第111話 消えた補給便
グリューンヴァルト大森林に到着して、二十日目。
最近、開拓地の朝はずいぶん賑やかになった。
最初にここへ来た頃は、目を覚ませば聞こえてくるのは鳥の声と、見張りを交代する人たちの足音くらいだった。それが今では、炊事場から鍋の音がするし、あちこちで職人さんたちが仕事を始めるし、子どもたちは朝から元気に走り回っている。
もっとも、工事区域には縄が張られているので、子どもたちも好き勝手に走り回れるわけではない。
ブルーノさんたちが設けた区画の外から、何とか中を覗こうとしている子もいる。あそこまで気になるものだろうか。まあ、私も子どもの頃なら同じことをしていたかもしれない。
炊事場では、クララさんがすっかり中心的な存在になっていた。宿屋の厨房で働いていた経験があるそうで、大勢の食事を用意する手際は見事なものだ。
タクマもよく相談に乗っているらしく、二人で鍋の数や食材の使い方について話している姿を見かける。
料理というのも、なかなか奥が深いらしい。
そんな賑やかな朝が過ぎ、昼食を終えた頃になっても、予定していた補給便は到着していなかった。
「リカ、聞いてるか?」
「……聞いてるよ」
「絶対聞いてなかっただろ」
隣を歩いていたタクマが呆れた顔をした。
失礼な。ちゃんと聞いていた。今日の補給便がまだ到着していない、という話だったはずだ。
「補給便が遅れてるんでしょ?」
「それは合ってるけど、今話してたのは昼飯のことだ」
「……そっち?」
タクマがため息をついた。
最近、タクマは炊事場に顔を出すことが増えた。クララさんが加わったおかげで、食事の準備はずいぶん楽になったらしいけれど、今度は人数が増えた分だけ別の問題が出てくるそうだ。
鍋が足りないとか、火を使う場所が足りないとか。
私としては、毎日ちゃんと食べられるだけでも十分ありがたいのだけれど、タクマはそういうところで妥協しない。
「それで、昼飯がどうしたの?」
「もう食べたって話だよ」
「あ、そうだった」
「……大丈夫か、お前」
大丈夫。たぶん。
そんな話をしながら、私たちは東側の街道が見える場所まで歩いてきた。
今日は集結地から補給便が届く予定になっている。食料や生活用品、それに工事で使う工具なども運んでくるらしい。
開拓地には今、約二百人が暮らしている。
それだけの人数が毎日食べて、飲んで、働いているのだから、物資の消費量も相当なものだ。タクマたちが頑張ってくれているとはいえ、食料が勝手に増えるわけではない。
魔法で増やせたら便利なんだけどなあ。
「……まだ来てないね」
「そうだな。途中で何かあったか?」
「道が悪いから、遅れてるだけかもしれないよ」
私たちがここへ来るときも、川を渡るところでずいぶん時間がかかった。荷馬車が一台ずつしか進めない場所だったし、あそこを通るたびに苦労するのだとしたら、御者さんたちも大変だ。
そう思っていると、ローレンスさんがこちらへ歩いてきた。
「リカさん、タクマさん。少しよろしいでしょうか」
「はい。どうしました?」
「補給便の件で、オリヴァー様がお呼びです」
……あれ。
ただ遅れているだけならいいけれど、わざわざ私たちを呼ぶということは、少し心配な状況なのかもしれない。
私はタクマと顔を見合わせ、オリヴァーさんの天幕へ向かった。
◇
「補給便の様子を確認していただきたいのです」
オリヴァーさんは、机に広げた地図を見ながらそう言った。
天幕の中にはヴィクターさんもいて、街道側の見張りから聞いた状況を説明してくれた。今のところ、荷馬車が近づいてくる様子はないらしい。
「多少の遅れは想定していますが、このまま日没まで待つのも心配です」
「そうですね。途中で車輪が壊れたりしてたら、助けが必要かもしれませんし」
私が答えると、ヴィクターさんが頷いた。
