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第27話 四十二分

完全閉鎖できる時間は四十二分だった。


道路会社が渋滞予測と迂回路容量から出した数字だ。


「四十二分で白線を引き直す?」


由奈が聞く。


「無理です」


担当者が即答した。


「舗装温度、乾燥、交通規制。最低でも数時間」


冬真は考える。


物理的に道路を変える必要があるのか。


地下鉄では、仮設誘導で“今の出口”を教えた。


なら高速道路も、正式工事までの間だけ現実を一本に揃えればいい。


「仮設ライン」


「はい?」


「中央車線を一本、今の白線じゃなく旧線でもなく、壁がある位置に合わせる」


道路会社の担当者が顔をしかめる。


「規格外です」


「四十二分だけ」


「事故が起きたら誰が責任を?」


冬真の胃が重くなる。


誰が責任を。


この言葉は、怪異より頻繁に現場へ出る。


「調査判断は俺が書きます」


御厨が横を見る。


「資格、仮だろ」


「だから都局承認も必要です」


真壁へ連絡。


数分後、許可が出た。


条件。


速度四十キロ。


大型車分流。


四十二分のみ。


四十二分という制限が決まると、現場の空気は逆に軽くなった。


無限に止める判断より、期限がある方が人は動きやすい。


道路会社は作業員を配置し、警察は速度規制を出し、御厨班は異常地点の監視へ入る。


「久世さん、四十二分後は?」


「駄目なら延長を頼む」


「怒られますよ」


「事故るよりいい」


由奈は頷いた。


仮設ラインを置く。


最初の車が通る。


ブレーキを踏まない。


二台。


三台。


見えない壁は、仮設ラインに合わせて少しずつ形を失った。


四十一分三十秒。


最後の車両が通過した時、冬真の頭から圧迫感が消えた。


「閉じた」


四十二分ぴったりだった。


冬真は時計を見た。


北区マンションでは“十分だけ”をもらった。


あの頃は、時間をもらう側だった。


今は、自分が必要な時間を提案している。


冬真は仮設ラインを振り返った。作業員が規制解除の合図を待っている。


「久世さん、にやけてます?」


「にやけてない」


「じゃあ何で時計二回見たんです」


「四十二分が高かったから」


由奈は意味が分からないという顔をした。冬真にも、うまく説明する気はなかった。


◇ 止めない判断


高速道路案件の報告会で、冬真は初めて「止めなかったこと」を評価された。


「全面閉鎖なら直接損失は推定二・四億」


道路会社が資料を出す。


「限定規制で済んだため、実損は約三千二百万」


新田が冬真を見る。


「差額二億強」


「俺に一%くれないかな」


「会社に言って」


「課長が会社です」


「私は会社じゃない」


由奈が横で笑う。


数字は大きい。


でも冬真が一番気になったのは別だった。


今回、K-0317ではなかった。


水無月ホテルともつながっていない。


普通の、新しい特異事故。


「安心した?」


御厨が聞く。


「少し」


「世界中の怪異が全部お前の過去につながってたら面倒だからな」


「全部俺絡みだったら、さすがに気持ち悪いです」


「自意識過剰で済むなら安い」


「主任にだけは言われたくない」


御厨が鼻で笑った。


冬真は報告書の案件番号をもう一度見た。K-0317でも、水無月でもない。


「……よかった」


「何が」


「普通に仕事が残ってて」


水無月ホテルを終わらせても、月曜になれば別の事故が来る。


その事実を、今日は悪くないと思えた。

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