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【完結】脱走王女は自由でありたい  作者: 真部 朝樹
【第6章】森の向こうの未来 

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第111話 消えた補給便


 グリューンヴァルト大森林に到着して、二十日目。


 最近、開拓地の朝はずいぶん賑やかになった。


 最初にここへ来た頃は、目を覚ませば聞こえてくるのは鳥の声と、見張りを交代する人たちの足音くらいだった。それが今では、炊事場から鍋の音がするし、あちこちで職人さんたちが仕事を始めるし、子どもたちは朝から元気に走り回っている。


 もっとも、工事区域には縄が張られているので、子どもたちも好き勝手に走り回れるわけではない。


 ブルーノさんたちが設けた区画の外から、何とか中を覗こうとしている子もいる。あそこまで気になるものだろうか。まあ、私も子どもの頃なら同じことをしていたかもしれない。


 炊事場では、クララさんがすっかり中心的な存在になっていた。宿屋の厨房で働いていた経験があるそうで、大勢の食事を用意する手際は見事なものだ。


 タクマもよく相談に乗っているらしく、二人で鍋の数や食材の使い方について話している姿を見かける。


 料理というのも、なかなか奥が深いらしい。


 そんな賑やかな朝が過ぎ、昼食を終えた頃になっても、予定していた補給便は到着していなかった。


「リカ、聞いてるか?」


「……聞いてるよ」


「絶対聞いてなかっただろ」


 隣を歩いていたタクマが呆れた顔をした。


 失礼な。ちゃんと聞いていた。今日の補給便がまだ到着していない、という話だったはずだ。


「補給便が遅れてるんでしょ?」


「それは合ってるけど、今話してたのは昼飯のことだ」


「……そっち?」


 タクマがため息をついた。


 最近、タクマは炊事場に顔を出すことが増えた。クララさんが加わったおかげで、食事の準備はずいぶん楽になったらしいけれど、今度は人数が増えた分だけ別の問題が出てくるそうだ。


 鍋が足りないとか、火を使う場所が足りないとか。


 私としては、毎日ちゃんと食べられるだけでも十分ありがたいのだけれど、タクマはそういうところで妥協しない。


「それで、昼飯がどうしたの?」


「もう食べたって話だよ」


「あ、そうだった」


「……大丈夫か、お前」


 大丈夫。たぶん。


 そんな話をしながら、私たちは東側の街道が見える場所まで歩いてきた。


 今日は集結地から補給便が届く予定になっている。食料や生活用品、それに工事で使う工具なども運んでくるらしい。


 開拓地には今、約二百人が暮らしている。


 それだけの人数が毎日食べて、飲んで、働いているのだから、物資の消費量も相当なものだ。タクマたちが頑張ってくれているとはいえ、食料が勝手に増えるわけではない。


 魔法で増やせたら便利なんだけどなあ。


「……まだ来てないね」


「そうだな。途中で何かあったか?」


「道が悪いから、遅れてるだけかもしれないよ」


 私たちがここへ来るときも、川を渡るところでずいぶん時間がかかった。荷馬車が一台ずつしか進めない場所だったし、あそこを通るたびに苦労するのだとしたら、御者さんたちも大変だ。