「少人数で確認に向かうつもりです。リカさんたちにも同行していただけると助かります」
「もちろんです」
こういうときに頼まれるのは、別に嫌じゃない。
街道の様子を見てくるだけなら、それほど難しい仕事でもないだろう。もし誰かが怪我をしていたら、私の魔法で治療できる。
……まあ、何も起きていないのが一番だけど。
同行するのは私とタクマ、シエラ、コンラートさん、それにヴィクターさんの五人になった。
ヴィクターさんは出発前に警備隊の分隊長を呼び、留守中の指揮を引き継いでいた。
今の開拓地には家族連れも大勢いる。補給便が心配だからといって、こちらの警備を手薄にするわけにはいかない。
「では、行きましょう」
準備を終えた私たちは、東側の街道へ出発した。
◇
街道は、最初に通ったときよりも少し歩きやすくなっていた。
何度も荷馬車が行き来しているおかげで、地面が踏み固められているらしい。ただし、木の根が張り出している場所や、道幅が狭くなっているところは相変わらずだ。
こういう道を荷馬車で何度も往復するのは、やっぱり大変だと思う。
「……轍がある」
先頭を歩いていたシエラが、足元を指した。
「今日の補給便かな?」
「……分からない。古いのも混ざってる」
「そっか」
シエラは地面を見ただけで、私にはさっぱり分からないことを見つけてしまう。
同じものを見ているはずなのに、どうしてこんなに違うんだろう。森で暮らしてきた経験というのは、やっぱりすごい。
私が感心している間にも、シエラは足元を確認しながら先へ進んでいた。
「この先は渡河点ですね」
コンラートさんが言った。
「そうですね。最初にここを通ったとき、荷馬車を一台ずつ渡した場所です」
ヴィクターさんが答える。
ああ、あそこか。
川を渡る前に足場を確認したり、荷馬車の順番を決めたり、ずいぶん手間がかかった場所だ。私たちは歩いて渡れば済むけれど、大きな荷物を積んだ荷馬車はそうもいかない。
「もし車輪が壊れていたら、あの辺りかもしれませんね」
私が言うと、コンラートさんは頷いた。
「可能性はあります。ただ、まだ何とも言えません」
そのまましばらく歩いていると、シエラが急に立ち止まった。
「……待って」
その声に、私たちも足を止める。
シエラは街道の脇にしゃがみ込み、落ち葉を指先で少し動かしていた。
「……人が通ってる」
「街道なんだから、人くらい通るんじゃない?」
「……道の外から」
私は改めて周囲を見回した。
街道の脇には木々が密集していて、少し入ればすぐに人の姿が見えなくなりそうだ。よく見ると、枝が折れていたり、落ち葉が不自然に散らばっていたりする。
……言われなければ、絶対に気づかなかった。
コンラートさんも近づき、地面を確認した。
「複数人が通ったようにも見えますが、これだけでは判断できませんね」
「……うん」
シエラは頷き、立ち上がった。
私たちは少し間隔を詰め、周囲を警戒しながら進んだ。
さっきまで、ただ荷馬車が遅れているだけだと思っていたのに。
嫌な予感がしてきた。
そして、川へ近づいたところで、前方に停まっている荷馬車が見えた。
◇
「……あれ!」
私が指差すと、タクマがすぐに前へ出た。
荷馬車は二台。渡河点の手前にある狭い道で停まっていて、周囲には木箱や荷物が散らばっていた。
何より、地面に座り込んでいる人がいる。
私は思わず駆け出しかけたけれど、タクマに腕を掴まれた。
「待て、リカ。まだ安全か分からない」
「……うん」
そうだった。
怪我人がいるかもしれないからといって、何も考えずに飛び込んでいいわけじゃない。
ヴィクターさんが前へ出て、荷馬車の近くにいる護衛兵へ声をかけた。
「開拓地の警備隊です! 状況を教えてください!」
護衛兵がこちらを振り返った。
「ヴィクターさん! 助かった……!」
その声を聞いて、ようやく少し安心した。
