Realiser episode 006 才能
堀川 翼は、『努力』が嫌だった。正確には報われないからだ。
二十四歳フリーター音楽をやっている。
ギターを始めて六年。動画を観て研究し、学んだ。ライブにも出演したことはある。でも、でも、何かが足りないと常に感じているのだ。
同じ時期に始めた知人の佐々木は、半年で自分を超え、一年で、ライブハウスの店長に声を掛けられた。
才能なのか、たまたまなのか・・・。真実は不明だ。努力ではどうにもならないと、思い込んでいる。
アルバイトの帰りの深夜、屋上の駐車場に戻ろうとエレベータに乗った。"R"と言う屋上を示す文字が、空白になっていて、その上の文字があった。思わずそれを押してしまった。
「お待ちしておりました、堀川様」
いつもの様子で密話はソファーへ案内した。
「あの・・ぉー、ここは最上階なんですか?」
「最上階といえば、そうなりますなぁ、けど、その上なんです」
・・・・・
「あなたは、何か強い意志があり、ここへ導かれたのだてと、そう受けとめています」
「はぁ、音楽の才能はほしいですね」
とぽつりとつぶやいた。
「とにかく、練習、練習・・・天才には勝てないですよねきっと」
「それが悔しいんですか?」
「悔しいというより、続けるのに、疲れてしまって、いつまで続けるのか嫌になりそうで・・・」
密話は頷いて聞いていた。
「それ叶えてさしあげますが、条件がありましてあなたから、何かを渡していただきます 何かというのは叶った時に、後日わかります、どうされますか」
「音楽と関係のないものなら、何でも」
密話は何も言わなかった。
翌日から、早速変化があった。ギターを触った瞬間に音が見え、どう弾けば人の心に届くか、理屈ではなく、指が知っていた。
一週間でデモ音源を作り、ライブハウスに、持ち込んだ。
店長は最後まで音源を聴いた。
「来月出てみるか?」
三カ月後、SNSに上げた動画が広まり、六カ月後、レーベルから連絡がきた。
佐々木と同じ場所に堀川は、半分以下の時間で昇った、夢のような出来事だった。
ある夜楽屋で、気づく。弾くことはできる。既存の曲の演奏もできる。
何か作ろうとすると、空っぽだった。歌詞がでてこない、メロディーが浮かばない・・・。
プロデューサーに言われた。
「堀川君の演奏は完璧だよ、でも、何を伝えたいのかが、見えないんだよなぁ…」
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その夜堀川は、昔の音源を聴いた。下手で、音程も・リズム、全部悪い。うまく弾けなくても、続けられた理由、伝えたくて伝えれなくて、それでもギターを手放せなかった気持ちが全部ごっそり消えていた。
代わりに差し出したものは、音楽を続けていた理由だった。




