Realiser episode 011 密話勇造~あなたは何者~
密話勇造には、始まりの記憶がない。
気が付いた時にはここにいた、架空戒の部屋に。
琥珀色の証明、低いソファ一輪の白い花、エレベーターの扉。
時間の感覚、昼夜もない。ただ扉が開くたびに、誰かが来る。
密話は案内し、話を聞き、願いを叶え、代償をもらう。それをただ繰り返してきたのだ。
ある夜、密話にとって、夜という概念はないが、強いて言えば"夜だ"。
いつものように扉が開いた、入ってきたのは若い女性。
二十代半ばくらい、髪が短い、目が鋭い、ソファに座らず、入口の付近に立ったまま、
「あなたは何者ですか?」
初めて質問された問いに、ちょっと戸惑う密話。
「密話勇造と申します、架空戒の・・・」
「案内人でしょ、知ってるわ、じゃなくて、人間ですか、ロボットですか、宇宙人ですかってことです」
・・・・・
密話は応えなかった。
その女性は続けた。
「私の母がここに来て、二十年前に、若返りを願い、代わりに母は私の顔を忘れました」
「はい、それが代償ですね」
「私は母に顔を覚えてもらえなかった、何故なのか、ずっと、疑問を持ち、生きてきたんです、母が死ぬ前に、ここの場所を告げたのです」
「人の願いを叶えて、代償を取る、その代償はどうしているんですか?」
「私が頂いています、記憶・感情・情熱・切実・・・思う力を」
「なぜ?」
「私にはそれがないからです」
女性は黙った。
「私には最初から何もなく、願い・記憶・感情も、だからお客様から少しずついただいています」
「あなたが欲しいから取ってるんですか?」
「いいえ、お客様が自ら差し出すから貰っているのです 私は条件を提示するだけです、何を差し出すかは、架空戒が決めるのです 私ではない」
「架空戒が決める・・・そっそそそんなぁ」
「はい、心の奥底に隠した本当の欲望が強いほど、代償も深くなります、架空戒はその人の最も手放せないものを正確に知っているのです」
「あなたはかわいそうな存在ですね」
密話は首を傾げた。
「そうでしょうか?」
「人の大切なものを集め続けて、それでも何も感じられないんでしょう」
密話は応えなかった。
その部屋の白い花を一度見て、女性はエレベーターへ向かった。扉が開き、乗り込む前に振り返った。
「私は何も願いません」
「存じております」
密話は言った。
エレベーターの扉が閉まり、密話はひとりになった。
いつも通りの、静かな部屋いや、フロア。
琥珀色の照明、低いソファー一輪の花。
何も感じなかった、感じられなかった。
それが、代償を集め続けた果てなのだろうか。
最初からそうなのか、密話自身にも、わからなかった。




