↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終わったはずの事故を、俺だけがまだ見ている  作者: YunCang


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
110/114

第110話 JP-TM-06

帰国は二日延びた。


 その間に月島から返事が来た。


『JP-TM-06、旧記録で一件だけ所有者候補が出ました』


「名前」


『神谷直人』


 冬真はホテルの窓際で立ったまま聞く。


『二〇一八年当時二十九歳。終端実証班。白昼断層の四か月前、水無月ホテルへ非公式投入』


「その後」


『六月二十一日を最後に行方不明』


「死亡扱い?」


『死亡確認なし』


 八年間。


 冬真を外へ押し出した人間が、生きているかもしれない。


「写真あります?」


 送られてくる。


 若い男。

 細い顔。

 右眉の上に小さな傷。


 記憶は戻らない。


 でも胸の奥だけが妙にざわつく。


「違う気がしない」


『証拠にはなりません』


「分かってます」


 月島が少し黙る。


『でも、調べる理由にはなります』


 電話が切れた。


 御厨が部屋へ入ってくる。


「帰国便、明日」


「了解」


「で?」


「神谷直人。生きてるかもしれない」


「会いたいか」


 冬真は窓の外を見る。


 高層ビルの間を、夕立が白く走っている。


「分かんない」


「前も聞いた」


「今も分かんない」


「ならそれでいい」


 御厨は冷蔵庫を開ける。


「俺の水飲まないで」


「名前書け」


「海外でもそれ?」


「海外だから何だ」


 冬真は笑った。


 スマホが震える。


 知らない番号。


 今度は一行だけ。


《JP-TM-06は、まだ終わっていない》


 その下に位置情報。


 東京。


 冬真は画面を見たまま立ち上がった。


「御厨さん」


「何」


「帰ったら、休みなしです」


「知ってる」


写真を見たまま、冬真は母へ送ろうとしてやめた。


 確証がない。


 期待させるのも違う。


 御厨がそれに気づく。


「母親?」


「うん」


「送らないのか」


「まだ」


「珍しい」


「何が」


「お前、気になったらすぐ動くから」


「失礼」


「褒めてない」


 冬真はスマホを伏せる。


 神谷直人。


 八年間、名前すらなかった人間。


 急に顔と年齢がついたからといって、答えになったわけではない。


 むしろ質問が増えた。


 なぜ水無月にいた。

 なぜ冬真を助けた。

 なぜ消えた。

 なぜ今、海外からJP-TM-06を返した。


 会いたい、という感情だけが一番先に答えを出していた。


 海の向こうで始まった線が、日本へ戻っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。