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【完結】脱走王女は自由でありたい  作者: 真部 朝樹
【第6章】森の向こうの未来 

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第115話 最悪の再会


 開拓地に到着してから、二十四日目。


 昨日見つけた野営地を、もう一度調べることになった。


 朝食を終えた私は、天幕の前で荷物を背負い直していた。昨日の探索では、森の奥に人が集まっている場所を見つけたものの、そこにいた人たちが何者なのかまでは分からなかった。荷物の中には、四日前に襲われた補給便から奪われたものによく似た工具箱もあったけれど、遠くから見ただけなので確証はない。


 だから、今日はもう少し詳しく調べる必要がある。


 もっとも、相手が本当に盗賊だった場合、昨日のように遠くから眺めて帰るだけでは済まないかもしれない。ヴィクターさんは警備兵を数名同行させることにしていて、何かあった場合の撤退経路も確認する予定だった。


「リカ、準備できたか?」


 タクマが天幕の外から声をかけてきた。


「うん。もう大丈夫」


「今日はあんまり前に出るなよ」


「昨日もそんなに前に出てないでしょ」


「野営地を見つけたとき、結構身を乗り出してたぞ」


「……あれは工具箱が気になったから」


「気になるのは分かるけど、見つかったら元も子もないだろ」


 私は少しだけ口を尖らせた。


 確かに昨日は、荷物をよく見ようとして木の陰から顔を出しすぎた。タクマに注意されて慌てて引っ込んだのも覚えている。でも、あの工具箱が本当に盗まれたものだったら、開拓地の職人さんたちに返せるかもしれないのだ。


「今日は気をつけるよ」


「頼むぞ」


「タクマもね」


「俺も?」


「うん。私にばっかり注意して、自分がうっかりしたら格好悪いでしょ?」


「それは確かに格好悪いな」


 タクマは笑いながら、自分の荷物を肩に掛けた。


 私もつられて笑ったけれど、今日は昨日より少し緊張していた。知らない道を歩くのは楽しかったけれど、その先にいた人たちと直接顔を合わせることになれば、話は別だ。


 それでも、調べないわけにはいかない。


 私は荷物の紐をもう一度確かめ、タクマと一緒に集合場所へ向かった。


     ◇


 今日の調査には、昨日と同じ五人に加えて、ヴィクターさんの部下である警備兵が三人同行することになった。


 オリヴァーさんは出発前に、無理に相手を捕らえようとしないこと、補給便襲撃との関係を確かめることを優先するよう念を押していた。相手の人数も分からない以上、こちらから戦いを始めるのは避けたいという判断らしい。


 ヴィクターさんも同じ考えだった。


「相手が武器を持っていても、すぐに攻撃しないでください。こちらに危害を加える意思があるか、まずは見極めます」


「分かりました」


 私は頷いた。


 コンラートさんは警備兵たちと短く言葉を交わし、誰が後方を警戒するか確認している。シエラは昨日と同じように先頭を歩くことになり、私とタクマはその少し後ろについた。


 北側の尾根へ続く道は、三日続けて歩いているせいか、随分と見慣れたものになっていた。


 昨日までなら、途中の木や岩を見つけるたびに何か話していたけれど、今日はみんな口数が少ない。警備兵たちが同行していることもあって、自然と周囲を警戒しながら進むことになった。


