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終わったはずの事故を、俺だけがまだ見ている  作者: YunCang


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20/112

第20話 誰も悪くないのに

最終事故調査会議。


責任割合は簡単には決まらなかった。


設備会社。


建物オーナー。


保険会社。


行政。


それぞれに過失が少しずつある。


それぞれに正当な事情もある。


冬真の報告は、誰か一社を救う内容ではなかった。


「旧設備動作の異常再現が主因。ただし三年前の復旧判断、設備記録不整合、追加調査未実施が被害拡大要因」


保険会社の担当者が聞く。


「結局、特異災害ですか。設備事故ですか」


「両方です」


「それでは査定できない」


「現場は約款に合わせて事故を起こしてくれません」


言ってから、少し強すぎたと思った。


新田は止めなかった。


オーナー側がため息をつく。


「誰も悪くないのに、八億ですか」


冬真は答えた。


「誰も全部悪くない、です」


それが一番近かった。


最終的に損害は複数制度で分担されることになった。


誰も満足しない。


でも誰か一人へ全部押しつけるよりは正しい。


会議後、新田が言った。


「今日の発言、営業には向かない」


「知ってます」


「調査員には向いてる」


「褒めました?」


「今回はそう」


冬真は少しだけ笑った。


「誰も全部悪くない」という結論は、会議の誰にも喜ばれなかった。


保険会社は明確な原因が欲しい。


オーナーは補償先が欲しい。


施工会社は過失を減らしたい。


冬真の報告は、そのどれにも都合が悪い。


会議室を出た後、由奈が言った。


「嫌われる仕事ですね」


「今さら?」


「でも今日、ちょっと格好良かったです」


「何が」


「誰にも都合よくしなかったところ」


冬真は返事に困った。


褒められるとまだ慣れない。


「給料に反映されるともっと格好いい」


「台無し」


でも本音だった。


正しさだけで生活はできない。仕事として続けるなら、責任に見合う報酬も必要だ。


それを恥ずかしいと思わなくなったのも、成長かもしれない。


◇ 署名しない


復旧完了報告書が回ってきた。


すべての設備は正常。


特異反応なし。


再発防止策実施済み。


署名欄に、冬真の名前もあった。


ペンを持つ。


止まる。


違和感が消えていない。


現場ではなく、書類の方に。


「課長」


「何」


「これ、復旧完了には署名しません」


新田が冬真を見る。


「理由」


「十七件との関連が閉じてない」


「このビル単体の安全確認は終わってる」


「単体なら」


新田は窓の向こうの営業フロアを見た。もう復旧待ちの社員が集まり始めている。


「客は今日中に完全復旧を欲しがってる」


「分かってます」


「条件付きにしたら、保険料も融資条件も変わる可能性がある」


冬真は唇を噛んだ。


「分かってます」


冬真は置いたペンから目を離さなかった。


「うち、この客を失うかもしれない」


冬真はペンを置いた。


「それでも無理です」


部屋が静かになった。


新田は長く何も言わなかった。


やがて報告書を引き寄せる。


冬真の署名欄を二重線で消した。


代わりに自分の名前を書く。


復旧区分。


完了。


その文字を消して、新しく入力する。


条件付き復旧。


「課長」


「私はあなたより給料も責任も高いの」


「でも会社が」


「失ったら営業が取り返す」


新田は書類を閉じた。


「ただし、次に同じこと言う時は証拠を一つ増やして」


「努力します」


「努力じゃなくて結果」


冬真は肩を落とした。


「厳しい」


「給料上げたいんでしょ」


「はい」


「じゃあ働いて」


その日の夕方。


都局から冬真宛てに正式な召集通知が届いた。


件名。


K-0317関連未終結事案について。


会議区分。


機密。

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