【閑章4】第2話 二万五千の兵
机の上に置かれた報告書には、昨日の戦闘で生じた損害が記されていた。
戦死者二名、重傷者三名、軽傷者十一名。敵兵およそ六百を退け、防衛線の維持に成功したという結果を考えれば、比較的少ない損害で済んだと言える。王都からの撤退以降、敗北や後退の報告が続いていたことを思えば、久しぶりに届いた明るい知らせでもあった。
しかし、私が気になったのは、その下に記された物資の消費状況だった。
第一陣地の弓矢の消費が当初の想定を上回り、第二陣地の備蓄から補充したという。報告書には補充が完了した旨も記されていたが、私はその一文に目を留めた。
第二陣地から第一陣地へ矢を移したところで、王軍全体の保有数が増えたわけではない。第一陣地の不足は解消されても、今度は第二陣地の備蓄が減っている。次に同じ規模の戦闘が起きた場合、同じように補充できるとは限らなかった。
私は報告書を机に置き、窓の外へ目を向けた。
メルキアの町には初秋の日差しが降り注ぎ、城壁の向こうには荷車の行き交う街道が見える。王都を失った後も、この町では商人が店を開き、職人が仕事を続けていた。
だが、その営みだけで王軍を支えられるわけではない。
「失礼いたします、アルフォンス宰相閣下」
扉の向こうから声がかかった。
「入りたまえ」
入ってきたのは、軍の補給を担当する文官だった。彼は数枚の書類を抱え、私の机の前で頭を下げた。
「ご依頼のありました王軍の兵員数と物資の保有状況について、各部署から資料を集めております。ただ、まだ一部の部隊から報告が届いておりません」
「構わん。まずは集まっている分を確認しよう。残りについては、届き次第追加してくれ」
「承知しました」
文官は書類を机に並べた。
王都から撤退した際、王軍は各地の部隊を吸収しながらメルキアへ集結した。その後も周辺の守備隊や、ハインリヒ軍の支配地域から脱出してきた兵士たちが合流している。
現在、王軍に所属する人員は、およそ二万五千人。
その数字は、私も以前から把握していた。しかし、問題はその内訳だった。
「この二万五千という数字には、負傷者も含まれているのだな?」
「はい。戦闘によって負傷し、現在治療を受けている者も含めております。また、輸送や整備、治療などの後方業務に従事する者も計上しております」
「では、実際に前線へ投入できる兵力は、これより少ないということになる」
「そのとおりです」
私は書類をめくり、部隊ごとの人数を確認した。
ある部隊では負傷者が多く、別の部隊では指揮官を失ったために再編成が進められている。さらに、兵士として登録されていても、現在は輸送や陣地の整備に従事している者もいた。
王軍二万五千という数字だけを見れば、まだ相当な規模の軍勢である。しかし、そのすべてが武器を手に取り、戦場へ出られるわけではなかった。
「部隊ごとの戦闘可能人数は把握できているか?」
「一部は確認できております。ただ、負傷者の復帰や部隊間の異動が続いているため、報告の時点によって数字が変わっております」
「なるほど。では、今の段階で無理に一つの数字へまとめる必要はない。各部隊の状況を整理し、実際に動かせる人数を確認できるようにしてくれ」
「承知しました」
私は続いて、食料の備蓄状況を記した資料を手に取った。
二万五千人という数字は、軍事力を示すと同時に、それだけの人数が毎日食事を必要とすることも意味している。兵士が戦場へ出ようと、治療所で傷を癒やしていようと、食料は必要だった。輸送担当者も、鍛冶職人も、軍医も同じである。
軍が戦闘を行わない日であっても、食料の消費が止まるわけではない。
「食料の備蓄については、どの程度の余裕がある?」
「現在のところ、直ちに不足する状況ではありません。メルキア周辺の農村からの調達も続いておりますし、王都から運び出せた備蓄も一部残っております」
「それは何よりだ。ただ、今後も同じ量を調達できるとは限らんな」
「はい。特に遠方からの輸送については、以前より時間がかかるようになっております」
私はうなずき、別の書類を手に取った。
王都マリアベルクを失った影響は、軍事面だけにとどまらない。王国の財務機構や主要な商業活動は、長年にわたって王都を中心に発展してきた。税収の集計も、商人との大規模な取引も、多くは王都を経由して行われていた。
その王都がハインリヒ軍の手に落ちたことで、従来の仕組みは大きく損なわれている。
さらに、敵の支配下に入った地域からは、税を徴収することも難しくなった。王国に忠誠を誓う領主たちが残っていたとしても、彼らが自由に物資や金銭を送れるとは限らない。国王陛下の名のもとに税を集めることができても、それをメルキアまで運べなければ意味がなかった。
