Realiser episode 004 理想の顔
天柱幸裕は、自分の顔が嫌いだ。
二十九歳、ITエンジニア、リモートワーク中心の生活で人と会う機会は少ない。
でも、特別醜いというわけでもない。ただ印象がない、うすい。平均的な目、ありふれた鼻、よくある輪郭、会議でカメラをオンにするたびに、自分だけ存在がないように思ってしまう癖がついていた。
多人数の旅行で、観光地先で、写真を撮ると、一瞬どこに映っているのかわからないこともよくある。
整形の情報を収集し、実行しようと思ったが、できなかった。
誰かに"カッコイイ"と言われてみたかった。ずっと心の底でその思いは強く棲み付いていた。
深夜のオフィスビル、終電を逃して、自動販売機で珈琲を買い、仮眠室へ向かうためにエレベーターに乗った、フロアを選ぼうとして、読めない文字があった。昨日まで見たことはなかった。あれ?なんだろう、なんて思っていたら、そのボタンを押していた。
「お待ちしておりました 天柱幸裕様、こちらへ、どうぞ」と密話勇造は穏やかな雰囲気を漂わせていた。
天柱は、案内されるまま、ソファに座った。恥ずかしそうに自分の顔を触った。
「ここは、何ですか、人とあまり会うことがないので、不安なんです」
「ここは架空戒です、強い意志や、願い、欲望を持っている方が引き寄せられるフロアです、あなたも何かあるんですね・・・」
天柱は大きく深呼吸して、応えた。
「顔を、変えたいです」
「どんな顔に・・・?」
「・・・わからない、今の顔じゃない顔がいい」
密話は少し沈黙した。
「承ります、ただし条件がありまして、あなたのなかの何かをいただきます、叶えた後に、何かと言うことが、わかる仕組みになっております どうされますか?」
「はい、わかりました、お願いします」
翌朝、天柱は別人になっていた。鏡を見て声が出なかった。彫の深い目元、すっきりしたあごライン、高い鼻筋は、街ですれ違えば、ほぼ振り返られる顔になっていた。
自分が描いていた、『理想』そのもの、いいゃ、それ以上で大満足していた。
いつものオンライン会議で、カメラをオンにすると、会議の空気が変わった気がした。はじめて参加する取引先担当者の態度は柔らかくお馴染みのメンバーも何となく違って感じた。
コンビニの店員は、いつもより丁寧に接客してくれた。全部新鮮そのものだった。そう、三カ月くらいは・・・。
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あれっ?と思ったのは4カ月過ぎた頃。天柱はコードが書けなくなっていた。あ、違う、正確には理論の組立が、遅くて、前より時間が必要になっている。バグを見つける作業が鈍い。1時間で終わっていた作業が3時間もかかる。
上司から「最近どうした?」と言われた。
同僚に「天柱さん、雰囲気変わったけど、仕事の作業が、別の人みたい」と驚かれた。
ある夜自分で書いたコードが読めなかった。自分で書いたはずなのに、まるで別の人が書いたものを読んでいるみたいだった。
そっかぁ、天柱は思った。別の人間になってしまったからか・・・。
顔を変えただけのつもりだった。
架空戒が作ったのは、その顔に合う別の人間だった。天柱が十年かけて磨いてきた"エンジニア"としての経験値は古い顔と一緒に更新されたのだ。
天柱が代わりに差し出したものは、十年分の自分の武器だった。