 そう思っていると、ローレンスさんがこちらへ歩いてきた。


「リカさん、タクマさん。少しよろしいでしょうか」


「はい。どうしました?」


「補給便の件で、オリヴァー様がお呼びです」


 ……あれ。


 ただ遅れているだけならいいけれど、わざわざ私たちを呼ぶということは、少し心配な状況なのかもしれない。


 私はタクマと顔を見合わせ、オリヴァーさんの天幕へ向かった。


     ◇


「補給便の様子を確認していただきたいのです」


 オリヴァーさんは、机に広げた地図を見ながらそう言った。


 天幕の中にはヴィクターさんもいて、街道側の見張りから聞いた状況を説明してくれた。今のところ、荷馬車が近づいてくる様子はないらしい。


「多少の遅れは想定していますが、このまま日没まで待つのも心配です」


「そうですね。途中で車輪が壊れたりしてたら、助けが必要かもしれませんし」


 私が答えると、ヴィクターさんが頷いた。


「少人数で確認に向かうつもりです。リカさんたちにも同行していただけると助かります」


「もちろんです」


 こういうときに頼まれるのは、別に嫌じゃない。


 街道の様子を見てくるだけなら、それほど難しい仕事でもないだろう。もし誰かが怪我をしていたら、私の魔法で治療できる。


 ……まあ、何も起きていないのが一番だけど。


 同行するのは私とタクマ、シエラ、コンラートさん、それにヴィクターさんの五人になった。


 ヴィクターさんは出発前に警備隊の分隊長を呼び、留守中の指揮を引き継いでいた。


 今の開拓地には家族連れも大勢いる。補給便が心配だからといって、こちらの警備を手薄にするわけにはいかない。


「では、行きましょう」


 準備を終えた私たちは、東側の街道へ出発した。


     ◇


 街道は、最初に通ったときよりも少し歩きやすくなっていた。


 何度も荷馬車が行き来しているおかげで、地面が踏み固められているらしい。ただし、木の根が張り出している場所や、道幅が狭くなっているところは相変わらずだ。


 こういう道を荷馬車で何度も往復するのは、やっぱり大変だと思う。


「……轍がある」


 先頭を歩いていたシエラが、足元を指した。


「今日の補給便かな?」


「……分からない。古いのも混ざってる」


「そっか」


 シエラは地面を見ただけで、私にはさっぱり分からないことを見つけてしまう。


 同じものを見ているはずなのに、どうしてこんなに違うんだろう。森で暮らしてきた経験というのは、やっぱりすごい。


 私が感心している間にも、シエラは足元を確認しながら先へ進んでいた。


「この先は渡河点ですね」


 コンラートさんが言った。


「そうですね。最初にここを通ったとき、荷馬車を一台ずつ渡した場所です」


 ヴィクターさんが答える。


 ああ、あそこか。


 川を渡る前に足場を確認したり、荷馬車の順番を決めたり、ずいぶん手間がかかった場所だ。私たちは歩いて渡れば済むけれど、大きな荷物を積んだ荷馬車はそうもいかない。


「もし車輪が壊れていたら、あの辺りかもしれませんね」


 私が言うと、コンラートさんは頷いた。


「可能性はあります。ただ、まだ何とも言えません」


 そのまましばらく歩いていると、シエラが急に立ち止まった。


「……待って」


 その声に、私たちも足を止める。


 シエラは街道の脇にしゃがみ込み、落ち葉を指先で少し動かしていた。


「……人が通ってる」


「街道なんだから、人くらい通るんじゃない?」


「……道の外から」


 私は改めて周囲を見回した。


 街道の脇には木々が密集していて、少し入ればすぐに人の姿が見えなくなりそうだ。よく見ると、枝が折れていたり、落ち葉が不自然に散らばっていたりする。


 ……言われなければ、絶対に気づかなかった。


 コンラートさんも近づき、地面を確認した。


「複数人が通ったようにも見えますが、これだけでは判断できませんね」


「……うん」


 シエラは頷き、立ち上がった。


 私たちは少し間隔を詰め、周囲を警戒しながら進んだ。


 さっきまで、ただ荷馬車が遅れているだけだと思っていたのに。


 嫌な予感がしてきた。


 そして、川へ近づいたところで、前方に停まっている荷馬車が見えた。


     ◇


「……あれ!」


 私が指差すと、タクマがすぐに前へ出た。


