↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終わったはずの事故を、俺だけがまだ見ている  作者: YunCang


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
112/114

第112話 切る前に奪われる

横浜港の倉庫には、何も起きていなかった。


 少なくとも、普通の目には。


 冬真には黒線が見える。


 貨物コンテナの扉から一本。

 床へ落ちず、空中で折れ、隣の倉庫へ移っていく。


 その先には、倉庫の奥を横切るもっと太い線がある。コンテナの一本は、途中の結び目から分かれた枝にすぎなかった。


「まだ事故じゃない?」


 由奈が聞く。


「結果が出てない」


「じゃあ何が残ってるんです」


「終わりだけ先に作られてる」


 意味の分からない言葉を、自分で言っている自覚はある。


 それでも黒線はそう見えた。


 コンテナを開ける。


 中身は医療機器。

 破損なし。

 温度異常なし。


 ただし保険記録上は、三時間前に《全損》になっていた。


「事故が起きる前に全損」


 御厨が眉を寄せる。


「買い取り処理まで終わってます」


 由奈が画面を見せた。


「誰が?」


「終端協定系の再保険会社」


 冬真が黒線へ近づいた瞬間、終点が移る。


「また」


 走る。


 隣倉庫。


 白い点が見えた。


 断因。


 落とす寸前で消える。


「……腹立つ」


「顔に出てる」


 御厨が指摘した。


「出しますよ、これは」


 冬真はコンテナへ戻る枝線を掴んだ。隣倉庫を抜ける太い線まで、この九十秒で切れるわけじゃない。まずは目の前の全損判定を止める。


「留因」


 線が止まる。


 御厨が時計を見る。


「九十」


「由奈、移送先」


「追ってます」


「林さんにも投げて」


「もう投げた」


 十五秒。


 二十九秒。


 黒線の向こうで、誰かが終点を作り直そうとしている。


 冬真の左目が熱くなる。


「五十」


「まだ」


「七十」


 由奈が叫ぶ。


「移送先、保険会社じゃない。買い取り会社です!」


 画面に社名。


《CLOSELINE ASIA》


「名前からして嫌い」


 八十八。


 冬真は白点を見切った。


「今度は取らせない」


 断因。


 コンテナへつながる枝だけが、結び目で切れた。太い線は隣倉庫の奥で動き続けている。


 倉庫の端末で、《全損》表示が《判定保留》へ戻る。


 少なくとも、このコンテナの事故は起きなかった。


倉庫の外ではフォークリフトがいつも通り走っていた。作業員は誰も、数十メートル先で“まだ起きていない事故”が移動していることを知らない。


「止めますか」


 港湾担当が聞く。


 冬真は首を振った。


「全部止めたら、相手に気づかれる」


「もう気づかれてるんじゃないですか」


 由奈が言う。


「たぶん。でも、何を見てるかまでは見せたくない」


 御厨がコンテナの影から周囲を見る。


「珍しく慎重だな」


「前に線が逃げたんで」


「学習した」


「俺もしますよ」


 その直後、切らずに残した太い線が隣の倉庫からさらに先へ飛んだ。


 冬真は追わない。


 代わりに由奈へ位置を送る。


「次、どこへ出るか予測して」


「当たったら?」


「俺が先に待つ」


 追いかける側から、待ち伏せる側へ。


 相手が終点を奪うなら、その癖を読む。


 それでも誰かは、事故が起きる前に買っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。