Realiser episode 012 最終話
天楼タワーが消えた。ニュースにはなっていない。
気付いていないのか、気づいているフリをしているのか、あの巨大複合ビルが建っていた場所はある朝、何もなく更地でもなく、ただなかったことになっていた。
気付いたのは数人だ。
相田健也は通勤中に足を止めた。いつもあったはずの場所に、空がみえたから。
奈緒と言う名前を、今もおもいだせない。でも何か欠けている感覚だけは、ずっとある。
名前のない喪失感、それだけが残っていた。
岡橋美幸は、今日も出社。白川は別の部署にいる。廊下ですれ違っても、会っても何も感じない。憎しみも怒りも何もない。それは穏やかなはずなのに、仕事する理由が今日もみつからないままだ。
都角春子は、鏡を見た。二十三歳の顔が映っている。笑い方は忘れてしまっている気がした。
天柱幸裕は、今夜も眠れなかった。
かつて自分が書いたコードを読み返したけど、やはり、読めなかった。それでも捨てられずにいた。
多和田睦は、今朝も娘に「おはよう」と言われた。「おはよう」と笑って応えた。
堀川 翼は、昨日のライブでギターを弾いた。控室で弦を触ったとき、初心の時の感覚が甦りそうだった。
有森紘丸は今日も何もせず、それでいいと思っていた。
魚住和也は今朝も奈々と目が合った。運命を感じたと同時に見ず知らずの人にも"運命"を感じていた。
大里朋利は、今日も誰にも気づかれなかった。
木曽村紀子は、用もないのに、知らない道をあるいた。すれ違った人と目が合い、会釈した。そのことだけ、胸に刻まれた。
架空戒は消滅していた。代償は残ったままで。
願いを叶えてもらった者たちは、今日も欠けたまま、失ったままで生きている。
架空戒が恐ろしいのは、誘う場所があったからではない。
自ら願った人間が、自ら差し出したその事実が消えない事だ。
密話勇造は、今どこにいるのか、誰も知らない。
深夜のエレベーターに乗った時、ふとボタンが一つ多く見える気がするという、話をする人がいる。
それが見えたとき、あなたの胸の中には、誰にも言えない願いがあるはず。
『押す・押さない』は、あなた次第。




