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終わったはずの事故を、俺だけがまだ見ている  作者: YunCang


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第37話 助けられなかった人

七件の救助者番号0。


冬真は「助かった人」だけを見るのをやめた。


同じ事故で、助からなかった人を調べる。


二〇一二年湾岸倉庫火災。


死者一名。


救助された作業員のすぐ隣で倒れていた男。


「二人いたのに、一人だけ助けた?」


由奈が言う。


病院の地下三階でも、全員が助かったわけではない。


別の病棟で一名死亡。


水無月ホテルも同じ。


冬真は生きた。


非常階段で倒れていた男は死んだ。


胸の奥が重くなる。


「選んでる」


「何を基準に?」


「分からない」


御厨が冬真を見る。


「お前、自分が選ばれた理由を探してる?」


冬真は答えなかった。


「やめとけ」


「なんで」


「理由が分かっても、死んだ人間は戻らない」


「分かってます」


「分かってない顔してる」


腹が立った。


でも反論できなかった。


冬真は八年前からずっと、自分だけが出た理由を探していたのかもしれない。


能力の正体より先に。


御厨が言う。


「仕事として調べろ。自分を裁く材料にするな」


冬真はしばらく黙り、頷いた。


「……はい」


その日の夜、八件目の救助者番号0が発生した。


今度は、リアルタイムだった。


助からなかった人の資料を読むのは、助かった人の資料より時間がかかった。


理由は単純だった。


手が止まる。


水無月ホテルの死者欄で、冬真は何度もページを閉じた。


御厨は急かさなかった。


「今日はやめるか」


「やります」


「意地で?」


「仕事で」


その言葉を言うと、ページを開けた。


自分が生きたことに理由を付けたい気持ちと、救助者ゼロの選択基準を調べることは別だ。


混ぜれば、都合のいい答えしか見えなくなる。


冬真は死者一人ずつの位置、時刻、救助経路を表にした。


作業にすると痛みが消えるわけではない。


ただ、痛みの隣に事実を置ける。


それで十分だった。


◇ 番号0、発生


場所は都内の地下駐車場。


小規模な特異空間歪曲。


車両二台が出口へ到達できず、同じフロアを周回していた。


御厨班が到着する前に、一台の運転手が徒歩で外へ出た。


「誰に案内された?」


冬真は現場へ着くなり聞いた。


運転手は混乱していた。


「警備員です」


「制服は?」


「青い……いや、黒かったかな」


「顔は」


男は黙った。


「思い出せない」


まただ。


もう一台には、夫婦と子ども一人が残っている。


「救助者はそっちへ行った?」


「分かりません」


冬真は駐車場へ入る。


今回は結果が完成する前だ。


見つけられるかもしれない。


曲がる。


同じ柱番号へ戻る。


B2-17。


もう一周。


B2-17。


その向こうに、人が立っていた。


白いシャツ。


黒いズボン。


顔が見えない。


「待って!」


冬真が叫ぶ。


人影は振り返らない。


奥の通路へ歩く。


冬真は追った。


御厨が腕を掴む。


「一人で行くな」


「今なら追える」


「だから二人で行く」


御厨の手は強かった。冬真が振りほどこうとする前に腕を離し、そのまま自分が半歩前へ出る。


「見えるのはお前。殴られるのは俺」


「役割分担が雑すぎる」


「分かりやすいだろ」


冬真は言い返しながら、その背中の横へ並んだ。一歩後ろではなく、横だった。


人影の先に、家族の乗った車が見えた。

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