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第38話 誰の名で刻印されるべきか

刻印は飾りではない。責任の置き場所だ。


 冬市前日の公開照会で、私は婚約冠と旧鉱区台帳、地図余白、偽鑑別証を同じ机へ並べた。ヘルミーネもオスヴァルトも、もはや笑顔だけでは持たない顔をしている。


「最終確認をします」


 私は婚約冠を持ち上げた。


「この冠の裏には、採掘人、研磨師、刻印管理者、保全部門の名を刻んでいます。なぜなら品は、一人で本物にならないからです」


 続けて偽首飾りを示す。


「こちらには北方工房を騙る粗い星刻印しかありません。名を借りただけで、責任を持つ人間の名が一人もない」


 リーゼたち未亡人は前列でそれを聞いていた。彼女たちの相続証を掲げながら、私は言う。


「鉱区も同じです。亡夫の後を継いだ人の名を消した時点で、その石はもう本物ではいられません」


 ヘルミーネが初めて声を荒らげた。


「名ばかり守っても、売れなければ意味がないでしょう!」


「売るために名を守るのではありません」


 私は静かに返す。


「名を守らなければ、誰が掘り、誰が磨き、誰が責任を持った石かわからなくなる。そうなった品は、最終的にどこにも残りません」


 広間がしんと静まった。派手な言葉ではない。でも、この場にはそれで足りた。


 ディートハルトが結論を告げる。


「未亡人鉱区の名義は仮差し止めを解除し、再登録へ移行する。白銀商会の先行買い取りはすべて無効」


 リーゼが息をのみ、マルタが深くうなずく。


 ようやく、紙の上の名前が本人のところへ戻り始めた。


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