第九章③ パリ総司令部
ピエールが霧のパリを駆け抜けている頃、フランス海軍総司令部では奇妙な出来事が起きていた。一羽のワタリガラスが建物の窓を順番に回っては窓辺に止まり、室内を覗き込んで違うと判断すると飛び去って窓から窓へ移動していく。そして、ある執務室の窓の外でカラスは舞い降りて片目で覗き込んだ。
一方、エリオットは朝の執務の最中、机の上にはいくつもの指名手配書が並んでいる。エリオットはそのうちの一枚に視線が止まった。
五鬼衆の一人、ルキフェル。似顔絵の男は顔にいくつもの傷を刻んでいた。参謀本部の報告によれば、この男は一味の中でも特に危険な存在らしい。剣術の腕は桁違い、悪魔の名を持つ海賊。エリオットは手配書を手に取って眺めると顔を上げて呟く。
「……緑か」
似顔絵の瞳は緑色で描かれていた。
——ラウルも、緑の目だった。
鮮やかな緑色に引き寄せられるように、エリオットの脳裏に十九年前の夜が蘇る。
……なんか、今日は優しいよね。ずっと。
ラウルの声と翡翠色の瞳。そして、独りで置いていった自分の過ち。意識が再び浮上し、エリオットは手配書をもう一度見下ろした。
「……五鬼衆」
かつてフランソワの部下だった者たち。その中でも、緑の目を持つルキフェル。エリオットはわずかに眉を寄せた。
——この男もまた世間の目から隠れて生きてきたのだろうか。
そんな考えが一瞬だけエリオットの頭をよぎるが、すぐに消えた。所詮は海賊、国家の敵。フランスの海を守る者として捕えねばならない。エリオットの目に決意が灯った時、コツコツと規則正しい音が彼の背後から響いた。
「……ん?」
エリオットが振り返ると窓の外に一羽の鳥が止まっていた。カラスだ。……その辺のカラスにしてはやけに大きい。エリオットは興味を惹かれ、椅子から立ち上がると窓へ近づいて開けた。普通なら逃げるが、目の前のカラスはじっとこちらを見ている。エリオットの背後からアルフォンスの声が飛んだ。
「触ったら病気になりますよ」
「分かってるよ」
エリオットは肩をすくめると鳥を眺める。
「それにしても……こうして見ると可愛いな」
ワタリガラスは少し身を乗り出すとエリオットは眉を顰めた。
——人慣れしすぎている。
その時、鳥の胸元に何かが見えた。細い革のハーネスと小さな筒。エリオットの目がわずかに細くなって脳裏にある知識が浮かぶ。伝説の情報屋コルヴァン、ワタリガラス、伝書。
「……あり得ない話でもないか」
エリオットが手を伸ばすとアルフォンスが慌てて叫んだ。
「あー! だめですってば!」
エリオットは鳥の胸元、ハーネスに取り付けられた小さな筒の蓋をひねるとカチッと乾いた音がした。筒の中には丸められた小さな紙が収まっている。
「……やはり、か」
エリオットは眉を顰めて人差し指を筒の中へ差し込んで紙をつまみ出した瞬間、紙がエリオットの手に渡ったと理解したのかワタリガラスは突然羽を広げてバサッっという力強い羽音を執務室に響かせた。
「おっと」
エリオットが思わず一歩退くとカラスは窓から飛び立った。窓辺には黒い羽が数本、ふわりと残され、エリオットはしばらく空を見上げて影が完全に遠ざかると窓を閉め、手元の紙へ視線を戻して丸く巻かれたモノを広げた。便箋だった、達筆だがただ美しい文字ではない。文字の高さが均一で筆の運びに無駄がない、インクの掠れも迷いもない。
「……なるほど。まず賢い」
書き手は知的、おまけに情報を扱う人間だ。文字の払いの速度と筆圧の変化、情報処理に慣れた者の手だが、何よりも問題なのは内容だった。エリオットの目が紙面を追う。まるで冬の彫刻のように読み続け、執務室の空気が冷えていく。彼の机の前ではイザベルが腕を組み、鋭い視線でエリオットを見据えている。彼女の隣ではアルフォンスが所在なげに立ち、落ち着かない様子で手袋の指を弄っている。次に静寂を破ったのは扉を叩きつけるような爆音だ。
