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第21話 呼び出し

東京都特異災害対策局から正式に呼ばれる日が来るとは思っていなかった。


それも、入館証に赤い帯が付く区画へ。


「緊張してます?」


由奈が聞く。


「してない」


「嘘ですね」


「帰りたいだけ」


「それはいつも」


御厨が前を歩いている。


地下二階。


通常の現場班が使うフロアより、さらに一つ下。


会議室の入口で、スマートフォンを預ける。


「本当に機密なんですね」


由奈が小声になる。


「今さら怖くなった?」


「ちょっとだけ」


冬真も同じだった。


室内には真壁、新田、都局の技術責任者、消防連携、国の特異災害監理室から来た男までいた。


冬真の席には名前が書かれている。


久世冬真。


東都災害査定サービス。


契約社員という文字はない。


それだけで妙に落ち着かない。


真壁が会議を始めた。


「K-0317。旧暫定復旧コード。久世君が複数案件の関連を指摘したため、過去資料を再精査した」


スクリーンが切り替わる。


一覧が出た。


「十七件」


冬真が言う。


「そうだ」


真壁が頷く。


「東京で復旧完了とされた事案のうち、因果閉鎖が確認されていないものが十七件ある」


冬真は手を握った。


画面の一番上。


水無月ホテル。


八年間、見ないふりをしてきた名前だった。


機密会議へ向かう前、新田は冬真へ一つだけ念を押した。


「過去を見て、今の判断を壊さないこと」


「どういう意味です?」


「水無月ホテルが出てきても、十六歳のあなたに戻らない」


冬真は少し黙った。


「八年前です」


「分かってる。年齢の話じゃない」


新田は社員証を指した。


「今のあなたは、資料を読む側。被害者だけじゃない」


その言葉を持って地下会議室へ入った。


スクリーンに水無月ホテルの名前が出た瞬間、胸は痛んだ。


それでも席を立たなかった。


過去の自分ではなく、今の自分の仕事として見る。


そのために八年かかったのだと思えば、長すぎる気も、必要だった気もした。


◇ 十七件


十七件は、どれも大事故ではなかった。


死亡者ゼロの案件も多い。


最大でも死者二名。


だからこそ、歴史に残らなかった。


マンション。


学校。


地下鉄。


病院。


商業ビル。


ホテル。


「共通する発生要因は確認されていません」


技術責任者が言う。


「磁場、温度、特異粒子、地盤、建材、時間帯。全部ばらばらです」


冬真は画面を見た。


「発生原因じゃない」


「何?」


「共通してるのは、終わり方です」


全件、暫定復旧。


全件、再発なしを理由に正式終了。


全件、因果閉鎖未確認。


「起き方が違っても、同じ形で放置された」


真壁が頷く。


「我々も同じ仮説だ」


由奈がデータを拡大する。


「でも十七件だけなんですか? 旧制度を使った案件はもっとありますよね」


「三百十四件」


新田が答える。


「そのうち残り二百九十七件は、後年の再調査か自然消失で閉鎖確認済み」


「じゃあ、この十七だけ残った理由がある」


冬真の言葉に、誰も反論しない。


真壁が次の資料を出す。


「もう一つある」


十七件の発生日。


点ではなく、線でつなぐ。


最初の水無月ホテルから、次の案件へ。


その次へ。


発生間隔が少しずつ短くなっている。


十九か月。


十五か月。


十二か月。


九か月。


半年。


三か月。


そして直近は、数週間。


「増えてる」


冬真の背中が冷えた。


今まで十七件だったから、過去の問題に見えただけだ。


もし次があるなら。


それはもう、過去ではない。

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