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【完結】脱走王女は自由でありたい  作者: 真部 朝樹
【第6章】森の向こうの未来 

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第107話 森の最初の夜


 タクマを探しに荷馬車の方へ向かうと、ちょうど職人の班長と話を終えたところだった。


「タクマー! ご飯できそうだよ!」


「おう、今行く。そっちは見張りの組み合わせ、決まったか?」


「うん。ヴィクターさんにも伝えてあるよ」


「それなら、ひとまず今日の仕事は終わりか」


「そうだといいんだけどね」


 私がそう答えると、隣にいたシエラが小さく頷いた。


「……ご飯が先」


「分かってるって。シエラはさっきからそればっかりだね」


「……お腹、空いた」


 タクマが笑いながら歩き出し、私たちもその後に続いた。


 広場の中央では、炊事を担当する職人たちが大鍋を囲んでいた。今日の夕食は干し肉と野菜を煮込んだスープに、集結地から持ってきた硬いパンだ。豪華とは言えないけれど、三日間の移動を終えたばかりの私たちには十分ありがたかった。


 焚き火の周囲には、すでに何人もの冒険者や警備兵が集まっている。食事を受け取った者から空いている場所に腰を下ろし、今日の道中について話していた。


「いやあ、あの川には参ったな。まさか昼近くまでかかるとは思わなかった」


「荷馬車が一台ずつしか渡れなかったからな。あれで車輪でも外れてたら、まだ向こう岸にいたぞ」


「縁起でもないこと言うなよ」


 そんな会話を聞きながら、私たちもスープを受け取った。


 近くの丸太に腰を下ろすと、シエラは早速パンをちぎり始めた。タクマも隣に座り、スープの具を確かめている。


「明日は整地からだっけ?」


 私が尋ねると、タクマは頷いた。


「その予定。職人さんたちが地面の状態を調べてくれたから、まずは中央の草地から手をつけるらしい」


「荷馬車の場所はもう決まったし、あとは天幕を増やしたり、道を作ったり?」


「それもあるけど、先に水の流れを確認したいって言ってたな。雨が降ったときに野営地が水浸しになったら困るだろ」


「確かに。南側は地面が軟らかかったもんね」


「そういうこと。まあ、詳しい話は明日の朝だ」


 タクマはパンをスープに浸してから口へ運んだ。


「それにしても、ここでしばらく暮らすことになるんだよな」


「そうだね。後続の人たちが来るまでは、私たちだけで何とかしないと」


「四十五人もいるんだから、何とかなるさ」


「……四十五人分、ご飯がいる」


 シエラの一言に、タクマが吹き出した。


「そうだな。それが一番大事かもしれない」


 私は笑いながら、もう一度広場を見回した。


 中央にはまだ数張りの天幕しかなく、荷馬車から降ろしていない荷物も多い。水を使うたびに南側の水場まで汲みに行かなければならず、道具の置き場所も仮決めのままだ。


 明日から忙しくなりそうだった。


     ◇


 夕食が終わる頃には、森の向こうへ日が沈みかけていた。


 私とタクマはヴィクターに呼ばれ、北側の警戒場所へ向かった。シエラとコンラートも一緒だ。