「道を開けろッ!!」
怒号と共に扉が乱暴に開かれた瞬間、ベルリオーズが転がるように部屋へ押し込まれた。ルソーが入室するなり、すぐさま一通の手紙を取り出すと英語で書かれた文面をイザベルに見せびらかした。
「イザベル、見てろ。証拠はこれだ。オレが直接訳す。内容はこうだ」
ルソーは明確な発音で癖のない英語をそのまま流暢に読み上げ始めた。
「親愛なるエドガー・ロジャース殿。手紙、拝見しました。取引案についても承知しました。だが、あれは危険すぎる。リスクが高すぎて、こちらの生業に関わる。今はまだ動かない方がいい。港の手筈が整い次第、再度連絡します。——コルヴァン」
読み終えたルソーはぴたりと手を止めた。
「……言い逃れはできんだろ。名前もはっきり書いてある。コルヴァンと名乗って、エドガー・ロジャースに連絡を取っていた。文面から見て定期的なやり取りがあった可能性もある。……なあ、ベルリオーズ」
その場にうずくまるベルリオーズは唇を震わせ、乾いた咳のような声を漏らした。
「ち、ちが……違うんです、それは、その……昔の名義で、つい……っ」
ルソーが無言で彼の肩を突いた瞬間、エリオットが手を上げて制した。
「……ユルリッシュ、知っているかい?」
エリオットはまるで雑談のように語り出した。東方の国には新年の挨拶状を送る習慣があると。だが、彼の手元にあるのはそうした穏やかな手紙ではなかった。
「……ありがとう、ユルリッシュ。君の報告が“証拠”なら、私の手元にあるのは“告発状”だ」
エリオットはセドリックの告発状を読み上げた後、便箋をベルリオーズに差し出した。
「父親として、情報屋として、そして君の過去を知る者として……彼は君を差し出した」
ベルリオーズの顔から血の気が引く。
「ま、待って……大元帥殿、俺は、その……!」
「——スリル、だろ?」
ルソーの低い声が落ち、ベルリオーズはついに言葉を失って震えていたが、やがて諦めたように長く息を吐くと膝をついたまま呟いた。
「……話します。全部、話します」
ルソーは腕を組んだまま睨み下ろし、エリオットは頷いくとベルリオーズの口から掠れた声がぽつりぽつりと落ちていく。
「……エドガー・ロジャースとの出会いが、すベての始まりでした」
だが、その出会いの背景は彼が思い描いているものとは少しだけ違っていた。彼の目線のみでは全てを明らかにできないので、ここでは視点を引いた上で改めて過去を整理するとしよう。なに、これまでの断片的な情報を今一度形にして繋げるだけだ。人によっては……これが答え合わせとなる。
去年の春、サン・マロの港は騒然としていた。沖合では一隻の海賊船が黒煙を上げながら沈みつつある。帆柱には三本の剣を交差させた旗、見物人たちが口々に叫んでいた。
「エドガー・ロジャース海賊団だ!」
「あれ、旗の隅に“Ⅴ”の字が……斧のマルクがいる第五船団じゃないか!」
「まさか、やられたのか……!?」
人々の視線は燃え落ちる船へ向けられていた。だからこそ、誰も気づかなかった。小さな舟を器用に操り、寂れた桟橋に接岸した一人の男に。三角帽を深く被ったその男、エドガー・ロジャースはまるで港を散歩しているかのような足取りで街へと歩き出した。大海賊が堂々と港を歩いているのに、誰一人として気づかない。その時、ただ一人声をかけた人物がいた。
「……三本の剣。実に意味深な旗印ですね」
ピエールだ。粗末な外套、袖口から覗くのは金の腕輪。彼は軽く帽子を持ち上げると、エドガーは思わず目を細めた。