私たちは周囲を確認しながら近づいた。
「何があったんですか?」
ヴィクターさんが尋ねると、護衛兵は疲れ切った顔で答えた。
「盗賊に襲われました。荷物を奪われて、逃げられたんです」
盗賊。
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がひやりとした。
この辺りにも、そんな連中がいるのか。
「怪我人はいますか?」
私が尋ねると、護衛兵は頷いた。
「何人かいます。でも、死んだ者はいません」
「分かりました。治療します」
私はすぐに負傷者のもとへ向かった。
最初に診た護衛兵は、腕を刃物で切られていた。布で押さえていたものの、まだ血が滲んでいる。
「少し見せてくださいね」
傷の状態を確認し、治療魔法を使う。
淡い光が傷口を包み、開いていた皮膚がゆっくりと塞がっていった。
「……ありがとうございます」
「いえ。ほかに痛いところはありませんか?」
「大丈夫です。腕だけです」
「分かりました。でも、今日は無理をしないでくださいね」
私は次の負傷者へ移った。
肩を強く打った護衛兵と、荷馬車から降りたときに転んだ御者さん。ほかにも細かな擦り傷を負った人がいたけれど、幸い命に関わるような怪我はなかった。
治療を終えたところで、ようやく少し息をついた。
よかった。本当によかった。
刃物で切られた傷を見ると、どうしても最悪のことを考えてしまう。治療魔法が使えるからといって、どんな怪我でも治せるわけではないのだから。
私は負傷者たちに休むよう伝え、ヴィクターさんたちのところへ戻った。
◇
「前方に倒木があったんです」
護衛兵が、川へ続く道を指した。
「荷馬車を停めて、どかそうとしたところを襲われました。両側から何人も出てきて……」
「顔は見ましたか?」
「いえ。全員、布で隠していました」
ヴィクターさんが質問を続ける間、コンラートさんは街道の様子を確認していた。
私も周囲を見回してみる。
確かに、ここは荷馬車が一台ずつしか通れない。前に倒木があれば、後ろの荷馬車も停まるしかないだろう。
しかも両側は森だ。
……嫌な場所を選んだものだ。
「前の荷馬車が停まったところで、後ろにも人が現れました」
護衛兵は悔しそうに続けた。
「応戦したんですが、荷馬車の間に入り込まれてしまって。荷物を奪われました」
「追いかけなかったんですか?」
私が尋ねると、護衛兵は首を振った。
「怪我人が出ていましたし、車輪も傷んでいたので……」
言い終える前に、護衛兵は視線を落とした。
きっと、逃がしてしまったことが悔しいのだろう。
「追跡しなかったのは正しい判断です」
ヴィクターさんが答えた。
「皆さんが無事でよかった。まずは開拓地へ戻ることを考えましょう」
護衛兵は小さく頷いた。
コンラートさんが戻ってきた。
「襲撃する側にとっては、都合のいい場所ですね」
「やはり、ここを狙っていたのでしょうか」
ヴィクターさんが尋ねる。
「その可能性はあります。前方を塞ぎ、後ろにも人を回せば、護衛の動きを制限できますから」
コンラートさんは落ち着いた声で説明した。
元王国軍の隊長だっただけあって、こういう状況でも冷静だ。私だったら、目の前に盗賊が出てきたら、とりあえず魔法で何とかしようとしてしまいそうだけれど。
……いや、それはそれで危ないか。
「それで、何を奪われたんですか?」
ヴィクターさんが尋ねると、護衛兵は荷馬車の荷台へ案内してくれた。
縄を切られた木箱がいくつかあり、中身が抜き取られている。
「工具や刃物類です。それと、金属の部材が入った箱も持っていかれました」
「食料は?」
「ほとんど残っています」
私は荷台を覗き込んだ。
穀物の袋や保存食の箱は、確かにそのまま残っている。大きな資材も動かされた様子がない。
「……ずいぶん選んで盗んだんだね」
