↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神の祝福で始まり、終わる世界 ~私を殺した父は、今日も救世主と呼ばれている~  作者: ぶりーさ
序章:女神の祝福

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/13

前夜

(ここは……?)


 脈絡もなく現れる光景。昨日見た夢の感覚とは違う。即座に現実ではないと分かる。

 記憶(トラウマ)が、抑えられていた蓋を押しのけ、頭の中へと溢れ出してくる感覚。自分のものではないはずの景色が、音が、匂いが、濁流のように流れ込んでくる。

(これは……何……? 頭が……割れる……!!)


 膨大な記憶(トラウマ)の質量に、押しつぶされる。


 ◆


 ──悲鳴の雨

 空が、泣いているようだった。降り注ぐのは雨ではなく、人々の叫び。逃げ惑う足音と、崩れ落ちる石の音が、どこまでも重なり合っていく。


『──……にはシャ……加護……か!?』

『神は……も……ない……』

『……おしまいだ』


 ◆


 ──破滅の結末

 人々の燃え尽きる感情、朽ちていく躰。東の空に朝日が昇るのと同時に、西の空は夜に呑まれていく。朝と夜が、同時に訪れていた。

 まるで「世界の前提」そのものが書き換えられたかのような光景。


「目覚めると君はどこにもいない」


 誰の声なのか分からない。1人だけの記憶ではないような、自分と他人との境界が曖昧になっていくような感覚。

 断片的に明滅する記憶。


 ◆


 ──拒絶の果て

 焼け落ちた世界の中心に、宵闇を幾重にも織り込んだドレスを身にまとう存在が佇んでいた。全能者というべきか。言葉にするより先に、確かに私はその存在を感じた。

 視線が落ちる。その足元にあるものを見て、私ははっと息を呑んだ。

「──っ!」


 最後に、声が聞こえたような気がする。

「次に巡り合うときは……君を……君を………た」


 何故だかわからない。けれど、懐かしさと寂しさが、静かに、絶え間なく降り注いでいた。


 ◇


「おーい。シャルロット、着いたぞ」


 少し前から目は覚めていたのだが、先ほどの感覚が忘れられず、目を開けるのを拒んでいた。

 頬に、乾いた涙の跡が残っている。私はそれを、父に気づかれないようにそっと拭った。

 そして父の言葉に促され、重い瞼を持ち上げる。


「んー……」


 小さく息を吐きながら、ゆっくりと両腕を頭の上に伸ばした。2日間揺られ続けた身体は、あちこちが軋んでいる。

 馬車の窓の向こうに広がるのは、故郷とはまるで違う景色だった。

 見上げるほどに巨大な城門。その向こうへ吸い込まれていく、人、物、文化。そのすべてが集まる、「国の中心」としての賑わい。


「相変わらず騒がしい街ですね……」


 来るのは初めてではないが、王都というのは来るたびに驚かされる。数千年の歴史が息づく石畳の街並み。

 そして家々の屋根の向こうには、大神殿の白い尖塔が、空を突くようにそびえていた。明日、私はあそこで祝福を受ける。


「シャルロット、前にも言ったが儀式は明日行われる。でもその前に、今日はおいしいものを食べるぞ!」

 私は思わず苦笑いを浮かべた。父の本当の目的は、それなのではないかと思えてくる。……なんて冗談よ。

 馬車を降り、父とともに目的の店へと向かう。大通りの人の多さは想像以上で、気を抜けばすぐに流されてしまいそうだった。私は人混みを避けるように、父の背中を追って歩く。


