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第8話 従妹からの宝石夜会招待

 王都から届いた招待状は、やけに甘い香りがした。


 差出人はセリーヌ。封蝋には伯母の紋章、その中央に青いガラス石が埋め込まれている。遠目には立派だが、近くで見れば安いものだとすぐわかった。


「宝石夜会?」


 マルタが私の肩越しに覗き込む。


「ええ。『北方で傷を癒やした姉へ、ぜひ新作のお披露目を見に来て』だそうです」


 文面を読み上げると、工房の若い職人たちが露骨に顔をしかめた。


「馬鹿にしてる」


「してますね」


 けれど私は紙を折って机に置いた。怒りで破るには惜しい。そこには向こうの焦りも滲んでいたからだ。もし本当に私が北方で潰れているだけなら、わざわざ招待など寄越さない。


 封蝋の石を外して見ると、裏面に細い擦れ傷がある。母の工房で仮留めに使っていた古い枠と同じ幅だ。


「盗んだ石を、こんなところにまで使うなんて」


 呆れ半分でつぶやくと、公爵が後ろから問うた。


「行くのか」


 私は少し考えてから首を振る。


「今はまだ行きません。夜会に出るだけなら、向こうの演出に付き合うことになる」


「賢い」


 褒められたというより、判断を共有されたようで少し嬉しい。


 私は招待状の裏へ、簡単な返事を書いた。『北方工房の立て直しで忙しいため欠席いたします。お披露目のご成功をお祈りします』。冷たくもなく、隙もない文章だ。


 公爵がそれを見て言う。


「王都向きの返しだな」


「ええ。こちらが感情的だと思われない程度には」


 すると彼は、窓辺に置いていた小箱を私へ寄こした。中に入っていたのは、工房で磨き直した小さな水晶のブローチだった。派手ではないが、光が澄んでいる。


「欠席の返事に添える」


「これは?」


「北方の現状報告だ。まだ粗いが、死んではいないと見せるには足りる」


 私は笑ってしまった。なんて不器用な反撃だろう。でも、とても好きなやり方だった。


 その夜、返書と一緒にブローチを送った。


 北方は沈んでいない。


 私は王都の夜会には行かなかったが、その代わりに向こうへひとつの事実を返した。曇った石も、正しく扱えばもう一度光るのだと。


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