02 この世界にはもう随分前から管理者が居ない。そのせいでアップデートされてない。だいぶあちこち、ガタがきてる
自分もズボラなので、自分達の肩書きについてなんて一度も考えたことなどない。
「それよりも、なんでもできるようになったんですから、なにかしたいんですけど」
「お前は相変わらず、子供みたいなことを言うやつだな」
「私じゃなくても、皆こんなもんでしたよね。久々ですし、使いたいです」
「……好きすればいいだろ」
「やったー!」
服装を先ず変化させる。ティファやロゼロだけに見えるので傍目からは変化してないように見える。今はそれでいいのだ。
家に帰ってそれを寄越せと言われるだろうから。彼ら、元家族から防衛するには相手から見えないのが一番。
リクルートスーツに身を包むティファを見ながら、彼女が彼の方を向き、お揃いにしようと声をかけて目を丸くする。
「お揃い?」
「先輩もリクルートスーツに」
「おれはこのダボっとした服が気に入ってる」
「見た目だけですから。側だけです側だけ」
見た目のアバターを変えるだけなので、ティファとのお揃いが即可能。ワクワクした顔を向けられる相手は渋々着替え欄にある服を選んで、リクルートスーツに見た目を変える。
「あとはサングラスをして」
「待て」
「はい?」
「その見た目はダメだろうが」
「そんなの言い出したら、シークレットサービスとかどうなるんですか」
「サングラスじゃなく、適当に違うもん付けろ」
ティファはお揃いにしようと思ったけど、それは嫌らしい。
「この世界でこの格好は浮くな」
「浮いても構いません。この世界の人間や生物と私たちは別次元の存在ですからね。区切りとしてはちょうどいいじゃないですか」
そう語るティファは上にいた頃よりも濁った瞳を更に強く動かす。
「そうだな」
ロゼロは失われた瞳の煌めきなど気にしない態度で笑みを返す。
「ねえ、先輩、次はなにします?」
どんどん楽しくなってきたのでなにをしようかと常に頭の中が楽しさを思い出してくる。
「お前がやりたいことを全てやればいい。この世界にはもう随分前から管理者が居ない。そのせいでアップデートされてない。だいぶあちこち、ガタがきてる」
「でしょうね。魔法が使える世界だった名残があるのに、大部分の人がその魔法をまともに使えなくなってます」
前にティファが考えていた、この世界は頭打ちの意味の一つだ。
システムアップデートというのはこういう世界にも必要で、特に初めからシステムから作られた世界には必ず、定期的にやらねば正常に世界が潤滑していかない。
「この世界はまだ、システムと一から手動で作られたハーフだから、ここまで長持ちしている」
「そうなんですか?手動で作るなんて、作った人はかなりのマニアだったんですね。今の時代、システムがなければ微調節なんて無理です」
「今はな。昔はもっと単純で、微調節はやらなかった」
「うわぁ。無理無理。途中で絶対投げ出します。いや、三日坊主ですよ」
カレーで例えるならば、小麦粉からカレーを作り、米も田植えからするのと、カレールーから作るくらい労力が段違い。
おまけに自動化というものもあるので、今や星や異世界を管理するのにわざわざ、毎日観察し続ける必要もない。
家へ帰る道すがら、馬車が通り過ぎる。
「魔法がある世界のはずなのに原始的だな」
「それだけ魔法がなくなっているんですよ。才能とか、スキルも昔に比べたらかなり減ったっぽいですよ」
因みに、馬車に乗らないのはお金がないから。生まれてからこのかた、小遣いなどという人権は貰ったことがない。人権なき人生だとありありと分かるエピソードだね。
「あいつらに会ったらどうする?ぶちのめすか」
「あははぁ、先輩。ぶちのめしたら一瞬で終わるじゃないですかぁ。じっくりコトコト、じわじわとやるんですよ」
「だから、手始めに自分達の立場を分からせる為に歯の二本や八本吹き飛ばしておかないのか」
この先輩肉体派でもあるのだ。
「吹き飛ばしたあと再生させて証拠隠滅させればいいか……」
夜に見えない時に姿なきシチュエーションでやれば誰がやったか分からないし、回復させれば証拠も残らず事件など無かった扱いになる。
ティファをサンドバッグとして手を出そうとしたら記憶を無くせばやり返した時の記憶もないし、こちらが受けることなく向こうだけ被害を被るという仕方もいいな。
「先輩天才ですね。その案採用です」
「おれは一つ目を提案しただけで、あとはお前の思考の内容だ。好きにしろ」
「優しいー」
「下に落ちる前は鬼上司だの鬼畜だの言ってくれたじゃねぇか」
「愛のムチ、いや、飴ですよ飴!」
明らかに悪口だったので誤魔化す。家に帰ったらなにをしよう。家を水没させるのも悪くない。元々屋根裏と倉庫扱いの部屋へ押しやられていたので、部屋なんてあってないようなもの。
縁も切れば一石二鳥。どうやって縁を切ろうかな。立ち行かなくなるようにすれば勝手に「お前は出ていけ」をしてくれるかも。売られたとて、その商人すらどうとでもできるので、なんの心配もない。逆にこっちの下僕にできるし。
「水没させて、家を無くします」
それくらい、上位世界のIDは強力なのだ。
この世界をシステム的に統治できるから。
「ああ、分かった」
その為に紐付け、エディット、配置、変更、なんでも可能。半分システムが入っているとのことで、そのせいでこの世界から魔法がなくなりかけているのだが。
ロゼロはティファの笑みを見て、薄く口元を上げる。ティファも、これからのわくわくが止まらないアクシデントが今から楽しみ。
家に辿り着くと三時間も経過していたのでもうお昼は過ぎていた。お昼ご飯はロゼロの出してくれたパンと水で済ませた。




