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第22話 終わっていない地図

由奈が十七件を地図に落とした。


最初はランダムに見えた。


東京の東西南北に散っている。


「これ、距離順に並べたら?」


冬真が言う。


「発生日じゃなく?」


「うん」


由奈が操作する。


点が線で結ばれる。


会議室が静かになった。


十七点のうち十六点が、東京を囲む大きな弧になっていた。


正確な円ではない。東側にだけ空白がある。


残る一点は、その内側にあった。


「ここ」


御厨が指す。


東京東部。


円が閉じるなら、十八件目はそこに来る。


技術責任者が首を振る。


「偶然です。十六点をつなぐ順序次第で、線はいくらでも描ける」


「そうかもしれません」


冬真はすぐ認めた。


無理に意味を作るのは危険だ。


「でも、俺はここ知ってます」


円の中心。


何もないように見える場所。


八年前、水無月ホテルが建っていた。


現在は再開発され、小さな公園とオフィスビルになっている。


「水無月ホテルだけ、輪の中?」


由奈が言う。


「そう。後から起きた十六件が、外側を囲ってる」


冬真は、地図の中央の一点から目を離せなかった。


「発端だけじゃなくて、今も開いてる入口かもしれない」


言った瞬間、頭の奥が痛んだ。


懐かしい非常ベルの音がする。


ジリリリリ。


冬真は目を閉じた。


「久世」


御厨が呼ぶ。


「大丈夫」


「それ信用してない」


「知ってます」


八年経っても、あのホテルだけは体が先に覚えている。


なら戻るしかない。


地図に弧が浮かんだ時、冬真は一瞬だけ興奮した。


物語なら、こういう図形は真相の証拠になる。


でも仕事では違う。


「円っぽいだけで決めない」


自分に言い聞かせる。


由奈が頷く。


「統計的には弱いです。都市部の点群なら形はいくらでも作れます」


御厨が二人を見る。


「夢がないな」


「現場に夢いらないです」


冬真は笑った。


それでも中心に水無月ホテルがある事実は残る。


直感に飛びつかず、捨てもしない。


仮説として持つ。


以前の冬真なら“気持ち悪い”だけで止めていた。


今は、その感覚と証拠の間に距離を置けるようになった。


能力に使われず、能力を仕事で使うための距離だった。


◇ 水無月ホテル


水無月ホテル事案。


発生は八年前。


冬真が十六歳の冬だった。


地方から東京へ出てきていた友人と、安いホテルに泊まった。


午前二時過ぎ。


火災警報。


煙はなかった。


火もなかった。


でも宿泊客全員が同じ非常階段へ誘導された。


七階から下りた。


六階。


五階。


また七階。


何度下りても七階へ戻った。


「当時の報告では“空間反復型特異現象”」


真壁が資料を読む。


「発生から四十七分後、自然消失。宿泊客三十八名を救出。死者一名」


冬真は死者の名前を見た。


友人ではない。


でも覚えている。


非常階段で倒れていた男。


冬真は彼を置いて走った。


救助隊を呼ぶために。


戻った時には死んでいた。


「久世」


御厨の声で現在に戻る。


「無理なら行かなくていい」


「行きます」


「仕事だから?」


冬真は少し考えた。


「それもある」


「他は」


「八年、あそこが終わったことにしてた」


御厨は何も言わなかった。


新田が資料を一枚差し出す。


当時の最終復旧報告。


復旧完了。


因果閉鎖欄は空白。


「あなたが悪いわけじゃない」


新田が言う。


「そういう話じゃないです」


「分かってる」


冬真は報告書を閉じた。


自分を許すために行くわけではない。


まだ危険なら、終わらせる。


今の自分にできるのは、それだけだった。

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