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第32話 雪道で止まった原石箱

冬が近づくと、石より先に道が試される。


 最初の雪が降った夜、工房から冬市へ出すはずの原石箱が山道で止まった。御者は転倒も襲撃もないと言う。気づいた時には、荷台の縄だけが切り替わっていた。


「箱が一つ軽い」


 マルタの一言で、私は嫌な予感がした。現場へ行くと、雪の上に二種類の足跡が残っている。荷を積み替えた跡だ。


 追跡の先にあったのは、山小屋へ隠された替え箱だった。中身は粗悪な海砂混和石。それなのに外箱の封札だけは、工房正規のものに似せてある。


「冬市でこれを開けさせる気だったんですね」


 私が言うと、ハインツが低く唸る。


「名指しで恥をかかせるつもりか」


 替え箱の底から、丸めた紙が出てきた。白銀宝飾商会の仮納品契約書で、冬市後に“北方鉱区供給不安を理由に一時代行する”と書かれている。


 最初から筋書きができていたのだ。工房の箱を偽物へすり替え、中央舞台で評判を落とし、その隙に供給代行を名乗る。


「石より先に看板を奪うつもりでした」


 ディートハルトは契約書を一読し、外套の内へしまった。


「公開入札へ切り替える」


「ええ。裏で勝手に代行させません」


 雪の上で替え箱を見下ろしていると、妙に腹が据わった。ここまで丁寧に悪意を積み上げてくれるなら、崩す場所も決めやすい。


 帰り道、私は本物の原石箱へ自分の封印を追加した。侯家紋ではなく、北方工房の新刻印で。


 誰の石か。誰の箱か。誰の名で出す品か。


 そこを曖昧にしないだけで、雪道の冷たさよりよほど強い線が引ける。


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