第28話 正社員面談
正社員登用面談は、怪異より苦手だった。
「志望動機」
人事担当者が聞く。
冬真は困った。
「安定したいからです」
人事担当者のボールペンが止まった。隣で新田が目を閉じる。
「久世」
「はい」
「本音を言えとは言ったが、全部そのまま出せとは言ってない」
「でも嘘じゃないです」
「知ってるから困ってる」
人事担当者が堪えきれず笑った。
「もう少し、仕事の話も聞かせてもらえますか」
「危険手当がちゃんと付くところは好きです」
「久世」
「今のは冗談です」
「半分な」
「三割です」
さっきより空気が軽くなった。冬真もようやく背もたれから肩を離した。
「もう少しありますよね?」
人事が苦笑する。
「ありますけど、最初はそれです」
「率直ですね」
「契約社員を三年やってるので」
面談後、新田に廊下で怒られた。
「普通、社会的意義とか成長とか言うでしょ」
「嘘になる」
「全部嘘じゃなくても、順番ってものがある」
「課長、俺の面接まで復旧したいんですか」
「したい。人事事故を防ぎたい」
由奈が後ろから笑う。
結果は二週間後。
冬真は自分でも意外なほど気になった。
以前は、正社員になれれば仕事は何でもいいと思っていた。
今は、この仕事で正社員になりたい。
その違いを、面接ではうまく言えなかった。
午後、病院から緊急調査依頼が入った。
存在しない「地下三階」から、ナースコールが鳴っている。
冬真は面接結果を考えるのをやめた。
仕事の方が、先に次へ進んだ。
面談の帰り、冬真はエレベーターの鏡に映る自分を見た。
スーツは借り物ではない。
ネクタイも自分で結べる。
三年前、契約社員として入社した時は一年続けばいいと思っていた。
正社員になりたい理由を面接でうまく言えなかったのは、理由が増えすぎたせいかもしれない。
安定。
給料。
社会保険。
それだけではない。
自分が見つけた違和感を、最後まで追える立場が欲しい。
名前を報告書の後ろに置くだけではなく、判断の責任を持ちたい。
そこまで言えば良かったと、面談が終わってから気づく。
「次の面接で言います?」
由奈に話すと、笑われた。
「次ない方がいいですよ」
◇ 地下三階
都内総合病院。
地下は二階までしかない。
それなのに、中央監視盤には「B3-12病室 ナースコール」と表示されている。
「病室?」
由奈が首を傾げる。
「地下に病室ないですよね」
病院職員が頷く。
「地下二階は機械室と倉庫です」
ナースコールは三分おき。
押下。
応答待ち。
未対応。
解除。
また三分後。
冬真はログを見る。
「誰かが呼んでる、というより」
「呼ばれた結果が残ってる?」
御厨が先に言った。
「そうかも」
地下二階へ下りる。
エレベーター表示。
B2。
その下に、一瞬だけB3が点いた。
すぐ消える。
「見た?」
「見た」
御厨がドアを押さえる。
冬真は中へ入らない。
足元を見る。
エレベーター内の床に、病院用ベッドの車輪跡が残っている。
地下三階へ向かうように。
「患者、地下へ運んだ記録あります?」
職員が青ざめた。
「十年前の改修前なら……」
病院には、昔、地下三階があった。
そこは病室ではない。
災害時の臨時収容区画だった。