私は財務担当者を呼び、現在の収入状況について報告を求めた。
「王都を失ったことで、以前のような税収は期待できなくなっております。メルキア周辺の領地からは引き続き納税が行われていますが、王軍の維持費をすべて賄える規模ではありません」
「商人との取引はどうなっている?」
「継続しております。ただ、王都を経由していた商人の中には、取引を停止した者もおります。また、遠方からの輸送には危険が伴うため、運賃の引き上げを求められることも増えております」
「そうか。商人たちにも事情があるだろう。無理に従わせれば、かえって取引が途絶えることになる」
私は報告書を確認しながら、必要な事項を書き留めた。
現在の王軍には、まだ食料も武具も残っている。しかし、失った物資を以前と同じように補充できるわけではなかった。備蓄があることと、補充できることは別の問題である。その違いを把握しなければ、軍をどれほど長く維持できるのか判断することもできない。
「ところで、こちらの数字について確認したい」
私は食料の請求書の一枚を取り上げた。
「この部隊の所属人数は八百二十名となっているが、食料の請求は九百人分になっている。理由は分かるか?」
補給担当者は書類を受け取り、しばらく確認してから答えた。
「申し訳ありません。確認が必要です。おそらく、別の部隊から一時的に派遣されている者が含まれているのではないかと思いますが……」
「いや、謝る必要はない。今は原因を確認できればそれでよい」
私は別の報告書を取り出した。
「こちらには、輸送隊から応援の人員を受け入れたと記されている。人数も一致するようだな」
「確かに、そのようです」
「ならば、食料の請求数が間違っているわけではないのだろう。ただ、所属人数だけを見ていると、余分に請求しているように見えてしまう」
担当者はうなずいた。
「部隊ごとに報告の方法が異なっておりますので、こうした食い違いは他にもあるかもしれません」
「そうだろうな。撤退の混乱の中で部隊の再編成が進んでいるのだから、仕方のない部分もある。だが、このままでは正確な消費量を把握しにくい」
私は書類の余白に、いくつかの項目を書き加えた。
所属人数、実際の滞在人数、食料の支給対象人数。少なくとも、この三つは分けて記録する必要があるだろう。さらに、負傷者や後方要員についても、現在どこで食料の支給を受けているのか確認できるようにしておけば、部隊間の異動があっても集計しやすくなる。
「各部隊の担当者に、報告の方法を確認しておいてくれ。必要なら、こちらで統一した書式を用意しよう」
「承知しました」
担当者が退室すると、私は机の上に広がった書類を整理した。
兵員数だけでも、これほど多くの確認が必要になる。食料以外の物資についても、同じような問題があるのかもしれなかった。
私は補給担当者に声をかけ、軍需倉庫の管理状況を確認することにした。
「書類だけでは分からないこともある。倉庫を見せてもらえるか?」
「もちろんです。ご案内いたします」
メルキア城内の軍需倉庫には、各地から集められた武具や資材が保管されていた。
広い建物の中には木箱が積み上げられ、壁際には槍や盾が並べられている。奥では数人の職人が破損した武具を確認し、修理の必要なものを仕分けていた。
倉庫の管理担当者が私たちを迎えた。
「宰相閣下、ようこそお越しくださいました」
「突然の訪問ですまない。現在の保管状況を確認したくてな」
「承知しました。こちらへどうぞ」
担当者は倉庫の奥へ案内し、弓矢を保管している区画を示した。木箱の中には束ねられた矢が並び、箱ごとに保管数を記した札が付けられている。
「帳簿では、この倉庫に相当数の矢が残っていることになっているな」
「はい。ただし、すべてがすぐに使用できる状態というわけではありません」
「どういうことだ?」
担当者は木箱の一つを開け、矢を数本取り出した。
「こちらをご覧ください。矢羽根が傷んでいるものや、鏃が緩んでいるものがあります。修理すれば使えますが、そのまま前線へ送ることはできません」
私は矢を受け取り、状態を確かめた。
確かに、羽根が欠けているものや、軸に傷が入っているものが混じっている。これらをそのまま使用すれば、狙いどおりに飛ばない可能性があるだろう。
「これらも保有数に含まれているのか?」
「はい。廃棄する必要はありませんので、保管数には含めております」
「なるほど。帳簿の数字が間違っているわけではないのだな」
「そのとおりです。ただ、修理が追いついておりません」
