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最終話

「じゃ、行ってきま……って、あれ?」


早めに学校へと向かうため、家を飛び出した俺の目の前にはある者がいた。


「おはよう市奈々井君、相変わらず早いね」


それは椿だった。


今ではすっかりお馴染みのメンバーと化した彼女ではあるが、そんな椿が立っていた事に俺は驚きを隠し切れなかった。


「椿!? 一体どうしたんだよこんな早く……昨日も今日もだぞ!?


お前、俺よりもっと早起きしてるんじゃないか? 大丈夫なのか?」


そして、その理由は今言った通りである。


というか、少し前からそうだったのだが。椿は時たまこうして、早朝に我が家の前にまでやって来ては共に登校しようとする。


俺と彼女とは、別々の学校だと言うのに、だ。


正直、何故そこまでするのかが全然理解できない。だからこそ、俺はやたらとやって来る彼女に対して驚いてしまっていたんだ。


「平気平気、いつもこれくらいには起きてるから。それよりほら、早く行こうよ、もしも途中でダンジョンが生成されたら遅刻しちゃうかもしれないでしょ?」


「ま、まあそうだな……じゃ、行こうか」


だが、平然とそう返す椿に最早何も言えず、俺は彼女と共に歩き始める。


ちなみに言うと、そんな彼女とは相変わらずの関係が続いている……まあ、見れば分かるとは思うが。


もちろん、椿も椿でだ。彼女は俺や亜香里と共にいたり、そうでなければあのヤンキー達といたりと、何だかんだで忙しそう(?)である。


またそのせいか、椿は下校時に待ち伏せしたり、亜香里や俺と一緒に何処かへと出掛けたりする事が減ったような気がする。


とは言え、その代わりに俺達は朝こうして会いも話もしているのだから、何なら体感的には前以上にコイツと接する機会は増えたようにも感じているんだけどな。


それに、正直悪い気はしないし。一人で黙々と歩いているよりかは、今の方が何倍も楽しいのだし。


とにかく。そうして俺と椿は歩を進めていた。他愛もない話に花を咲かせながら。


しかし、暫くすると椿が立ち止まって言う。そこはコンビニの付近だった。


「…………それじゃあ市奈々井君、またね。私あそこに寄ってから学校に行くからさ」


「ん? ああ、何か買い物するのか。じゃあまた……でも椿、今度は休日とか、学校終わりとかに会いに来ても良いんだぞ? というか、お前だってそっちの方が良いんじゃないか?」


「アハハ、考えとく!」


だが、いつもこうなので特筆すべき事はない。


よってこれもまたいつも通りに俺達は別れの挨拶を交わし、椿はコンビニに、俺は学校へと別々に歩き出す。


……けれど、その普段と変わらない日常の中にも違和はあった。


実は、あのコンビニはララドーラさんが少し前に働いていたものと同じ店舗なのだが。


あの人から聞いた所によると、どうやら椿は朝コンビニに来ても、何も買わずに出て行く事がしょっちゅうあるらしいのだ。


それが今も続いているかどうかは分からない。でも正直、彼女が何を思ってそうしているのかは気になる所ではあった。


まずそもそもとして椿の通学路の周辺にも、それこそこの場所より余程近く、便利な位置にあるコンビニなんていくらでもあるのだし。


一度、椿と共にそちらまで行った事のある俺が言うのだから間違いない……まあでも、アイツがよく分からない行動をするのはいつもの事か。


なら、あまり気にしなくても良いのかもしれないな。いやきっとそうだ、それで良いんだ。


という事で気持ちを切り替え、俺は足を早める。


そうしなければならないというか、わざわざ急ぐに値する理由があったからだ。


「それにしても椿の奴、もう少しついて来ても良いと思うんだけどな……この道を曲がればすぐアイツの家なんだし、せっかくなら会ってからコンビニ行けば良いのに」


そして、そんな事を思っている俺が。


「……私も、もっとちゃんと気持ちを伝えれば良かったかな」


椿が胸に秘めた本当の想いに、彼女の呟きに、気付く事は今後一切として無いのかもしれない。




そうして少しばかり歩いた俺の前に、椿と代わるようにしてまたある人物が影を落とす。


「……ごめん、お待たせ!」


「う、ううん! 全然待ってないよ!」


そう、少しオドオドとした様子で話す小動物のような彼女は、幼馴染の亜香里だ。


俺達は軽く挨拶を交わし、同じ道を揃って歩き始める。


ただ以前とは違い亜香里は俺の手を、俺は亜香里の手を。互いに強く、だが相手を想い優しく握り返していた。


そんな亜香里の方に目をやると、普段以上に彼女がオドオドというか、緊張しているのが見えた……


「……フ、フフ」


「か、翔君! わ、笑わないでよ! だって恥ずかしいんだもん……」


それを見て思わず笑ってしまった俺に対し、亜香里はやや不満げにそう言う。とは言え、今の亜香里に怒りの感情はなさそうであった。


……実はベリアとの一戦が終わった翌日から、俺と亜香里は付き合い始めたんだ。


きっかけはあの戦いで、亜香里の本心を俺が知ったからだ。だからこそ、亜香里にもう心配は掛けたくないと思い、守りたいとも思い……俺から告白して、そして亜香里はそれに答えてくれたという訳だ。


正直、相手が亜香里なら素直に伝えられるとばかり思っていたが、その際は死ぬ程緊張した。声が出なかった。


でも、今は想いを伝えられて、しかもそれが叶いまるで天国にでもいるかのような気分である。


ちなみに、俺が異世界行きを取り止めたのもこれが一番の理由だ。せっかく付き合えたんだ、だったらもっと側で亜香里を見ていたいし、この時間を大切にしていたいから……


「か、翔君!! 翔君!!」


なんて夢見心地でいたというのに、突如として亜香里が焦っているかのような声を上げる。


それを聞いた俺が顔を上げると、事はもう始まってしまっていた。


空間が歪んだかと思うと、直後周囲にはこの世界のものではない、また別の景色が映し出される……


ダンジョンが生成されたんだ。


「ど、どうしよう翔君!?」


「亜香里……大丈夫、そんなに心配しなくて良い」


けど、今の俺には恐れも、迷いさえもなかった。


どうせ、これからも俺はこうしてダンジョンを攻略し続けなければならない。


でも、今までの俺とはもう違う。守りたい生活、仲間達、そして愛する人に巡り会えたんだ。


だったら、頑張るしかないじゃないか。だから俺は絶対に負けない、何が来ようが、例えそれが魔王軍の幹部でも、いや魔王本人だってどうにかしてみせる。


そう思えるだけの、大切なものを掴み取る事ができたんだから。


「亜香里、もうこうなったら仕方がない。俺の側を絶対に離れるなよ!」


「う、うん!」


俺達は再び互いの手を強く、硬く握り前へと進み始めた。


ダンジョンの攻略へ向けて。そしていつかきっと来るであろう、俺達の明るい未来へと向けて。

これでおしまいです、読者の皆様ありがとうございます( ´∀`)

また次の自作でもお会い出来たら嬉しいです( ´ ▽ ` )マタネ

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