「再現しませんか?」
「何の話だ」
「戦争ですよ」
ピエールはまるで世間話でもするように声を落とした。
「戦争は情報が肝心です」
「情報屋を味方につけましょう」
「……誰だ」
エドガーの視線が揺れ動き、ピエールは笑いながら指を軽く立てた。
「伝説の情報屋コルヴァン、その末裔がいます。ブレストに、ベルリオーズ・モンレザール。海軍の書記官ですよ。しかも中央の」
「……面白い」
エドガーが鼻を鳴らすとピエールの笑みが深くなる。
「もしブレストへ行くなら接触してみるといい。彼は今、出張任務中です」
ほとんど運任せの賭けだったが、ピエールは内心で案外ちょろい男だなどと思っていた。二人が三日かけてたどり着いた、ある夜。エドガーはピエールと共にブレスト港を訪れ、ベルリオーズと接触する。そこからすべてが始まった。協力の要請、情報のやり取り、密かな書簡。だが、ベルリオーズは知らない。エドガーがその後すぐダラス家の密輸交易船に乗ってトルチュ島へ帰ってしまったことを。そして、ベルリオーズがやり取りしていた手紙の相手が、すでにエドガー本人ではなかったことも。情報はすべて別の場所へ流れていた。
パリに座すダラス家、シルヴェストルの元だ。ベルリオーズはずっとエドガーと取引しているつもりでいた。実際にはエドガーを装ったシルヴェストルとやり取りを続けていたのだが、そんなことは露ほども知らない。その頃、当のエドガー本人はというとピエールの存在すら半ば忘れ、再び略奪の航海へと出ていた。ただ一つだけ覚えている、ピエールが言っていた言葉。
「自分は情報屋、旧ブルボン派に仕える者だ」
——すべては去年の春から仕込まれていたこと。
しばらく沈黙が落ち、ベルリオーズの言葉は部屋の奥深くまで染み込むようにして消えていった。エリオットが目を伏せたまま呟くように言う。
「——去年の春、か。大海賊フランソワが討たれるよりずっと前。……なるほど、君はエドガー・ロジャースとずいぶん交流していたわけだ」
エリオットは顔を上げてベルリオーズをじっと見据える。
「思っていた以上に、根が深い。彼らの掌で踊らされたのではなく、君はその輪の中に、自ら足を踏み入れていたのかもしれないな」
エリオットの横でイザベルが硬い声を発した。
「許しがたい背徳行為です。……総司令部において機密を扱う立場にありながら、それを売った。……今後、参謀本部と連携して正式な処罰を決定しましょう」
ルソーが腕を組んだまま不意に一歩、前へ出てベルリオーズを見下ろす。
「……なあ、こっちの手紙に書いてた“取引”について、聞かせてくれねえか」
それは彼が奪い取った——いや、奇跡的に拾い上げた——エドガー宛ての未送信の手紙のことだった。ルソーの獲物を追う鷹のように鋭い目を正面から受け止めたベルリオーズの身体が小さく震える。
「…………っ」
ベルリオーズは口を開きかけて何かを言おうとしたが、喉が張りつき声が漏れなかった。彼の顔はいつもより青ざめて目は涙に滲み、喉元を押さえて喘ぐように肩が上下する。ひと息吸い込もうとしても吐き出す声が絞り出せない。恐怖がようやく“取り引き”の重大さを自覚させていた。静まり返る部屋の中、ルソーがひとつ息を吐いて前のめりになる。
「……オレの聞き間違いでなければ、だがな」
彼は机に肘をつき、手にした紙片を軽く叩きながら睨むようにベルリオーズを見据える。
「これは、お前がその場で書いた手紙だろう? なら……当然、エドガーがお前宛てに書いた手紙があるはずだ。オレが見つけたのは“返事”だけだ。……“本体”はどこ行った?」
ベルリオーズはびくりと肩をすくめると乾いた声で曖昧に答え、ぎこちなく視線を泳がせる。