「……何だか、昨日と雰囲気が違うね」


 私はタクマに小声で話しかけた。


「そりゃそうだろ。今日は相手と会う可能性もあるからな」


「うん。でも、昨日はあんなに静かな場所だったのに」


「人がいるって分かったら、見え方も変わるよな」


 タクマの言葉に、私は頷いた。


 同じ森なのに、昨日まで気にしていなかった物音が妙に耳につく。鳥が飛び立つ音や、枝が風に揺れる音まで、誰かが近づいてきたのではないかと思ってしまう。


 もっとも、シエラは相変わらず落ち着いていた。ときどき足を止めて地面を確かめるものの、必要以上に周囲を見回したりはしない。


 私はその背中を見ながら、少しだけ肩の力を抜いた。


 慣れている人が一緒にいるというのは、ありがたいことだと思う。


 尾根を越えて細道に入ると、私たちはさらに歩く速度を落とした。昨日、煙の匂いに気づいた場所まではまだ距離があるけれど、野営地の人たちが道を使っている可能性もある。


 シエラは先頭で足跡や枝の状態を確かめながら進み、ヴィクターさんがときどき後ろの警備兵たちへ合図を送っていた。


 私は昨日踏み折ってしまった枝のことを思い出し、足元をいつも以上に注意して歩いた。


 タクマがこちらをちらりと見る。


「……今日は静かだな」


「何が?」


「いや、枝を踏まないように頑張ってるなと思って」


「ちゃんと学習するんです」


「それは偉い」


「……何か腹立つ」


 小声で言い返すと、タクマは声を出さずに笑った。


 私は少しだけ睨んでから、前を向いた。


     ◇


 野営地へ続く谷が近づいてきた頃、シエラが突然足を止めた。


 片手を上げ、後ろへ下がるよう合図する。


 私たちはすぐに歩みを止めた。


 シエラは木々の間を見つめ、しばらく耳を澄ませていた。やがて、私たちの方へ振り返る。


「……人が来る」


 その言葉に、私は思わず息を止めた。


 タクマが私の隣へ寄り、ヴィクターさんが警備兵たちに身を隠すよう指示する。私たちは道の脇へ移動し、木の幹や茂みの陰から様子を窺った。


 少しして、前方から話し声が聞こえてきた。


「だから、あっちには何もなかったって言ってるだろ」


「本当に見てきたのかよ。昨日も同じこと言ってたじゃねえか」


「うるせえな。お前が行けばいいだろ」


 男たちの声だった。


 私は木の陰からそっと覗いた。


 細道の向こうから、二人の男が歩いてくる。どちらも粗末な服を着ていて、腰には短い剣を下げていた。片方の男は肩に袋を掛け、もう片方は何か不満そうに話し続けている。


 野営地にいた人たちの仲間だろうか。


 そう思ったところで、先を歩いていた男が突然立ち止まった。


「……おい」


 男の視線が、私たちの隠れている方へ向いた。


 私は反射的に身を引いたけれど、遅かったらしい。


「誰だ!」


 男が叫び、剣を抜いた。


 ヴィクターさんがすぐに木の陰から姿を現す。


「待ってください。こちらに争う意思はありません」


「何だ、お前ら!」


「近くの開拓地から来た者です。この辺りを調査しています」


 男は警戒したまま、剣を下ろそうとしなかった。


 もう一人の男も武器を抜き、周囲を見回している。


「開拓地だと?」


「ええ。あなた方は、こちらの森で何をしているのですか?」


「そんなこと、お前らに関係ねえだろ!」


 男の声が大きくなった。


 ヴィクターさんは落ち着いた口調で話を続けようとしたけれど、相手は聞く様子がない。


 やがて、男の一人が後ろを振り返り、野営地の方へ向かって大声を上げた。


「おい! 誰か来てくれ!」


 私は思わずタクマの方を見た。


 タクマも表情を引き締めている。


 ここで騒ぎになれば、野営地にいる人たちも集まってくるだろう。私たちが見つけた場所に何人いるのか、まだ分かっていない。


 ヴィクターさんは警備兵たちに武器を構えさせたものの、こちらから攻撃する様子はなかった。


「落ち着いてください。話をしたいだけです」


「話だと? 武器持ってぞろぞろ来やがって!」


「あなた方も武器をお持ちでしょう」


「それとこれとは違うだろ!」


 男の言い分に、私は思わず首を傾げた。


 何が違うんだろう。


 でも、今それを口に出すのはやめておいた方がよさそうだった。


     ◇


