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第36話 消えた採掘地図の余白

地図の本体を奪われても、余白の意味までは奪いきれない。


 母が書いた『地図余白参照』を頼りに、公爵家書庫と工房倉庫の古枠を洗った。三日目、古い展示額の裏板から折り込まれた紙片が見つかる。


 それは第三採掘線の原図の余白だけだった。線そのものはない。けれど余白には、母の細い字でこうあった。


『青石安定帯、表線より西へ半歩。名義は共同採掘人優先』


 私は息をのんだ。共同採掘人優先。つまり、鉱区の価値は地主一人ではなく、実際に掘り支えてきた家族単位で守るべきだと、母は先に書いていたのだ。


 さらに余白の端には、小さな採掘線の修正印がある。そこにリーゼの夫たちの名が繋がる。


「だから未亡人の相続証だけを消したんですね」


 共同採掘人の名義が残れば、白銀商会は一本の契約で鉱区をまとめて取れない。だから生活が弱い側の名前から抜いた。


 ディートハルトが余白紙を持ち上げる。


「これで公開照会は終わる」


「ええ。地図の主線はなくても、余白で十分です」


 紙は不思議だ。端に書かれた一言が、本体より大事な時がある。


 その夜、私は余白紙を透明布へ挟み、新しい台帳へ綴じた。母の字が、今の誰かの権利を守る。そう思うと、書庫の冷たさまで少しだけやわらいだ。


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