 荷馬車は二台。渡河点の手前にある狭い道で停まっていて、周囲には木箱や荷物が散らばっていた。


 何より、地面に座り込んでいる人がいる。


 私は思わず駆け出しかけたけれど、タクマに腕を掴まれた。


「待て、リカ。まだ安全か分からない」


「……うん」


 そうだった。


 怪我人がいるかもしれないからといって、何も考えずに飛び込んでいいわけじゃない。


 ヴィクターさんが前へ出て、荷馬車の近くにいる護衛兵へ声をかけた。


「開拓地の警備隊です! 状況を教えてください!」


 護衛兵がこちらを振り返った。


「ヴィクターさん! 助かった……!」


 その声を聞いて、ようやく少し安心した。


 私たちは周囲を確認しながら近づいた。


「何があったんですか?」


 ヴィクターさんが尋ねると、護衛兵は疲れ切った顔で答えた。


「盗賊に襲われました。荷物を奪われて、逃げられたんです」


 盗賊。


 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がひやりとした。


 この辺りにも、そんな連中がいるのか。


「怪我人はいますか?」


 私が尋ねると、護衛兵は頷いた。


「何人かいます。でも、死んだ者はいません」


「分かりました。治療します」


 私はすぐに負傷者のもとへ向かった。


 最初に診た護衛兵は、腕を刃物で切られていた。布で押さえていたものの、まだ血が滲んでいる。


「少し見せてくださいね」


 傷の状態を確認し、治療魔法を使う。


 淡い光が傷口を包み、開いていた皮膚がゆっくりと塞がっていった。


「……ありがとうございます」


「いえ。ほかに痛いところはありませんか?」


「大丈夫です。腕だけです」


「分かりました。でも、今日は無理をしないでくださいね」


 私は次の負傷者へ移った。


 肩を強く打った護衛兵と、荷馬車から降りたときに転んだ御者さん。ほかにも細かな擦り傷を負った人がいたけれど、幸い命に関わるような怪我はなかった。


 治療を終えたところで、ようやく少し息をついた。


 よかった。本当によかった。


 刃物で切られた傷を見ると、どうしても最悪のことを考えてしまう。治療魔法が使えるからといって、どんな怪我でも治せるわけではないのだから。


 私は負傷者たちに休むよう伝え、ヴィクターさんたちのところへ戻った。


     ◇


「前方に倒木があったんです」


 護衛兵が、川へ続く道を指した。


「荷馬車を停めて、どかそうとしたところを襲われました。両側から何人も出てきて……」


「顔は見ましたか?」


「いえ。全員、布で隠していました」


 ヴィクターさんが質問を続ける間、コンラートさんは街道の様子を確認していた。


 私も周囲を見回してみる。


 確かに、ここは荷馬車が一台ずつしか通れない。前に倒木があれば、後ろの荷馬車も停まるしかないだろう。


 しかも両側は森だ。


 ……嫌な場所を選んだものだ。


「前の荷馬車が停まったところで、後ろにも人が現れました」


 護衛兵は悔しそうに続けた。


「応戦したんですが、荷馬車の間に入り込まれてしまって。荷物を奪われました」


「追いかけなかったんですか?」


 私が尋ねると、護衛兵は首を振った。


「怪我人が出ていましたし、車輪も傷んでいたので……」


 言い終える前に、護衛兵は視線を落とした。


 きっと、逃がしてしまったことが悔しいのだろう。


「追跡しなかったのは正しい判断です」


 ヴィクターさんが答えた。


「皆さんが無事でよかった。まずは開拓地へ戻ることを考えましょう」


 護衛兵は小さく頷いた。


 コンラートさんが戻ってきた。


「襲撃する側にとっては、都合のいい場所ですね」


「やはり、ここを狙っていたのでしょうか」


 ヴィクターさんが尋ねる。


「その可能性はあります。前方を塞ぎ、後ろにも人を回せば、護衛の動きを制限できますから」


 コンラートさんは落ち着いた声で説明した。


 元王国軍の隊長だっただけあって、こういう状況でも冷静だ。私だったら、目の前に盗賊が出てきたら、とりあえず魔法で何とかしようとしてしまいそうだけれど。


 ……いや、それはそれで危ないか。


「それで、何を奪われたんですか?」


