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第29話 亡き母の試金針
金属を見分ける針は細い。でも、その細さで嘘を裂ける。
書庫の古箱を整理していると、布に巻かれた試金針が出てきた。柄の裏に、小さく『Eva』と刻まれている。母のものだ。
私は針先を偽耳飾りの石座へ当てた。北方工房の石座は銀を混ぜず、硬い白金比率で揃える。ところが白銀商会の品は、見た目だけ白く、内側に安い合金が使われていた。
「石だけじゃなく台座まで偽装です」
ディートハルトが試金盤を押さえる。
「どこまで借り物で作る」
「名も石も台座も。だから一つずつ返してもらいます」
試金針の箱には、母の走り書きも残っていた。
『北方の石は、削るより先に支える金属を見よ。安く作る者ほど、目立たない裏で抜く』
思わず笑いそうになる。母は昔から厳しかった。
その時、工房の若い研磨師ヨナスが駆け込んできた。
「監理官、村の花嫁さんが困ってます。白銀商会の首飾りが式前に黒ずんだって」
私は試金針を布へ戻した。ようやく向こうが、名誉だけではなく人の祝いまで踏んだ。
「行きます」
立ち上がると、ディートハルトが先に外套を取った。
「馬を出す」
私の仕事に理由を訊かないところが、この人の良さだ。もう十分に証拠は揃っている。それでも一つずつ見に行くのは、帳簿だけでは守れない顔があると知っているからだった。