 広場の北側には背の高い木々が密集しており、昼間でも奥の方は薄暗い。今は夕暮れの影が伸び、少し離れただけで人の姿が見えにくくなっていた。


「こちらをご覧ください」


 ヴィクターが警備兵の一人を少し先へ歩かせた。


 男は木々の間を進み、十数歩ほど離れたところで立ち止まる。まだ姿は確認できるけれど、その向こうにある太い幹の陰へ入ると、あっという間に見えなくなった。


「この辺りは、見張りを置くだけでは互いの位置を確認しづらいんです。昼間は問題ありませんが、夜になるとさらに見通しが悪くなります」


「なるほど。じゃあ、見張りの場所を変えた方がいいのかな?」


 私が尋ねると、コンラートが周囲を確認しながら口を開いた。


「少し間隔を詰めた方がよいでしょう。夜間は遠くまで見通せませんから、互いに連絡を取れる位置を優先した方が安全です」


「見張りの人数は足りますか?」


 タクマの問いに、ヴィクターが答える。


「警備隊と冒険者を合わせれば対応できます。ただ、北側だけに人を集めすぎるわけにもいきません」


 シエラは近くの木に手を当て、枝の向こうを見つめていた。


「……ここ、音が分かりにくい」


「音?」


「……木に当たって、違う方から聞こえる」


 そう言われて耳を澄ませると、確かに森の中ではいろいろな音が重なっていた。風に揺れる葉の音、どこかで鳴いている鳥の声、枝が擦れ合う音。少し離れた場所から聞こえたはずの物音が、別の方向から響いてくることもある。


「……音だけで、場所を決めない方がいい」


「では、不審な音がした場合も、すぐに追いかけない方がよさそうですね」


 ヴィクターが言うと、シエラは頷いた。


 コンラートも同意した。


「一人で確認に向かえば、持ち場が空いてしまいます。まずは報告し、必要なら別の者を向かわせるべきでしょう」


「分かりました。北側は二人一組とし、互いに連絡が取れる位置に配置します。異変があっても勝手に持ち場を離れず、待機している冒険者へ連絡するよう徹底しましょう」


 ヴィクターはその場で警備兵を呼び、配置の変更を伝えた。


 見張りの位置を分かりやすくするため、木の幹には目印となる布を結びつけることになった。視界を遮る枝も、必要な部分だけを払っておく。


 作業を始めた警備兵たちを見ながら、タクマが私に小声で話しかけた。


「森の中だと、街道沿いの野営とは勝手が違うな」


「うん。昼間に見たときは、ここまで暗くなると思わなかった」


「見張りをする方も大変だ」


「……慣れれば、少し分かる」


 シエラが振り返った。


「……でも、暗いと見えないものは見えない」


「シエラでも?」


「……うん」


 そう答えたシエラは、何でもないことのように木々の間へ視線を戻した。


     ◇


 夜が深まると、野営地の様子はすっかり変わった。


 夕食の間は賑やかだった焚き火の周囲も静かになり、ほとんどの人が天幕へ入っている。広場に残っているのは、火の管理をする者と夜間警戒の担当者くらいだ。


 私とタクマは、最初の見張りが交代する前に各所を確認して回ることにした。


 東側には荷馬車が一列に並び、その外側を警備兵が巡回している。南側の水場へ続く道には目印が置かれ、暗くなってから不用意に近づかないよう、通路の入口にも見張りがいた。