私は近くで作業していた職人に声をかけた。
「修理には、どの程度の時間が必要になる?」
職人は手を止め、少し考えてから答えた。
「傷み方によります。羽根を付け替えるだけならそれほど時間はかかりませんが、軸まで傷んでいるものは交換が必要です。それに、今は材料が十分に揃っておりません」
「材料が足りないのか」
「はい。王都にいた頃は必要なものを比較的簡単に調達できましたが、今はそうもいきません。使える部分を取り外して、別の矢の修理に回すこともあります」
私は職人の手元を見た。
作業台には傷んだ矢が並べられ、使える羽根や鏃が丁寧に取り分けられている。一本の矢を修理するために、別の矢から部品を取り外すこともあるらしい。
「昨日の戦闘で消費した矢の補充については、どうなっている?」
「第一陣地へは第二陣地の備蓄から送っております。こちらの倉庫からも追加で送る準備をしておりますが、使用できるものを選別する必要があります」
私はうなずいた。
第一陣地の備蓄は補充された。しかし、第二陣地の備蓄が減り、今度は倉庫からそこへ補充する必要が生じている。さらに、倉庫にある矢の中には修理しなければ使えないものも含まれていた。
「今後は、保管数と使用可能数を分けて報告してほしい。修理待ちの数も分かれば、どの程度の作業が必要なのか判断しやすくなる」
「承知しました」
「それから、修理に必要な材料についても一覧にしてくれ。調達できるものから手配を進めよう」
担当者は頭を下げた。
私は倉庫の中をもう一度見渡した。
積み上げられた木箱の数だけを見れば、まだ十分な物資が残っているように思える。しかし、その中身を確かめなければ、実際にどれだけ使用できるのかは分からない。帳簿に記された数字と、現場で使える物資の数は、必ずしも同じではなかった。
倉庫を出ると、私は補給担当者に確認した。
「他の倉庫でも、同じような区分が必要になるだろうな」
「はい。盾や鎧についても、修理待ちのものが保管数に含まれております」
「では、各倉庫の管理担当者にも確認しておいてくれ。今すぐ使えるものと、修理が必要なものを分けて把握したい」
「承知しました」
午後になると、軍の補給担当者たちを集めた会議が開かれた。
会議室の机には、食料の備蓄状況に加え、馬の飼料、武具の修理状況、魔法資材の保有数などをまとめた資料が並べられている。
私はまず、馬の状況について報告を求めた。
「軍馬については、戦闘による損失に加え、長距離の移動によって疲弊した馬が増えております。現在は休養と飼料の確保を優先しておりますが、輸送用の馬も不足気味です」
「戦闘に使用する馬だけではないのだな」
「はい。食料や資材の輸送、伝令などにも馬を使用しております。これらを減らしすぎると、軍全体の活動に支障が出ます」
私は地図に目を向けた。
メルキア周辺の村々から食料を運ぶには、荷車が必要になる。荷車を動かすには馬が必要であり、その馬を維持するためにも飼料を確保しなければならない。馬の数を増やせば輸送能力は高まるが、同時に必要な飼料も増える。
単純に数を揃えればよいという問題ではなかった。
「武具の修理状況はどうだ?」
「現在、各部隊から破損した盾や鎧、弓などを回収して修理しております。ただ、鍛冶職人の人数と材料には限りがあり、すべてを短期間で修理することは難しい状況です」
「新しい武具の調達は?」
「メルキア周辺の工房へ依頼しておりますが、以前ほど大量には調達できません。材料の入手にも時間がかかっております」
私は報告を聞きながら、先ほど倉庫で見た矢のことを思い出した。
第二陣地の備蓄から補充したという報告は、目の前の不足を解消したことを意味している。しかし、その分だけ別の場所の備蓄が減っているのだから、いずれ新しい矢を調達しなければならない。そして、矢を作るにも材料と職人が必要になる。
「魔法資材についてはどうなっている?」
「治療や戦闘に使用する資材の補充が、以前より難しくなっております。現在の備蓄で当面の活動は可能ですが、消費量が増えた場合には調達を急ぐ必要があります」
「治療用の資材は、負傷者の数によって消費量が変わるな」
「はい。大きな戦闘が続けば、それだけ必要量も増えることになります」
私は腕を組み、しばらく考えた。
食料、馬、武具、魔法資材。どれも軍を維持するために必要なものだが、それぞれが独立して存在しているわけではない。
食料を運ぶには馬が必要であり、馬を維持するには飼料が必要になる。武具を修理するには職人と材料が必要で、負傷兵を治療するには医療資材や魔法資材が必要だった。一つの不足が、別の不足につながる可能性がある。
