月二十一日
白昼断層の発生日は、二〇一八年六月二十一日だった。
一九九八年の最古の救助者番号0も、六月二十一日。
偶然と切り捨てるには、日付がきれいすぎる。
「二十年周期?」
由奈が言う。
「サンプル二つで周期とは言えない」
「夢がない」
「調査に夢を求めないで」
「じゃあロマン」
「もっと要らない」
由奈は不満そうに紙コップのココアを飲んだ。冬真の机にはブラックコーヒー。佐伯の机には栄養ドリンクが三本。
午前一時を回った調査室は、世界の秘密を追う場所というより、締切前の会社だった。
「分析担当みたいになってきましたね」
「影響されてる」
今年は二〇二六年。
二十年周期なら次は二〇三八年。
急ぐ必要はない。
そう思った時、分析担当が別の資料を出した。
救助者番号0ではない。
六月二十一日に発生した原因不明事故。
一九七八年。
一九五八年。
一九三八年。
二十年ごと。
記録が古くなるほど内容は曖昧になる。
一九三八年の新聞記事。
地下工事中、作業員が全員同時に「出口が二つ見えた」と証言。
「周期、本当にある?」
御厨が言う。
冬真は日付を見た。
次ではない。
問題は前回。
二〇一八年の白昼断層だけ、規模が桁違いだった。
何が二十年周期の現象を、全国規模へ広げたのか。
そこを調べる必要がある。
二十年周期の一覧を見つけた時、分析担当は最初に言った。
「周期と決めつけないでください」
「分かってます」
「本当に?」
「最近みんな俺にそれ言う」
由奈が笑う。
周期は魅力的な答えだ。
二十年ごとに怪異が来る。
それだけで物語になる。
でもデータはまだ少ない。
冬真たちは日付が一致しない類似事故も同時に探した。
すると、六月二十一日以外にも小規模な“出口異常”は存在した。
周期現象というより、その日に大きく増幅される何か。
「単純じゃなくなった」
「良いことです」
「報告書を読む側には迷惑だな」
「なら読める形に整理しましょう」
「そうする」
冬真は画面へ戻った。
簡単な答えに飛びつかないことも、この半年で覚えた。
◇ 白昼断層
二〇一八年六月二十一日、午前十一時四十三分。
日本各地で同時多発的に「現実の接続異常」が観測された。
存在しない道路。
戻る階段。
閉じない扉。
同じ時刻を繰り返す時計。
被害は三日で収束。
死者・行方不明者、合計二百七十一名。
その後、日本は特異現象の存在を公式に認めた。
冬真にとってはニュースの中の大災害だった。
自分が水無月ホテルで経験したことと同じ種類だと知ったのは、ずっと後だ。
「最初の発生点は?」
冬真が聞く。
分析担当が地図を出す。
「公式には特定不能」
「公式には?」
「発生時刻の一分前、東京都内で一件だけ異常な通信ログがあります」
場所。
旧特異災害研究準備室。
当時まだ正式組織になる前の、小さな研究チーム。
送信内容は一行。
『出口を確認。全員退避可能』
その十七秒後。
全国で白昼断層が始まった。
冬真は画面を見た。
出口。
レスキュー・ゼロ。
そして“先に出た者が後の者を呼ぶ”。
偶然ではない。