 しばらくすると、野営地の方から足音が聞こえてきた。


 木々の間から数人の男たちが姿を現し、最初にいた二人の後ろへ集まる。中には弓を持っている人もいて、私たちを見つけるなり警戒するように足を止めた。


 私は周囲を見回した。


 こちらは八人。相手は今見えているだけで六人ほどだけれど、野営地にはまだ人が残っているかもしれない。


 人数だけで判断できることではないけれど、ここで戦いになれば面倒なことになりそうだ。


 ヴィクターさんは一歩前へ出た。


「こちらは近くの開拓地の警備を担当している者です。あなた方の責任者と話をさせていただきたい」


「責任者だと?」


 男の一人が鼻で笑った。


「何の用だよ」


「四日前、この近くの街道で補給便が襲われました。その件について確認したいことがあります」


 その言葉を聞いた途端、男たちの表情が少し変わった。


 何人かが顔を見合わせ、一人が小さく舌打ちしたように見える。


 私はその様子を見て、胸の奥がざわついた。


 もしかして、本当に関係があるのだろうか。


「知らねえな。そんな話」


 男はそう答えたけれど、さっきより声が硬くなっていた。


 ヴィクターさんは表情を変えない。


「そうですか。では、こちらの森に滞在している理由を教えていただけますか?」


「何でそんなことまで答えなきゃならねえんだよ」


「近くで襲撃が起きています。開拓地の安全を確保するためにも、周辺の状況を確認する必要があります」


 男は何か言い返そうとしたけれど、そのとき後ろから別の声が聞こえた。


「……何を騒いでる」


 低く、少し苛立った声だった。


 男たちが一斉に振り返る。


「頭領!」


 その呼び声とともに、木々の間から一人の男が姿を現した。


 私は何となく、その男の方を見た。


 そして、思わず目を細めた。


     ◇


 現れた男は、三十歳前後だろうか。


 伸びかけた髪を無造作に後ろへ流し、頬には無精髭が残っている。服は決して上等なものではなく、腰には剣を下げていた。痩せた顔には険しい皺が刻まれ、目つきも鋭い。


 森の奥で暮らしている荒くれ者と言われれば、そう見える男だった。


 ただ、その顔に妙な見覚えがあった。


 ……あれ?


 私は男の顔をもう一度確かめた。


 どこかで会ったことがあるような気がする。けれど、すぐには思い出せなかった。ノヴァグラードの冒険者ギルドで見かけた人だろうか。それとも、以前どこかの依頼で一緒になった人だろうか。


 男は部下たちを見回し、面倒そうに眉を寄せた。


「何だ。誰かと揉めてるのか?」


「開拓地の連中です。補給便がどうとか言ってきやがって」


「補給便?」


 男がヴィクターさんへ顔を向けた。


 その横顔を見た瞬間、私は思わず首を傾げた。


 ……え?


 いや、ちょっと待って。


 私はもう一度、男の顔を見た。


 頬はこけているし、髪も随分と伸びている。無精髭のせいで口元の印象も違うし、目つきだって昔よりずっと険しい。


 でも、何となく似ている。


 誰に?


 そこまで考えて、私は自分の思いつきを慌てて否定した。


 いやいや、そんなはずないでしょ。


 だって、あの人がこんなところにいるわけがない。


 それに、もう五年ほど前の話だ。今さら顔を見たところで、そんな簡単に分かるものだろうか。


 私は何とか別人だと思おうとしたけれど、男が口を開いた途端、また妙な違和感を覚えた。


「お前ら、ここが誰の縄張りか分かって来てんのか?」


 その声。


 言葉の区切り方。


 相手を見下すような、少し鼻にかかった話し方。


 私は思わず眉を寄せた。


 ……ええ?


 いや、そんな。


 似ているにも程があるんだけど。


 私は男を見つめたまま、昔の記憶を探った。


 まだノヴァグラードで暮らし始めて間もなかった頃、私に親切にしてくれた男がいた。冒険者としての仕事にも慣れていなかった私に、いろいろなことを教えてくれた人だった。


 最初は頼りになると思っていたし、一緒に過ごす時間も楽しかった。


 けれど、その後に何があったのかを思い出すと、今でも少し腹が立つ。


 あんなに信用していたのに。


 しかも、最後は本当にひどかった。


 私は無意識に口元を押さえた。


 ……いや、待って。


 本当に、あの人なの?