私が呟くと、タクマも頷いた。
「持ち運びやすくて、売れそうなものばかりだな」
「換金しやすい物資を狙ったのでしょう」
コンラートさんが答えた。
「ただ、最初から積荷を知っていたのか、襲ってから選んだのかは分かりません」
「そうですよね……」
私は残された食料の袋へ目を向けた。
食料が無事だったのはありがたい。クララさんたちが困らずに済むし、開拓地のみんなも明日からちゃんと食べられる。
でも、工具がなくなったらブルーノさんたちが困るだろうな。
せっかくここまで運んできたものを、横から持っていくなんて。
腹が立つ。
◇
被害の確認が終わる頃には、日がかなり傾いていた。
シエラは街道脇の森を調べていたけれど、しばらくして戻ってきた。
「……足跡はある」
「追えそう?」
「……途中までは。でも、地面が硬いところで途切れてる」
「人数は分かる?」
「……複数。正確には、まだ」
私は森の奥へ目を向けた。
木々の間はすでに薄暗くなり始めている。今からあの中へ入るのは、あまり気が進まない。
シエラなら歩けるのかもしれないけれど、私たち全員が同じように動けるわけじゃない。
「今日は追跡を見送りましょう」
ヴィクターさんが言った。
「負傷者もいますし、荷馬車も修理が必要です。まずは開拓地へ戻ります」
私は少しだけ肩の力を抜いた。
正直、助かった。
盗賊を逃がしてしまうのは悔しいけれど、今から森の中へ飛び込んで、また誰かが怪我をするのは勘弁してほしい。
それに、ここにいる人たちを置いていくわけにもいかない。
「荷馬車は動かせそうですか?」
タクマが御者さんに尋ねた。
「一台は大丈夫です。ただ、もう一台の車輪が……」
見せてもらうと、車輪の外側が一部欠けていて、固定している部品にも緩みが出ていた。
うわあ。これはひどい。
「応急処置ならできるかもしれません」
タクマが工具を確認し始めた。
幸い、修理に使えそうな道具は残っていたらしい。御者さんと相談しながら、緩んだ部分を締め直し、傷んだところを補強していく。
私はその間、荷物を降ろすのを手伝った。
こういうとき、土魔法が得意なエステルさんがいたら、もう少し楽だったのかな。
いや、車輪の修理は土魔法じゃどうにもならないか。
結局、タクマと御者さんが頑張ってくれたおかげで、荷馬車は何とか動かせる状態になった。
「ゆっくりなら進めそうです」
御者さんが車輪を確かめながら言った。
「ただ、無理はできません」
「分かりました。速度を落として戻りましょう」
ヴィクターさんが護衛の配置を決め直した。
負傷した護衛兵には無理をさせず、私たちが前後を警戒する。シエラは先の道を確認し、タクマとコンラートさんが荷馬車の近くにつくことになった。
川を渡るときは、さすがに少し緊張した。
車輪が傷んだ荷馬車を、あの狭い場所で動かさなければならないのだから。
「ゆっくり! そっちは大丈夫です!」
御者さんの声に合わせて、荷馬車が少しずつ進む。
私はいつでも魔法を使えるようにしていたけれど、幸い出番はなかった。
何とか二台とも川を渡り終えたときには、思わず息を吐いた。
「……疲れた」
「まだ帰り道があるぞ」
タクマが笑った。
「分かってるよ……」
その後も慎重に街道を進み、開拓地へ戻った頃には、すっかり夜になっていた。
◇
野営地の入口では、警備兵たちが松明を持って待っていた。
荷馬車の姿が見えると、すぐにヴィクターさんのもとへ駆け寄ってくる。
「お戻りになりましたか! 何があったんです?」
「補給便が襲撃されました。負傷者はいますが、死者はいません。まずは荷馬車を中へ入れてください」
「承知しました!」
警備兵たちが通路を空け、荷馬車を東側の置き場へ誘導した。
私たちは負傷者を休ませる場所を確保してから、オリヴァーさんの天幕へ向かった。