しかし、今のところ王軍の活動が停止するほどの欠乏が起きているわけではない。
必要なのは、何がどれだけ残っているのか、そして今後どれだけ補充できるのかを正確に把握することだった。
「各担当者にお願いしたい。今後の報告では、現在の保有数だけでなく、一定期間の消費量と補充の見込みも併記してほしい」
私は机の上の資料を示した。
「例えば、矢が一万本残っていると報告されても、それだけでは十分かどうか判断できない。どれだけの期間で何本を消費し、新たに何本を調達できるのか。それが分かって初めて、今後の計画を立てられる」
担当者たちはうなずきながら、手元の書類に書き留めていった。
「もちろん、最初から完璧な数字を揃える必要はない。分からない部分があれば、その旨を記してくれればよい。重要なのは、何が分かっていて、何がまだ分かっていないのかを明確にすることだ」
「承知しました、宰相閣下」
会議が終わる頃、財務担当者が一通の書類を差し出した。
「宰相閣下、こちらもご確認いただけますでしょうか。軍需物資の調達を依頼していた商人から、回答が届いております」
「見せてくれ」
私は書類を受け取り、内容を確認した。
食料や武具の材料について、必要な数量の一部は調達できるという。ただし、提示された価格は以前より高く、支払い条件についても変更が求められていた。
「随分と値上がりしているな」
「はい。王都を経由できなくなったことで輸送距離が延び、護衛を雇う必要も増えているとのことです。また、支払いについても一部前金を求められております」
「なるほど」
私は書類を机に置いた。
商人たちが危険を冒して物資を運ぶ以上、輸送費が高くなるのは避けられない。王都を失った王国に対して、以前と同じ条件で取引を続けることに不安を感じる者がいても不思議ではなかった。
「商人側の事情は理解できる。だが、この条件ですべてを購入するのは難しいな」
「はい。現在確保できる資金を考えますと、調達する物資に優先順位をつける必要があります」
私は財務担当者に、現在使用できる資金と、すでに支払いが決まっている費用を確認させた。
軍の維持には、食料や武具の調達以外にも多くの支出がある。兵士への給与、負傷者の治療、馬の飼料、施設の修理など、いずれも簡単に削れるものではない。
必要なものをすべて購入できれば問題はないが、今の王国にその余裕はなかった。
「まず、食料と飼料の調達を優先しよう。これらが不足すれば、軍全体の活動に影響が出る」
「承知しました」
「ただし、武具の材料も後回しにはできん。特に矢の修理に必要なものは、できる限り確保しておきたい」
私は倉庫で見た傷んだ矢を思い出した。
修理できるものがあっても、材料がなければ使える状態には戻せない。新しい武具を購入するより修理の方が安く済む場合もあるが、その修理に必要な材料まで不足していては意味がなかった。
「装備の更新については、急を要しないものを延期する。修理で対応できるものは、できる限り修理を優先してくれ」
「分かりました。ただ、修理用の材料についても価格が上がっております」
「それは承知している。だからこそ、何を修理し、何を新しく調達するかを判断する必要がある」
私は調達予定の一覧を確認し、優先順位を書き加えていった。
食料、飼料、矢の修理材料、その他の武具。ただし、すべてをこの順番で購入すればよいというわけでもない。輸送に必要な馬を維持できなければ、食料を購入しても前線まで運べない。弓矢の補充を怠れば、次の防衛戦で兵士たちの損害が増える可能性もある。
それぞれの必要性を考えながら、限られた資金を配分していかなければならなかった。
「商人には、調達数量を分けて交渉してみてくれ。一度にすべてを購入するのではなく、必要なものから順次納入してもらう方法もあるだろう」
「承知しました。前金についても、その条件で再交渉してみます」
「無理な値下げを要求する必要はない。今後も取引を続けてもらうことが重要だ。こちらが支払える条件を明確にしたうえで、双方が納得できる方法を探してくれ」
財務担当者はうなずき、書類をまとめた。
私は窓の外へ目を向けた。
メルキアの町には、今日も多くの荷車が行き交っている。その中には王軍へ物資を届けるものもあれば、町の人々の生活を支えるものもあるだろう。
王軍が必要とする物資を集めることは、町の商人や農民たちの生活とも無関係ではない。軍のためにすべてを取り上げれば、今度は町そのものが立ち行かなくなる。王国を守るための軍が、王国の人々の暮らしを壊してしまっては意味がなかった。