 よりによって、こんな森の奥で?


 しかも、盗賊の頭領みたいなことをしている?


 私はもう一度、男の顔を見た。


 別人だったらいいなと思った。


 いや、別人であってほしい。


 できれば、今すぐ誰かに「全然違う人ですよ」と教えてもらいたかった。


「……リカ?」


 隣からタクマの声がした。


「えっ? あ、うん。何?」


「いや、さっきからあいつのこと、ずっと見てるから」


「……そう?」


「そうだよ。何か気になるのか?」


 私は少し考えた。


 どう説明すればいいんだろう。


 まだ本人かどうかも分からないのに、昔付き合っていた人に似ているなんて言うのも変な話だ。しかも、その相手がこんな場所にいる理由なんて、私にも分からない。


「……ちょっと、知ってる人に似てて」


「知り合いか?」


「それが……知り合いだったら、すごく嫌なんだけど」


「……何だそりゃ」


 タクマは困ったような顔をした。


 無理もない。私だって、自分が何を言っているのかよく分からなくなってきた。


「いや、まだ分からないんだよ。本当にその人なのかどうか」


「そっか。まあ、今はあんまり気にするなよ」


「うん……」


 私は頷いたけれど、どうしても男の方を見てしまった。


     ◇


 ヴィクターさんと男の話し合いは、あまり進んでいなかった。


「四日前、この近くで補給便が襲われました。あなた方は何かご存じありませんか?」


「知らねえよ。俺たちはここで休んでるだけだ」


「この森には、いつ頃から?」


「そんなことまで答える義理があるのか?」


「近くで襲撃が起きていますので」


「だったら、襲った奴を探せばいいだろ。俺たちに聞くな」


 男は不機嫌そうに肩をすくめた。


 そのとき、片方の腕を動かそうとして、途中でやめたように見えた。男はすぐに反対の手で腰の剣を確かめ、何事もなかったように立ち直った。


 私はその動きに目を留めた。


 ……今の。


 何となく、片腕の動きが悪いように見える。


 怪我でもしているのだろうか。


 そう考えたところで、五年前の出来事が頭をよぎった。


 私は思わず自分の手を見た。


 あの頃の私は、魔法の扱い方を知らなかったわけではない。むしろ、魔法そのものには自信があったと思う。ただ、自分でも抑えきれないほど感情が爆発したとき、その力をどこまで制御できるのかということについては、今ほど分かっていなかった。


 そして、あの日は本当に頭に血が上っていた。


 思い出すだけで、少し気まずくなる。


 もちろん、あの人がしたことを許したわけではない。今でも許せないと思っているし、あんな裏切り方をされたら怒るのも当然だと思う。


 でも、だからといって、あそこまでやる必要があったのかと聞かれたら……。


 私は小さく息を吐いた。


 ……まあ、今さら考えても仕方ないんだけど。


 それよりも、目の前の男が本当に本人なのかどうかだ。


 もしそうなら、あの腕の動きも、昔の怪我が関係しているのかもしれない。


 ただ、そんなことまで確かめたいとは思わなかった。


 できれば、違う人であってほしい。


 その気持ちだけは、さっきからまったく変わっていなかった。


 ヴィクターさんは相手の態度を見ながら、慎重に言葉を続けた。


「こちらには魔導士も同行しています。争いになれば、双方にとって望ましくない結果になるでしょう」


 その瞬間、男の表情が変わった。


「……魔導士?」


 声が少し低くなった。


 男は私たちの方を見回し、誰が魔導士なのか探しているようだった。


「……どいつだ」


 ヴィクターさんが私の方へ軽く視線を向ける。


 男の目が、こちらを捉えた。


 私は何となく居心地が悪くなった。


 男は私の顔をじっと見たけれど、懐かしそうな様子も、驚いた様子もなかった。ただ、先ほどまでとは違う、強い警戒が浮かんでいる。


 ……気づいてない?