 ヴィクターさんが尋ねると、護衛兵は荷馬車の荷台へ案内してくれた。


 縄を切られた木箱がいくつかあり、中身が抜き取られている。


「工具や刃物類です。それと、金属の部材が入った箱も持っていかれました」


「食料は?」


「ほとんど残っています」


 私は荷台を覗き込んだ。


 穀物の袋や保存食の箱は、確かにそのまま残っている。大きな資材も動かされた様子がない。


「……ずいぶん選んで盗んだんだね」


 私が呟くと、タクマも頷いた。


「持ち運びやすくて、売れそうなものばかりだな」


「換金しやすい物資を狙ったのでしょう」


 コンラートさんが答えた。


「ただ、最初から積荷を知っていたのか、襲ってから選んだのかは分かりません」


「そうですよね……」


 私は残された食料の袋へ目を向けた。


 食料が無事だったのはありがたい。クララさんたちが困らずに済むし、開拓地のみんなも明日からちゃんと食べられる。


 でも、工具がなくなったらブルーノさんたちが困るだろうな。


 せっかくここまで運んできたものを、横から持っていくなんて。


 腹が立つ。


     ◇


 被害の確認が終わる頃には、日がかなり傾いていた。


 シエラは街道脇の森を調べていたけれど、しばらくして戻ってきた。


「……足跡はある」


「追えそう?」


「……途中までは。でも、地面が硬いところで途切れてる」


「人数は分かる?」


「……複数。正確には、まだ」


 私は森の奥へ目を向けた。


 木々の間はすでに薄暗くなり始めている。今からあの中へ入るのは、あまり気が進まない。


 シエラなら歩けるのかもしれないけれど、私たち全員が同じように動けるわけじゃない。


「今日は追跡を見送りましょう」


 ヴィクターさんが言った。


「負傷者もいますし、荷馬車も修理が必要です。まずは開拓地へ戻ります」


 私は少しだけ肩の力を抜いた。


 正直、助かった。


 盗賊を逃がしてしまうのは悔しいけれど、今から森の中へ飛び込んで、また誰かが怪我をするのは勘弁してほしい。


 それに、ここにいる人たちを置いていくわけにもいかない。


「荷馬車は動かせそうですか?」


 タクマが御者さんに尋ねた。


「一台は大丈夫です。ただ、もう一台の車輪が……」


 見せてもらうと、車輪の外側が一部欠けていて、固定している部品にも緩みが出ていた。


 うわあ。これはひどい。


「応急処置ならできるかもしれません」


 タクマが工具を確認し始めた。


 幸い、修理に使えそうな道具は残っていたらしい。御者さんと相談しながら、緩んだ部分を締め直し、傷んだところを補強していく。


 私はその間、荷物を降ろすのを手伝った。


 こういうとき、土魔法が得意なエステルさんがいたら、もう少し楽だったのかな。


 いや、車輪の修理は土魔法じゃどうにもならないか。


 結局、タクマと御者さんが頑張ってくれたおかげで、荷馬車は何とか動かせる状態になった。


「ゆっくりなら進めそうです」


 御者さんが車輪を確かめながら言った。


「ただ、無理はできません」


「分かりました。速度を落として戻りましょう」


 ヴィクターさんが護衛の配置を決め直した。


 負傷した護衛兵には無理をさせず、私たちが前後を警戒する。シエラは先の道を確認し、タクマとコンラートさんが荷馬車の近くにつくことになった。


 川を渡るときは、さすがに少し緊張した。


 車輪が傷んだ荷馬車を、あの狭い場所で動かさなければならないのだから。


「ゆっくり! そっちは大丈夫です!」


 御者さんの声に合わせて、荷馬車が少しずつ進む。


 私はいつでも魔法を使えるようにしていたけれど、幸い出番はなかった。


 何とか二台とも川を渡り終えたときには、思わず息を吐いた。


「……疲れた」


「まだ帰り道があるぞ」


 タクマが笑った。


「分かってるよ……」


 その後も慎重に街道を進み、開拓地へ戻った頃には、すっかり夜になっていた。


     ◇


 野営地の入口では、警備兵たちが松明を持って待っていた。


 荷馬車の姿が見えると、すぐにヴィクターさんのもとへ駆け寄ってくる。


「お戻りになりましたか! 何があったんです?」


「補給便が襲撃されました。負傷者はいますが、死者はいません。まずは荷馬車を中へ入れてください」


「承知しました!」