「あっ、えっと……持ってた……はずなんですけど、た、たぶん……奪われました。……もう一人の、金の腕輪の男に」
ルソーの眉が一瞬跳ね上がった。
「は?」
「証拠隠滅の、ため……でしょうね……俺はもう、持ってません……」
ベルリオーズはしどろもどろに言いながら己の指を握りしめ、視線は俯いて額からじわじわと冷や汗が滲み出ていた時、イザベルの怒声が雷のように部屋を打ち鳴らした。
「ふざけないで! その手紙の内容を今すぐ、ここで吐きなさい!」
凍りついた空気の中でベルリオーズは一瞬飛び上がり、反射的に背筋を伸ばした。
「ひっ……!」
彼は情けない悲鳴を漏らして涙目のまま顔を歪めるも喉元に刃を突きつけられたような緊張の中で唇を震わせながら、ようやく一言を絞り出した。
「……戦争です。最初の頃は、隊の位置情報や日誌の閲覧履歴ぐらいで済んでた。けど……そのうちエドガーはマクシミリアン・ブーケ隊と、その他の一部隊の動向を詳しく知りたがるようになったんです」
言いながらベルリオーズは手を宙に泳がせた。
「大海賊フランソワが討たれた直後からでした。俺……てっきり、マクシミリアン・ブーケ隊に復讐でもするつもりなんだと思ってた。だから、俺は……奴の目的を完全には理解してなかったんです……」
その瞬間、彼の表情が変わって声が一段甲高くなる。
「——けど! 今日の手紙は違った! 復讐じゃなかった! あいつ、書いてたんだ! 新しい取引をしようって! それも……“戦争”だって!」
凍りつく空気の中、ベルリオーズは両手を握りしめた。
「“復讐だけじゃ満足できない。今度は海軍そのものに、全面戦争を仕掛ける”って……! 紛れもない、自分の言葉で……俺はこの目で読んだんだ!!」
ルソーは肩をピクリと動かすだけで怒りよりも驚愕を滲ませ、イザベルの目が一瞬鋭く光る。机の上の書類がわずかに揺れ、室内に重苦しい沈黙が落ちる。その沈黙を破ったのは、やはりエリオットだった。
「……洗いざらい話してくれて感謝するよ、ベルリオーズ。もちろん、許したわけではないがね」
エリオットは淡々と目の前の男を海軍の一部として最後まで扱うように平坦な口調で言った。ベルリオーズは苦笑とも呼べぬゆがんだ笑みを浮かべて頭を下げるとルソーが鋭く詰め寄る。
「おい。手紙には何か他に具体的なことは書いてなかったのか?」
「……いえ。特に……ありませんでした。戦争がしたい、とだけ。ただ、今日も……定期報告の写しを奴に流してしまったので……おそらく、それを参考に襲撃先を決めるかと……」
ぎこちない言い回し。すでに白状しているとはいえ、まだ“言いづらさ”が滲む。ベルリオーズが言い終えるや否や、ルソーのこめかみに青筋が走った。
「てめえ……くそ、許さねえからな……あの金ピカ腕輪野郎も」
吐き捨てるような低声に拳を握りしめるルソーの様子に、傍らのイザベルでさえ僅かに肩を竦めるが、エリオットは冷静だった。
「……まあ、目星はつくさ。おおかた、狙いはブレスト司令部だろうな。補給線、艦艇の集積、予備兵……選ぶならそこしかない」
エリオットの視線は窓の外に向いている。アルフォンスの目が急に輝きを取り戻し、まるで冬の眠りから目覚めたかのように息を吹き返した。
「なにより、ブレストにはマクシミリアン・ブーケ隊もいますしね!エドガーにとっては、彼らに復讐も果たせる──そんな格好の的ですよ!」
ベルリオーズの証言によって、計画の輪郭が浮かび上がった。エドガー・ロジャースは復讐ではなく、海軍そのものに戦争を仕掛けるつもりでいる。そして、その矛先が向く先も明白だった。ブレストは海軍にとって最も重要な拠点の一つだ。イザベルは即座に命令を下した。各司令部、参謀本部へ緊急通達と警備体制の最大強化に備えることとなる。ルソーも低く唸る。
