六十一話 戦いを終えて
体育祭、あのイベントが無事に終わってから幾つかの日々が過ぎた。
とは言っても、特に何も変わらない毎日だ。
相変わらずダンジョンは攻略しなければいけないし。そのせいで学校には遅刻したり、授業を途中で抜け出したりする事も続いている。
そしてもう分かるかもしれないが、俺の評価が低いという事も全く変わっていない。当然先生からも、クラスメイトや同級生達からもだ。
にも関わらず、俺と会話してくれる者達もまた変わらずにいてくれている。
むしろちょっと増えてきたくらいだ。多分、それは俺と話している生徒の友達が友達を呼んで……とまあ、そのような理屈なのだろう。
正直、それについては本当にありがたく思っている……だが、人間とは欲が出てしまうものだ。
俺はもっともっと沢山のクラスメイト達と喋りたいし、更に言えば仲良くなりたい。
でも、それを阻むのがあの憎きダンジョンだ……アレさえなければ、俺は今頃もっと皆と仲良く……なっていた、かもしれないんだから。多分。
ちなみに。そんな話を俺は体育祭が終わった直後に女神様にしてみた事がある。
「女神様、いい加減このダンジョン生成ってどうにかならないんですかね?」とまあ、こんな具合にだ。
すると、あの人からはこのように返ってきた。
「う〜ん、そうねぇ……あ。だったら、こっちの世界に来てみる? 翔君は一度こっちの世界の扉を開いてる訳だから、私の力を使えば一回くらいは行き来できるはずよ。
そこで魔王の所に直接行って、そのまま倒しちゃえばもう二度とダンジョンは生成…………されない訳じゃないって話は、前にしたと思うけど。
でも、そうすれば勝手に棲みついた魔物くらいしか出て来なくなるはずだから、ダンジョン攻略が格段に楽になるのは間違いないわね。
ただ、一つだけ問題があるの、それはね……流石に、今の翔君でも魔王は倒せないと思うから、修行に最短でも二年、いや三年くらいは使わないといけないと思うの。
そうなると、暫くの間はこっちに戻れないと思うけど……どうする? 」
……正直、魅力的な話ではあった。
だって、それが一番手っ取り早いじゃないか。魔王の所に直接出向いて、そこで倒してしまえば良いというだけだろう? だったらチマチマと幹部達を倒したり、情報収集をする手間も省けるという訳だし。
いやまあ、そもそも倒せるかという話になるかもしれないが……それでもだ。
そうして、その話を聞いた俺は……俺は……
『行かない』
俺の下した決断は、この一言であった。
確かに大きなメリットが一つあるとは言え、デメリットが多過ぎるからだ。
俺がこの世界からニ、三年いなくなったとして、学校はどうする? 留年? それとも休学? いやいや、まずその前に捜索願いを出されたりしないかが問題だ。
というか、それどころじゃない。両親に何て説明すれば良いかも分からないし、魔王を無事に倒して帰還できる保証だって何一つとして無いんだ。
……と、まあ色々と述べたが、そのような理由により女神様には悪いがその提案は辞退させてもらった。
まあ正直に言うと、ちょっと寂しいというのもあるしな。せっかく、皆と仲良くできるようになったんだし……
そう、俺はこの世界が好きなんだ。例え俺だけが毎日ダンジョンを攻略せねばならなくとも、それが茨の道なんだとしても。
俺はもう少し、今の生活を楽しんでいたいんだ。
それに……
そして、そんな俺の決断を女神様はにっこりと笑って受け入れてくれた。
また、「大丈夫、これからは私も一緒にいるから心配しないで。二人ならきっとどんなダンジョンでもすぐに攻略できるわ」なんて事も言ってくれた。
何と言うか、まるで子供を見守る本物の母のように……あ、それで思い出したのだが。
体育祭以降、女神様は何か様子がおかしいというか、以前と少し変わったような気がしてならない。
何だか、ここ最近の女神様はずっとこんな感じで、ダンジョン攻略にも協力的だし、ゲームの頻度もめっきりと減っているのだ。
一体、どういう風の吹き回しなんだろう? 例のベリアとの一件によって、何かしら心境に変化があったんだろうか?
……いや、もしかするとそっちではなくて、〝アレ〟かもしれないな。
そして、その〝アレ〟というのはララドーラさんの事だ。
実はあの人、前にアルバイトとして働いていた近所のコンビニを辞め、今はこれまた近所のスーパーでパートとして以前よりも長く働いているんだ。
ちなみに、そんなララドーラさんは職をパートに変えた理由を「私も、もっと翔君の力になれたらって思ったのよ、だからまずすぐにできる事から始めようってね、ただそれだけよ!」なんて話していた。
多分、あの人も例の一件を受け、良い意味で心変わりしたんだろう……けど、ララドーラさんには以前から充分な程助けられているし、正直そこまでしなくても良いとは思っている。
でもまあ、無理に言う必要はないか。多分ではあるけど、あの人の背中を見てというか、とにかくそのお陰で女神様も変わった事だし……おっと。
なんて考えていたら、そろそろ家を出る時間が近付いて来た。
ただでさえ、俺は朝っぱらからダンジョン攻略をしなければならない可能性があるんだ。だから自身で決めたその時間には、一分一秒たりとも遅れる訳にはいかない。
そうして、俺は家を飛び出し学校へと向かい始めた。