「盗賊に襲われたのですか……」
報告を聞いたオリヴァーさんは、険しい顔になった。
「はい。渡河点の手前で荷馬車を止められ、複数人に襲われたそうです」
ヴィクターさんが状況を説明した。
「負傷者はリカさんに治療していただきました。幸い、死者はいません」
「それは何よりです。リカさん、ありがとうございました」
「いえ。みなさんが無事でよかったです」
本当に、それが一番だった。
怪我をした人たちには申し訳ないけれど、命を落とした人がいなかったのは不幸中の幸いだと思う。
ローレンスさんは帳簿を開き、被害の内容を確認していた。
「工具と金属部材ですか……。困りましたね」
「やっぱり、工事に影響が出ますか?」
私が尋ねると、ローレンスさんは頷いた。
「ええ。どの工具が足りなくなるか、明日確認しなければなりません。作業を止めずに済むものもあるでしょうが、そうでないものもあるはずです」
うーん。やっぱり。
ブルーノさんたち、明日は朝から大変そうだ。
コンラートさんが地図を広げ、襲撃された場所を示した。
「現場は渡河点の手前です。荷馬車が一台ずつしか進めない場所で、前方を倒木で塞がれたようです」
「そこを狙われた、ということでしょうか」
オリヴァーさんが尋ねた。
「可能性はあります。ただ、まだ断定はできません」
コンラートさんは慎重に答えた。
「襲撃者の人数も、逃走先も分かっていませんので」
「分かりました。明日以降、改めて調査を行いましょう」
オリヴァーさんはヴィクターさんへ向き直った。
「次の補給便については、護衛の配置と輸送方法を見直してください。街道周辺の警戒も強化しましょう」
「承知しました」
「ただし、開拓地の警備を手薄にしないようお願いします」
「はい。人員を確認して対応します」
話し合いが終わると、ローレンスさんが帳簿を持って立ち上がった。
「では、残った補給品を確認してきます。食料だけでも、今夜のうちに保管場所へ移しておきたいので」
「私たちも手伝いますよ」
タクマが答えた。
……まだ仕事があるのか。
いや、分かってる。食料を外に置いたままにはできないし、今夜のうちに片づけた方がいい。
でも、さすがに今日は疲れたなあ。
私は小さく息を吐き、タクマたちのあとを追った。
◇
東側の荷馬車置き場では、職人さんたちが松明の明かりを頼りに荷物を降ろしていた。
ローレンスさんが帳簿を開き、残っている木箱や袋を一つずつ確認していく。
「穀物、こちらに三袋。保存食の箱は二つ……。そちらの木箱もお願いします」
「はーい」
私は近くにあった木箱を持ち上げ、タクマと一緒に保管場所へ運んだ。
これがまた、結構重い。
魔法ならもっと大きなものだって動かせるのに、こういう細かな荷運びになると、結局は自分の腕を使うことになる。
……いや、魔法を使えばいいのかな。
でも、木箱を一つ運ぶたびに魔法を使うのも、なんだか違う気がする。
「リカ、そっちは奥の棚に頼む」
「分かった!」
タクマは大きな木箱を抱え、ほかの冒険者たちへ置き場所を指示していた。
こういうとき、本当に頼りになる。
本人に言うと調子に乗りそうだから、言わないけど。
私たちは何度か往復し、残っていた食料と生活用品を運び込んだ。
最後の木箱を置いたところで、ローレンスさんが帳簿を確認する。
「これで全部ですね」
「はい。残っていた分は運び終わりました」
タクマが答えた。
ローレンスさんは最後の品目に受領済みの印をつけ、帳簿を閉じた。
「ありがとうございます。これで今日の補給品の受け入れは完了です」
職人さんたちは空になった荷馬車を確認し、積荷を固定していた縄を片づけ始めた。
明日は、もう一度あの渡河点へ向かうことになる。
道を塞いでいた倒木に、刃物で切られた跡があるのか。今日は暗くなる前に、そこまで確かめることができなかった。




