第107話 留因
由奈は新しい能力名を聞いて、五秒黙った。
『留因』
「悪くないでしょ」
『普通』
「普通が一番」
『逆照の時は厨二だったのに』
「成長した」
『自分で言うな』
冬真はホテルの机に座り、左目へ冷却シートを当てている。
医師からは「視覚疲労」。検査上の異常なし。
能力の副作用なんて説明できるはずもない。
「九十秒固定できる」
『一回だけ?』
「今のところ」
『同時二本は?』
「やってない」
御厨がベッドから言う。
「やるな」
「聞いただけです」
『主任が“聞いただけ”の時、大体やります』
「信用ないな」
『実績です』
冷却シートがぬるくなった頃、由奈から追加メッセージが来た。
《留因、報告書には仮称って書きます》
《何で》
《主任の命名が正式採用される前例を増やしたくない》
《逆照あるじゃん》
《あれは事故》
「ひどい」
御厨がベッドから聞く。
「何が」
「由奈に能力名ディスられてる」
「妥当」
「味方いないな」
でも冬真は少し安心していた。
新しい力を得た、という高揚より。
九十秒しか持たなかったことの方が大きい。
限界が数字で分かる。
なら、その九十秒をどう使うか考えられる。
無限に強くなるより、そっちの方が冬真には仕事として扱いやすかった。
林から新しい異常地点が送られてくる。
今度は港。
貨物管理システムだけが、存在しない浸水を理由にコンテナを自動隔離している。
黒線はまた移動中。
「行く」
御厨が先に立つ。
「目は」
「見える」
「片方だけで?」
「二つあるんで」
「そういう問題じゃねえ」
冬真は靴を履く。
留因。
終わらせる力ではない。
自分が見切るまで、事故をその場に縫い止める力。
少し嫌な感じがした。
終端設計室がやっていたことに近い。
でも一つ違う。
どこへ押しつけるかは選ばない。
動かさないだけだ。
「九十秒、借りる」
「誰に」
「事故に」
御厨がため息をつく。
「返すなよ」
冬真は笑った。
「終わらせます」