 北側へ向かうと、若い冒険者が二人、木々の間をじっと見つめていた。


「お疲れさま。何か変わったことはあった?」


 私が声をかけると、一人が少し困ったような顔をした。


「いや、それが……さっきから何かが動いているような気がするんですけど、姿が見えなくて」


「どの辺り?」


「向こうの木の辺りです。何度か枝が鳴ったんですよ」


 私も耳を澄ませてみた。


 確かに、かさかさと葉が擦れるような音がする。けれど、それが風なのか動物なのか、私には判断がつかなかった。


 ちょうど近くにいたシエラが、ゆっくりと顔を上げた。


「……あれは、風」


「えっ、そうなんですか?」


「……上の枝が揺れてる」


 見上げると、高いところにある枝が風に揺れ、そのたびに葉が触れ合っていた。


「じゃあ、今のは?」


 若い冒険者が別の方向を指した。


 少し離れたところで、短く甲高い声が響く。


「……鳥」


「全部分かるんですか?」


「……全部は、分からない」


 シエラはあっさり答えた。


「……一度だけじゃ、決められない。続けて聞く」


「続けて、ですか?」


「……足音なら、何度か鳴る。枝なら、風でまた揺れる」


 若い冒険者は真剣な顔で頷いた。


 私も森の奥へ視線を向けた。魔力の気配を探ることはできるけれど、普通の動物が立てる小さな物音まで、魔法で全部把握できるわけではない。


「分からないときは、無理に確かめに行かずに報告してね」


「はい。分かりました」


 私たちは二人を残し、次の警戒場所へ向かった。


「シエラ、ありがとう。助かったよ」


「……まだ、何もしてない」


「いや、十分してくれたと思うけど」


 タクマがそう言うと、シエラは少し首を傾げた。


「……そう?」


     ◇


 最初の見張りの交代が終わり、私たちも一度休むことになった。


 天幕の中にはすでに毛布が敷かれていたけれど、地面の硬さまではどうにもならない。横になると背中に小さな石の感触があり、私は何度か寝返りを打った。


「……寝られないのか?」


 隣からタクマの声がした。


「ううん。ちょっと地面が硬くて」


「明日、下に敷くものを増やせるか聞いてみるか」


「そうだね。でも、みんな同じだろうし、贅沢は言えないかな」


 しばらくすると、タクマの寝息が聞こえ始めた。


 私は目を閉じたものの、外から聞こえる音が気になって、なかなか眠れなかった。


 木々を揺らす風の音に混じって、遠くから低い鳴き声が聞こえてくる。何かが地面を引っかくような音もしたけれど、それが本当に外から聞こえたのか、天幕の布が擦れただけなのかも分からない。