 もし本人だったとしても、私だと分からないのだろうか。


 考えてみれば、今の私は茶髪だ。昔のように金髪の姿で暮らしていた頃とは、見た目の印象が随分違う。服装も変わっているし、五年も経てば顔つきだって多少は変わるだろう。


 それに、相手が私のことを覚えていたとしても、こんな場所で再会するとは思っていないはずだ。


「……魔導士を連れてきたのか」


 男は低く呟いた。


 部下の一人が笑った。


「何だよ、女一人じゃねえか。そんなに警戒することねえだろ」


「黙れ!」


 男が突然怒鳴った。


 部下が驚いて口を閉じる。


 男は私から目を離さず、険しい表情のまま言った。


「魔導士を甘く見るな。何ができるか分からねえんだぞ」


 私は思わず目を瞬いた。


 随分と警戒しているらしい。


 しかも、男は無意識なのか、動きの悪そうな腕を身体の近くへ寄せていた。


 ……ああ。


 私は少しだけ顔をしかめた。


 もし本当にあの人なら、魔導士を警戒する理由には心当たりがある。


 ただ、目の前にいる本人が私だとは、まるで思っていないらしい。


 何とも言えない気分だった。


 向こうが気づいていないのなら、このまま知らない人同士で終わらせてしまいたい。けれど、補給便の襲撃に関係している可能性がある以上、そういうわけにもいかない。


 私はタクマの隣で、小さくため息をついた。


「……大丈夫か?」


 タクマが囁いた。


「うん。大丈夫」


「本当か?」


「本当だよ。ただ、ちょっと……」


「ちょっと?」


「……やっぱり、嫌な予感がする」


 タクマは不思議そうな顔をしたけれど、それ以上は聞いてこなかった。


     ◇


 話し合いは、相変わらず平行線のままだった。


 男は補給便の襲撃について何も知らないと言い張り、こちらが野営地を調べたいと申し出ても、頑として受け入れようとしない。


 ヴィクターさんも無理に押し通そうとはせず、相手の反応を見ながら質問を続けている。


 私はそのやり取りを聞きながら、何度も男の顔を確かめていた。


 やっぱり似ている。


 声も、話し方も。


 そして、あの腕の動き。


 でも、名前を聞いたわけじゃない。


 だから、まだ決まったわけじゃない。


 私はそう自分に言い聞かせた。


 できれば、このまま別人だと分かってほしかった。そうすれば、さっきから頭の中に浮かんでいる嫌な記憶を、もう一度奥へしまい込めるのだから。


 けれど、そんな私の願いは、あっさり打ち砕かれた。


「おい、ダリオ! どうするんだよ!」


 男たちの一人が、苛立った様子で声を上げた。


 私は思わず目を閉じた。


 ……ああ、もう。


 やっぱり本人だった。


 五年前、あれほど好きになって、最後には二度と顔を見たくないと思った男。できれば一生、思い出の中にしまっておきたかった、私のとんでもない失敗。その本人が、今は森の奥で盗賊の頭領らしきことをしている。


 しかも、向こうは私にまったく気づいていない。


 ……どうして、こんなところで再会しちゃうかなあ。


「……リカ?」


 隣からタクマの声がした。


「えっ? あ、うん。何?」


「いや、さっきから様子がおかしいぞ」


「そ、そうかな?」


「そうだよ。あいつのこと、ずっと見てるし」


 私は慌てて視線を逸らした。別に見つめたくて見つめていたわけじゃない。ただ、あまりにも予想外の再会だったので、どう反応すればいいのか分からなくなっていただけだ。


 タクマはそんな私をしばらく見ていたけれど、やがて小さく息を吐き、一歩前へ出た。


「リカ、いいから下がってろ」


 その声は、思っていたより少し大きかった。


「……リカ、だと……?」


 聞き覚えのある声が、低く響いた。


 私は思わず顔を上げた。


 男が、こちらを見ていた。


最初は冗談で構想練ってましたが、ついに出してしまいました。リカの元彼です。

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