「シャルロット、離れるなよ」

「子供扱いしないで」

 そう言いながらも、父は何度も振り返っては、私がついてきているかを確かめていた。


 目的の店の前に着くと、私たちは懐かしい姿を目にした。

 王国騎士団の隊服を身にまとい、腰には1振りの剣。黒髪に、海を思わせるような蒼い瞳。顔立ちは整っているが、どこかまだ幼さを感じさせる少年。


「……ん? まさか、シャルか?」

 この声は間違いない。

 私と同い年の幼馴染。彼は10歳の若さで騎士団の門を叩き、故郷を出ていった。会うのはそれ以来になる。


「ローラン!? ローランなのね! 久しぶりね。貴方もとても成長して……ないわね。まだ私のほうが背が高いもの」

「うるさい。僕は貴様のような無神経さが嫌いだ」

 ローランはむっとしたように眉を寄せ、それから小さく付け加えた。

「それに、僕はこれから伸びるぞ」

 相変わらず生意気で、負けず嫌いなところが変わっていない。それがなんだか嬉しくて、つい笑みがこぼれる。


「何が可笑しいんだ、まったく。僕はお前と違って暇じゃないんだ。ところで、お前は何をしに来たんだ?」

「女神様からの祝福を受けに来たのよ。とうとう私もこの時が来たってわけ。この街は疲れるから、早く帰りたい気持ちはあるんだけどね」

 その言葉を聞いたローランは、一瞬だけ顔を曇らせたように見えた。だが、すぐに表情を切り替える。


「そうか。お前も、そういえばそうだったな。……ただ、最近は女神様の儀式を狙った事件も増えているらしい。気をつけるんだな」

 その言葉を聞いて、私はまた胸騒ぎがした。ここ数日続く悪夢。馬車の中で見た、あの光景。

 ──『あの時、ここにやって来なければ』

 そんな、もしものことを後になって考えるかもしれない。根拠もなく、そんな予感がした。


 父が口を開いた。

「ローラン、すまん! ちょっと俺は用事があるから、少しの間だけでいい、シャルロットを見ていてやってくれないか。先に宿へ連れて行ってもらえると助かる」

「何故僕がこんなやつのことを……。まあ、仕方がない。早く済ませてくるんだな」

「おいしいものは?」

「戻ってからだ!」

 父は軽く手を上げて礼を言うと、行き交う人々の波へと身を滑り込ませていった。何度か見え隠れしていたその背中も、ほどなくして雑踏の向こうへ消えてしまう。

 早く戻ってきてくれればいいのだけれど。


「……では、僕たちも行こうか」

 ローランの言葉に頷き、私たちもまた人混みの中へと歩き出した。目指す宿は、ここからそう遠くない。


 ◇


 子供たちと別れた父は、王都の中央──大広場にそびえる女神像へと向かっていた。

 幾本もの大通りが交わるその場所は、遠くからでも、建物の屋根越しに白い女神の姿が覗いて見える。広場では鳩が群れをなして舞い、像の足元には祈りを捧げる人々の姿が絶えなかった。花を供える老婆。手を合わせる若い夫婦。


 父はその人波の外れで足を止め、ゆっくりと像を見上げた。何百年ものあいだ変わらぬ微笑みを浮かべる、白い石の女神。

 その姿を目にした瞬間、父の表情から、わずかに温度が消えた。無意識のうちに、その手が自らの胸元へと伸びる。



「14年振りか……。この14年間、時計の音はいつもより早く時を刻んでいたように感じるな」

 呟きは、広場の喧騒にかき消され、誰の耳にも届かなかった。


 ◇


 時を同じくして、王都の喧騒から外れた、細い路地裏。

 陽の光さえ満足に届かない石壁の陰に、いくつかの人影があった。皆一様に外套を纏い、深くフードを被っている。

 その中心に立つ1人が、壁にもたれかけていた背を起こした。外套の裾から、使い込まれた剣の鞘が覗く。


「……準備は?」

「整っています。明日、大神殿へ」

 仲間の1人が答えると、フードの奥で、小さく笑う気配がした。


「そっか。……ずいぶん待たせちゃったね」

 その声は、若い女のものだった。軽やかで、どこか楽しげで、それでいて揺るぎのない響きを帯びている。

 フードの人物は、路地の隙間から覗く大神殿の尖塔を見上げた。その顔は、深く被ったフードの影に隠れて見えない。


「──私たちの女神様に、最高の祝福を届けようじゃないか!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。