 警備兵たちが通路を空け、荷馬車を東側の置き場へ誘導した。


 私たちは負傷者を休ませる場所を確保してから、オリヴァーさんの天幕へ向かった。


「盗賊に襲われたのですか……」


 報告を聞いたオリヴァーさんは、険しい顔になった。


「はい。渡河点の手前で荷馬車を止められ、複数人に襲われたそうです」


 ヴィクターさんが状況を説明した。


「負傷者はリカさんに治療していただきました。幸い、死者はいません」


「それは何よりです。リカさん、ありがとうございました」


「いえ。みなさんが無事でよかったです」


 本当に、それが一番だった。


 怪我をした人たちには申し訳ないけれど、命を落とした人がいなかったのは不幸中の幸いだと思う。


 ローレンスさんは帳簿を開き、被害の内容を確認していた。


「工具と金属部材ですか……。困りましたね」


「やっぱり、工事に影響が出ますか?」


 私が尋ねると、ローレンスさんは頷いた。


「ええ。どの工具が足りなくなるか、明日確認しなければなりません。作業を止めずに済むものもあるでしょうが、そうでないものもあるはずです」


 うーん。やっぱり。


 ブルーノさんたち、明日は朝から大変そうだ。


 コンラートさんが地図を広げ、襲撃された場所を示した。


「現場は渡河点の手前です。荷馬車が一台ずつしか進めない場所で、前方を倒木で塞がれたようです」


「そこを狙われた、ということでしょうか」


 オリヴァーさんが尋ねた。


「可能性はあります。ただ、まだ断定はできません」


 コンラートさんは慎重に答えた。


「襲撃者の人数も、逃走先も分かっていませんので」


「分かりました。明日以降、改めて調査を行いましょう」


 オリヴァーさんはヴィクターさんへ向き直った。


「次の補給便については、護衛の配置と輸送方法を見直してください。街道周辺の警戒も強化しましょう」


「承知しました」


「ただし、開拓地の警備を手薄にしないようお願いします」


「はい。人員を確認して対応します」


 話し合いが終わると、ローレンスさんが帳簿を持って立ち上がった。


「では、残った補給品を確認してきます。食料だけでも、今夜のうちに保管場所へ移しておきたいので」


「私たちも手伝いますよ」


 タクマが答えた。


 ……まだ仕事があるのか。


 いや、分かってる。食料を外に置いたままにはできないし、今夜のうちに片づけた方がいい。


 でも、さすがに今日は疲れたなあ。


 私は小さく息を吐き、タクマたちのあとを追った。


     ◇


 東側の荷馬車置き場では、職人さんたちが松明の明かりを頼りに荷物を降ろしていた。


 ローレンスさんが帳簿を開き、残っている木箱や袋を一つずつ確認していく。


「穀物、こちらに三袋。保存食の箱は二つ……。そちらの木箱もお願いします」


「はーい」


 私は近くにあった木箱を持ち上げ、タクマと一緒に保管場所へ運んだ。


 これがまた、結構重い。


 魔法ならもっと大きなものだって動かせるのに、こういう細かな荷運びになると、結局は自分の腕を使うことになる。


 ……いや、魔法を使えばいいのかな。


 でも、木箱を一つ運ぶたびに魔法を使うのも、なんだか違う気がする。


「リカ、そっちは奥の棚に頼む」


「分かった!」


 タクマは大きな木箱を抱え、ほかの冒険者たちへ置き場所を指示していた。


 こういうとき、本当に頼りになる。


 本人に言うと調子に乗りそうだから、言わないけど。


 私たちは何度か往復し、残っていた食料と生活用品を運び込んだ。


 最後の木箱を置いたところで、ローレンスさんが帳簿を確認する。


「これで全部ですね」


「はい。残っていた分は運び終わりました」


 タクマが答えた。


 ローレンスさんは最後の品目に受領済みの印をつけ、帳簿を閉じた。


「ありがとうございます。これで今日の補給品の受け入れは完了です」


 職人さんたちは空になった荷馬車を確認し、積荷を固定していた縄を片づけ始めた。


 明日は、もう一度あの渡河点へ向かうことになる。


 道を塞いでいた倒木に、刃物で切られた跡があるのか。今日は暗くなる前に、そこまで確かめることができなかった。


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