第109話 黒い腕時計の番号
写真の撮影位置はすぐ特定できた。
港の監視塔。
しかし入退室記録には誰もいない。
「また記録なし」
冬真は嫌そうに言う。
監視塔の机に、黒い腕時計が一つ置かれていた。
SG-TM-02とは別。
JP-TM-06。
日本の番号。
水無月ホテルで最後に使われた未返却端末。
「何でここに」
林が手袋越しに持ち上げる。
冬真には、時計から黒線が一本伸びて見える。
過去へ。
逆照。
空港。
東京。
病院。
水無月ホテル。
そして、そこで終わらない。
さらに前。
2017年。
2014年。
2008年。
日本だけではない。
シンガポール。
香港。
ソウル。
同じ腕時計が何度も使われている。
「一人じゃない?」
御厨の声が硬くなる。
「端末は一つ。使ってる人間は……」
冬真は線を追う。
途中で何度も持ち主が変わる。
でも最後の八年間だけ、同じ手に戻っている。
「たぶん一人」
時計の裏面に、爪で削ったような小さな傷。
N.K.
イニシャル。
冬真はスマホを出す。
「月島さんに送る」
送信直前、端末の画面が一瞬だけ点灯した。
表示のないはずの文字盤に、日本語が出る。
《まだ早い》
冬真の指が止まった。
監視塔の窓から港全体が見えた。
コンテナの列。
クレーン。
海。
ここなら、港で何が起きたか全部見渡せる。
「撮るには最高」
御厨が言う。
「見張るにも」
冬真は机の埃を見る。
腕時計が置かれていた場所だけ四角く薄い。
「前から置いてあった?」
林が首を振る。
「昨日点検した時はなかった」
写真を撮った人物かは分からない。それでも、昨日の点検後に誰かがここへ来て、JP-TM-06を置いている。
「見つけさせたいんだ」
「罠でも?」
「罠でも」
冬真は逆照を切り上げ、腕時計の傷と机の埃を写真に収めた。
能力で見えた過去は、他人には確かめられない。
現場に残ったものなら、由奈も林も検証できる。
誰かに誘導されている時ほど、自分の見え方だけを信用しない方がいい。
終端設計室を追ううちに覚えたことが、ようやく癖になり始めていた。
次の瞬間、文字は消えた。




