第4話 曇った原石の山
翌朝、私は一番古い在庫箱から調べ始めた。
原石の山は一見すると雑然としている。けれど掘り出し日、採取層、仮研磨の担当者まで丁寧に書かれた札が残っていた。乱れているのは現場ではなく、その後の保管だ。
「この棚、北壁に寄せすぎです。夜の冷えが石に水を呼んでしまう」
私が言うと、若い研磨師が戸惑った顔をした。
「王都のお嬢さんが、そんなことわかるのか」
「帳簿しか見ていないと思われがちですが、帳簿の数字は現場の癖で狂います」
私は湿った包布を外し、乾いた紙でひとつずつ分ける。曇り石として山に積まれていた星彩石の中に、星筋の強い良質石が七つも混じっていた。
マルタが息をのむ。「それ、全部売り物に戻るのかい」
「戻ります。ただし研磨粉を替えて、水ではなく温布で先に表面を休ませる」
工房の空気が少し変わった。疑いが消えたわけではないが、少なくとも私の手元を見る目になった。
昼前、公爵が在庫室に顔を出した。
「進み具合は」
「悪くありません。問題は石より、管理経路です」
私は箱札を並べた。王都送りになったはずの原石番号が、途中から別の札に書き換えられている。文字癖は同じなのに、インクだけ違う。
「誰かが納品前に箱をすり替えています」
「北方の中か」
「それだけではありません。ここで番号を変え、王都で刻印の確認頁を消した。片側だけでは成立しません」
公爵は腕を組んだまま、私の指が追う番号を見ていた。
「必要なら、領内の出荷役人も全部並べる」
「お願いします。でもその前に、工房の人たちへ賃金の見通しを伝えてください。皆、疑われたまま働かされている」
公爵は少し驚いた顔をしたあと、短くうなずいた。
午後、工房の広間に集められた職人たちへ、彼は正面から伝えた。遅れていた分を三日以内に一部支払い、良質石を優先出荷に回すこと。私が管理を引き受けること。誰か一人に押しつけて終わらせないこと。
王都の男たちは、だいたい綺麗な言葉で責任を曖昧にした。
この公爵は逆だ。言葉はぶっきらぼうなのに、責任の置き場だけははっきりしている。
夕方、作業台の上で最初の石が静かに光を取り戻した。曇っていた表面の内側から、細い星筋が浮かび上がる。
私はその石を持ち上げた。
「大丈夫。まだ、光る石は残っています」
それは工房への言葉であり、自分自身への言葉でもあった。




