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第30話 偽鑑別証付きの婚礼首飾り

祝う日の宝石が曇る時、その曇りは石だけでは済まない。


 東村の集会所で、花嫁ミーナは泣くまいとして唇を噛んでいた。白銀商会で買った青石の首飾りが、前夜のうちに黒ずみ、留め具まで緩んでしまったのだという。


「母が無理して買ってくれたんです」


 差し出された鑑別証には、やはり金文字で北方特選とあった。けれど紙の匂いも文字の癖も、婚約祝いで届いたものと同じだ。


 私は首飾りの留め具を見た。試金針の反応どおり、合金比率が低い。祝いの場で外れれば、笑い話では済まない。


「これは本物ではありません」


 集まっていた女たちがざわめく。だが私はすぐ続けた。


「でも、式は止めません。北方工房で代わりを用意します」


 ミーナが目を見開いた。


「そんな、代金も」


「今日は帳簿より先に婚礼です」


 マルタが横で鼻を鳴らした。


「あとで白銀商会へ倍で請求しな」


 私はその場で持ってきた保全布を広げ、工房の試作品から小さな青石の首飾りを選んだ。派手ではないが、朝の光に星筋がきちんと走る。


 ミーナが鏡の前でそっと触れる。


「軽い……」


「本物は、見せびらかす重さではなく、つけ続けられる重さで作ります」


 式が始まる頃には、私の怒りはすっかり冷えていた。冷えた怒りの方が、証拠をきれいに並べられる。


 帰りの馬車で、私は偽鑑別証へ新しい札をつけた。


『婚礼被害品 留め具不良 花嫁ミーナ証言あり』


 ディートハルトが隣で短く言う。


「冬市の展示会でやる」


「ええ。工房名を盗んだまま、祝いまで壊したことを人前で返します」


 名の問題は、結局いつも生活へ落ちる。だからこそ、放っておけない。


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