第5話 偽物の祝冠石
祝冠石の調査は、在庫より先に納品記録から崩れた。
北方工房に残っていた発送控えには、星彩石一号の重量、寸法、爪座番号まで細かく書かれている。その横に、母の代から使われてきた二重星刻印の番号があった。
私は王都から持ってきた写しと並べる。
王都側の受領記録だけ、爪座番号の最後の数字が書き換えられていた。
「見つけたか」
いつの間にか、公爵が後ろに立っていた。
「はい。北方から出た時点の石は本物です。すり替えは王都へ着いてから」
私は石座の図を指でなぞる。
「しかも、正規の職人ではありません。爪の角度が粗い。急いで似せた跡です」
「それを送れば終わるか」
私は首を振った。
「局長たちは、紙一枚くらい消します。見本帳の頁と同じです。もっと動かせない証拠が要ります」
公爵はしばらく黙っていたが、やがて卓上の小箱を私の方へ滑らせた。
「なら、これも見ろ」
中には、王都から返送されてきた不良石の束が入っていた。工房の責任として突き返されたものだという。その中に、祝冠石と同じサイズの青石がひとつ混じっていた。
持ち上げた瞬間、軽いとわかる。
星彩石ではない。表面に星模様を写し込んだガラス石だ。しかも裏面の接着痕が新しい。
「これを北方のせいにしたんですか」
「ああ」
怒りより先に、呆れがきた。王都はこんな粗末な偽物で、宝冠と工房と私をまとめて潰すつもりだったのだ。
私はガラス石を光へかざした。中身が空虚だから、光が石に留まらない。
「偽物は、見た目だけなら人を騙せます。でも長くは持ちません」
「おまえは怒鳴らないんだな」
「怒鳴ったところで、石は本物になりませんから」
公爵の口元が、また少しだけ動いた。
その夜、私は新しく調査帳を作った。祝冠石の経路、爪座番号、書き換え跡、返送偽物の重量差。全部を一冊にまとめる。消されても、別の場所に残るように。
帳面の最後の頁に、公爵が短く書いた。
『北方公爵領預かり。改ざん不可』
王都では誰も、私の記録を守る側に立ってくれなかった。
だからこそ、この一行が思ったよりずっと重かった。