 やがて少し眠ったらしく、次に目を開けたときには、外で誰かが話している声がした。


「……北側から報告です」


 聞き慣れた警備兵の声だった。


 私は身を起こした。


 隣ではタクマも目を開けている。


「何かあったみたいだな」


「うん。ちょっと確認してくる」


「俺も行くよ」


 私たちは装備を整え、天幕の外へ出た。


 焚き火の近くでは、ヴィクターが警備兵から報告を受けていた。


「北側の林から、枝の折れる音と足音が続けて聞こえたそうです。こちらへ近づいている可能性があります」


「姿は確認できましたか?」


「まだです。ただ、音が一度きりではなく、何度か続いているとのことです」


 ヴィクターは私たちに気づくと、状況を説明してくれた。


「見張りの一人が確認に向かおうとしたそうですが、もう一人が止め、決めた手順どおりに報告してきました」


「じゃあ、見張りの人たちは持ち場に残ってるんですね」


「はい。こちらで確認する人員を向かわせます」


 私は頷いた。


「私も行きます。シエラを呼んでもいいですか?」


「お願いします。森の様子を確かめてもらえると助かります」


 タクマがシエラを呼びに行き、その間に私は周囲の魔力を探ってみた。


 今のところ、近くに強い魔力の反応は感じられない。ただ、これだけで安全だと決めつけることはできなかった。


 ほどなくして、シエラが弓を持って現れた。


「……何か来た?」


「北側で足音がしたんだって。まだ姿は見えてないみたい」


「……分かった」


 ヴィクターが警備兵を二人連れ、私たちも一緒に北側へ向かった。


     ◇


 北側の見張り場所へ着くと、二人の冒険者がこちらを振り返った。


「リカさん、あっちです」


 一人が林の奥を指した。


「最初は枝が折れる音だけだったんですが、その後、落ち葉を踏む音が何度も続いて……」


「それで、もう少し近くで確認しようとしたんですけど」


 もう一人が言いかけると、隣の冒険者が苦笑した。


「決めたばかりの手順を破るなって、俺が止めたんです」


「いや、分かってるよ。だからちゃんと待ってただろ」


 二人のやり取りを聞いて、ヴィクターが頷いた。


「その判断で構いません。持ち場を離れずに報告してくれて助かりました」


 私たちは少し離れた場所から、林の奥を確認することにした。


 シエラが前へ出て、じっと耳を澄ませる。


 しばらくすると、がさり、と茂みが揺れた。


 続いて、何かが地面を掘るような音がする。


「……何かいる」


 シエラが小さく言った。


「魔物かな?」


「……たぶん、違う」


「分かるの?」


「……足音が軽い。何頭かいる」


 私はもう一度魔力の気配を探った。


 確かに、魔物らしい強い反応はない。


 けれど、シエラはまだ弓を下ろさず、茂みの向こうを見つめていた。


「……近づいてくる」


 次の瞬間、木々の間から小さな影が現れた。


 ずんぐりとした胴体に短い脚。鼻先を地面へ近づけ、落ち葉を押しのけながら歩いている。


「……猪?」


 私が呟くと、タクマも目を凝らした。


「似てるな。あれ、三頭いるぞ」


 親子なのか、少し大きな一頭の後ろを、小さな二頭がついてきていた。こちらにはまだ気づいていないらしく、地面の匂いを嗅ぎながら少しずつ近づいてくる。


「食べ物を探してるのかな?」


「……たぶん」


 シエラが答えた。


「……焚き火の匂いも、届いてるかも」


 そのとき、大きな一頭が顔を上げた。


 鼻先を動かし、こちらの方を向く。


 私たちと目が合ったような気がした。


「……気づいた」


 シエラが言うのとほぼ同時に、獣は短く鳴いた。


 すると三頭は一斉に向きを変え、茂みの奥へ走り去っていった。枝が揺れ、落ち葉を踏む音が遠ざかっていく。


 私たちはしばらくその場で様子を見ていたけれど、獣たちが戻ってくる気配はなかった。


「……行った」


 シエラが弓を下ろした。


「よかった。魔物じゃなかったんだね」


 私が言うと、タクマも息をついた。


「夜中に戦闘にならなくて助かったな」


 ヴィクターは警備兵へ指示を出し、北側の警戒を続けるよう伝えた。


「野生動物とはいえ、野営地の近くまで来たことは確認できました。今夜は配置を変えず、引き続き警戒してください」


「承知しました」


 見張りの冒険者たちも頷いた。


 そこへ、連絡を受けて様子を見に来たコンラートが合流した。


「状況は聞きました。被害はなかったようですね」


「はい。小型の獣が数頭近づいてきただけでした」


 私が説明すると、コンラートは見張りの二人へ目を向けた。


「報告も早かったと聞いています。よい判断でした」


「ありがとうございます」


「ただ、今後も同じようなことがあるでしょう。音だけで判断できない場合は、今日と同じように連絡してください」


「はい!」


 ヴィクターもその場で状況を確認し、必要な人員だけを残して解散を指示した。


 結局、野営地の大半の人たちは何があったのかも知らず、天幕の中で眠ったままだった。


     ◇


 その後は大きな異変もなく、夜間警戒の交代が進んだ。


 私とタクマも残りの休息を取り、次に目を覚ましたときには、天幕の外が明るくなり始めていた。


