第35話 白銀令嬢の鑑別証
立派な鑑別証ほど、裏の繊維を見るべきだ。
私は白銀商会の鑑別証を机へ広げた。婚約祝いの耳飾り、ミーナの婚礼首飾り、冬市先行市の青石。全部、同じ意匠なのに、紙の端だけ微妙に毛羽立っている。
「古い鑑別局の余り紙です」
王都にいた頃、廃番になった羊皮紙の触り心地を私は嫌になるほど覚えた。表面だけ滑らかで、裁断端が乾きすぎている。
さらに、署名欄の『領都鑑別補佐 ヘルミーネ・ヴァルター』という肩書き。領都の正式登録簿を照会すると、そんな役職自体が存在しなかった。
「役職が先に偽物でしたね」
マルタが腕を組む。
「石とお似合いだよ」
私は紙へ細灯を当てた。透かしの位置がずれている。公的鑑別証ではありえない。そこへオスヴァルト書記の押印だけが本物だから、余計に質が悪い。
「書記局が通したんだ」
ディートハルトの声が低くなる。
ちょうどその時、オスヴァルト本人が呼び出しに応じて現れた。私は無駄な前置きをせず、鑑別証と登録簿の写しを並べる。
「この肩書きは、どこから出ました」
彼は最初、視線を逸らしただけだった。だが透かし紙のずれと、彼自身の押印記録を示した途端、肩が落ちる。
「冬市までの仮登録だと……商会から説明が」
「説明では役職は生えません」
私は言い切った。ヘルミーネが自分の社交名と書記局の印だけで“鑑別人”を作った。それが冬市の中央舞台へ出るつもりだったのだ。
紙の繊維一本まで洗ってよかったと思う。綺麗な言葉より、毛羽立ちの方が嘘を覚えている。




