第31話 工房名を盗む展示会
展示会は、並べた品だけでなく誰の看板を立てたかで勝負が決まる。
白銀宝飾商会の冬市展示会告知は、予想以上に大胆だった。文面には『北方公爵領式 新刻印採用品』とまである。
「採用していません」
私は即答した。
告知板の写しには、北方工房の刻印に似せた飾り紋まで添えられている。遠目に見れば、公認と誤解する客もいるだろう。
私は冬市の出展台帳を取り寄せた。白銀商会は中央舞台のすぐ脇、目立つ位置を押さえている。さらに審査欄には、領都鑑別補佐ヘルミーネ・ヴァルターの名。
「会頭令嬢が、自分で鑑別証まで書くんですか」
マルタが呆れた。
「役職は後から生えたんだろうさ」
私は台帳の綴じ糸を見た。公的な補佐登録票だけ、新しい糸で差し替えられている。書記局の誰かが手を貸している証拠だった。
その夜、工房の広間で対策を決めた。被害品、偽刻印、海砂屑、婚礼首飾りの鑑別証、相続証の空欄写し。全部を冬市までに整える。
「展示会を止めるのではなく、舞台で返す」
私が言うと、ディートハルトは短くうなずいた。
「中央舞台の公開鑑別枠を取る」
それは本来、領内の新作を披露するための時間だ。そこへ証拠を持ち込めば、白銀商会は客の前で本物と並べられる。
「逃げるかもしれません」
「逃げるなら、それも証拠だ」
私は告知板の写しを折りたたんだ。向こうは舞台が好きだ。なら、こちらも舞台で終わらせればいい。ただし華やかな嘘ではなく、順番に並べた本物で。