「ブレストにはオレの部隊もいる。来るなら歓迎だ」
その時、エリオットが厳かに口を開く。
「私もブレストへ向かう」
大元帥自ら前線へ出る空気にイザベルが鋭く問いただす。
「パリはどうするの?」
「優秀な者たちがいる。任せておけばいい。敵は総攻撃を仕掛けると言っている。ならば海軍の指揮官として、正面から受け止めるだけだ」
長く執務室に籠っていた男が再び戦場へ戻ろうとしている。こうして方針は決定された。海軍の主力はブレストへ集結し、ベルリオーズもまた同行することになった。もちろん、監視付きで。エリオットは窓の外を見つめた。灰色に霞むパリの街並みの向こう、さらに遠く海の方向へと視線を向けて。彼の瞳は深海の底のように沈んだ悲しみが鈍く光っていた。そして、その奥でメラメラと燃える決意。彼の手元にある一通の手紙、十四代目コルヴァン——セドリック・モンレザールの名に一瞥をくれ、エリオットは呟いた。
「……父と子か」
一瞬だけ、記憶がよぎる。
幼い息子の顔、緑色の瞳を持つ少年ラウルと穏やかな笑みを浮かべるミレーユ。自分が屋敷を出るときのことをふと思い出す。急ぎの用件ですぐ戻るつもりだったが、その夜二人はこの世を去った。守れなかった、守るべきだったのに。エリオットは息を吐くと胸の奥に沈み続けていた後悔が波打つが、その感情はもう彼を縛らない。守れなかったものは、戻らない。
だからこそ——今度こそ、守る。
彼はゆっくりと顔を上げた。ルソー、イザベル、アルフォンス、そしてベルリオーズ。彼は目の前の者たちへ視線を巡らせて声を強める。
「よかろう。今すぐブレストに向け、出発準備を始める。敵は我々に総攻撃を仕掛けると言っている。時間はない」
エリオットはベルリオーズに視線を落とし、指を一本上げて告げる。
「ああ、それから、君のカラスも同行したまえ」
ベルリオーズは目を見開き、驚きと戸惑いのあまり言葉を失うもすぐに理解したように顔がほころび、胸の前で手を合わせた。
「え、ええ……! ありがとうございます。ノクターも、弟分も一緒に行けるなんて……」
エリオットは微笑みつつ声に力と重みを込めた。
「そのカラスは君の一族にとって宝であり、一員であり、なにより君にとって家族同然だ。家族は守るものだ。何よりも大切にする──その覚悟を忘れるな」
ベルリオーズは深く頭を下げた。ブレストには鈍色の海が広がる、その向こうに待つのは容赦なき嵐……否、戦争そのものだ。エリオットは全員の視線を受け止めたまま声に力を込めて断固として言葉を紡ぐ。
「そして——我々が何よりも守らなくてはならないものは、民衆たちだ。ブレストで、何も知らぬ彼らの命、生活、希望……その全てだ。敵は海軍そのものを、我々の街を、そして民をも巻き込み、破壊しようとしている。だが、我々は立ち止まらぬ。恐怖に屈せず、混乱に呑まれず、ただ守るべきもののため、前へ進むのみだ。——民の安全を守るため、我らは戦う! そして勝つまで戦い続けるのだ!」
エリオットの言葉は雷鳴のように部屋を貫き、全員の心に火を灯した。ブレストの港に迫る影はまだ見えないが、部屋の中の者たちは知っていた。この瞬間から戦争はすでに始まっているのだと。エリオットの瞳は凍てつくような緊迫の中にも揺るがぬ使命感を宿した。
「行くぞ。我らの街を、我らの民を、そして我らの誇りを、守るために!」
エリオットの叫びとともに窓の外に射す薄曇りの光が一層輝きを増す。
こうしてパリにおける情報戦の幕は閉じられ、次の激しい戦いへの序章が刻まれたのだった。