私は財務担当者へ最後の指示を出した。
「周辺の領主にも、今後の供給見込みを確認しておいてくれ。ただし、領民の生活に必要な分まで無理に徴収することのないように」
「承知しました、宰相閣下」
担当者が退室すると、私は集めた資料を整理し、国王陛下への報告に向かった。
執務室にはグスタフ陛下とボーマン将軍が待っていた。
「アルフォンス、補給の状況はどうなっている?」
陛下の問いに、私は資料を広げて答えた。
「現時点では、王軍の維持に直ちに支障が出る状況ではありません。ただし、王都を失った影響によって、物資の補充能力は以前より大きく低下しております」
私は王軍の兵員数と、各種物資の保有状況について説明した。
「王軍の総数は約二万五千人ですが、この中には負傷者や後方要員も含まれております。実際に戦闘へ投入できる人数については、部隊ごとに確認を進めているところです」
ボーマン将軍がうなずいた。
「ええ。現在の防衛線については、今の兵力で十分に維持できると考えております。ただ、戦闘が繰り返されれば、部隊の交代や補充が難しくなる可能性はあります」
「昨日の戦闘でも、矢の消費が想定を上回ったと聞いている」
グスタフ陛下が言った。
「はい。第二陣地の備蓄から補充しておりますが、王軍全体の保有数が減ったことに変わりはありません」
私は資料の一枚を示した。
「また、倉庫に保管されている物資についても、すべてが直ちに使用できる状態とは限りません。修理待ちの武具が保有数に含まれているため、今後は使用可能な数を分けて集計する必要があります」
「なるほど。帳簿上の数字だけでは、実際の戦力を判断できんということか」
「そのとおりです」
私は続けた。
「今後の軍事行動では、兵力だけでなく、物資の消費についても考慮する必要があります。戦闘に勝利しても、そのたびに補充が追いつかなくなれば、いずれ軍の活動に制約が生じます」
陛下はしばらく考え込んだ。
「つまり、今の王軍は戦えるが、戦い続けるためには補給を整えねばならんということだな」
「はい」
「ボーマン、軍の運用についてはどう考える?」
将軍は落ち着いた口調で答えた。
「当面は現在の防衛線を維持し、敵の攻撃を受け止める方針がよいと考えます。こちらから大規模な攻勢に出る必要はありません。兵力と物資の消耗を抑えながら、防衛施設の整備を進めるつもりです」
「分かった。その方針で進めてくれ」
陛下は私に向き直った。
「アルフォンス、補給体制の整備は任せる。必要な物資を確保するため、周辺の領主や商人との調整を進めてほしい」
「承知しました。ただ、現在の財政状況を考えますと、調達できる量には限りがあります。軍の消費量と照らし合わせながら、優先順位を決める必要があるでしょう」
「それでよい。無理にすべてを揃えようとして、かえって財政を損なうことのないようにしてくれ」
私は頭を下げた。
陛下もボーマン将軍も、現状を正しく理解している。王都を失ったからといって、王軍がすぐに崩壊するわけではない。だが、これまでと同じように戦い続けることもできない。
だからこそ、軍事と財政の両面から、今後の方針を考えていく必要があった。
会議を終えて執務室へ戻ると、私は補給担当者を呼び、報告書の書式を改めるよう指示した。
「今後は、兵員数についても総数だけでなく、戦闘可能な人数、負傷によって離脱している人数、後方業務に従事する人数を分けて集計してほしい」
「承知しました」
「食料については、所属人数と実際の支給対象人数を区別する。部隊間の異動があった場合には、その内容も記録するようにしてくれ」
私は午前中に確認した食料請求書を取り出した。
「このような食い違いがあっても、理由を確認できるようにしておきたい。現場の担当者に余計な負担をかけすぎない範囲で、必要な項目を整理してほしい」
「分かりました。各部隊へ新しい書式を配布する準備を進めます」
「それから、物資の報告には保有数、使用可能数、修理待ちの数を分けて記載すること。消費量と補充見込みも併記してほしい」
担当者は指示を書き留め、確認を終えると部屋を出ていった。
私は机の上に残された書類を整理した。
王軍二万五千人。その数字の中には、戦場で敵と戦う兵士もいれば、傷を負って治療を受けている者もいる。食料を運ぶ者、武具を修理する者、馬の世話をする者もいた。
彼ら全員が、王軍を維持するために必要な人員だった。
私は新しい報告書の見本を手に取り、記載項目を一つずつ確認した。翌日からの集計に使用できるよう、修正した書式を担当者へ渡し、各部隊への配布を指示した。