 森の朝は思っていたよりも賑やかだった。


 夜中には聞こえなかった鳥の声があちこちから響き、木々の間を小さな動物が走り回っている。焚き火の近くでは、早起きした職人たちが朝食の準備を始めていた。


「おはよう、タクマ」


「おはよう。結局、あれから何もなかったみたいだな」


「うん。見張りの人たちも、特に変わったことはなかったって」


 天幕を出ると、ヴィクターがオリヴァーへ昨夜の報告をしているところだった。


 オリヴァーは少し驚いた顔をしたものの、被害がなかったと聞くと安心したように頷いた。


「野生動物が近づいてきたのですね」


「はい。見張りが早めに報告したため、警戒担当者だけで対応できました」


「分かりました。北側の配置は、しばらくそのまま維持してください」


「承知しました」


 ヴィクターが答えると、オリヴァーは続けて職人の班長へ声をかけた。


「食料の保管場所も、早めに決めた方がよさそうですね」


「そうですね。今は荷馬車に積んだままですが、獣が匂いにつられて来るなら、保管方法も考えた方がよさそうです」


「では、今日の作業の中で検討しましょう」


 私はそのやり取りを聞きながら、昨夜の獣たちの姿を思い出した。


 確かに、あの三頭が食べ物の匂いにつられて来たのなら、また近づいてくる可能性もある。荷物を置く場所だけでなく、食べ残しの片づけ方にも気をつけた方がよさそうだった。


 朝食を終えると、先遣隊はそれぞれの作業を始めた。


 警備兵は昨夜と同じ配置で周辺を警戒し、冒険者たちは必要に応じて職人の作業を手伝う。職人たちは測量器具や工具を荷馬車から降ろし、中央の草地へ運び始めていた。


 その中に、エステルの姿があった。


     ◇


「それで、今日はどこから始めるんですか?」


 エステルが職人の班長に尋ねた。


 班長は地面に打たれた杭を確認し、中央の草地の一角を指した。


「まずは、この範囲を平らにしたいんです。大きな石や木の根もありますから、普通に人手で作業すると結構な時間がかかりまして」


「土を動かすだけなら、私の魔法でできると思いますけど」


「本当ですか?」


「ええ。ただ、どこをどう動かすかは教えてください。適当に平らにすればいいというものでもないでしょうし」


 班長は嬉しそうに頷いた。


「助かります。では、まず小さな範囲で試してみましょう」


 私とタクマも近くで作業の様子を見守ることにした。


 職人たちは地面に目印を置き、どの部分を削り、どこへ土を移動させるかを説明していく。エステルはそのたびに頷き、指示された範囲を確認していた。


「では、ここからここまでですね」


「はい。まずは表面の凹凸をなくす程度でお願いします。深く掘りすぎないようにしてください」


「分かりました」


 エステルが地面へ手を向けた。


 次の瞬間、草地の一部がゆっくりと盛り上がり、土が波打つように動き始めた。


 小さな石が押し出され、盛り上がっていた部分の土が低い場所へ流れていく。木の根が露出しているところでは動きを止め、職人たちが根の位置を確認してから、周囲の土だけを移動させた。


 しばらくすると、さっきまで凸凹だった地面が、目に見えて平らになっていた。


「……すごい」


 思わず私が呟くと、タクマも感心したように頷いた。


「これ、普通にやったら相当な作業だぞ」


 職人の班長も、目を丸くして地面を見つめていた。


「……これ、人手でやったら半日かかりますよ」


「えっ、そんなに?」


 エステルは少し得意げに笑った。


「それなら、結構お役に立てそうですね」


「ええ。これなら作業がずいぶん進みます」


 ただし、班長はすぐに地面へしゃがみ込み、表面の土を手で触った。


「とはいえ、まだ踏み固める必要がありますね。こちらの石も取り除きたいですし、雨が降ったときに水が溜まらないかも確認しないと」


「ああ、そういう作業は残るんですね」


「もちろんです。平らになっただけでは、まだ使えませんから」


 エステルは少し意外そうな顔をしたけれど、すぐに頷いた。


「分かりました。じゃあ、必要なところを教えてください」


 班長は職人たちに声をかけ、地面の硬さと高さを測り始めた。


 私たちも少し離れた場所から、その作業を眺めていた。


「タクマ、これなら整地も結構早く進みそうだね」


「そうだな。ただ、エステルさん一人に全部任せるわけにもいかないし、どこまで魔法でやるかは考えないとな」


「うん。魔力だって無限じゃないしね」


 そんな話をしているうちに、班長が測量を終えた。


「よし。この範囲は予定どおりです」


 班長は目印の杭を打ち直し、エステルへ声をかけた。


「では、次はあちらをお願いします」


「……本当に次もやるんですね」


「もちろんです。今日はここから始めますから」


 エステルが小さくため息をつくと、近くにいた職人たちから笑い声が上がった。


 班長は次の作業範囲を示し、職人たちが測量器具と杭を運び始めた。


「じゃあ、次の場所も確認しましょうか」


 エステルは袖をまくり直し、班長の後について歩いていった。


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