第27話 白銀宝飾商会の買い取り
救済を名乗る買い取りほど、値札の位置が低い。
白銀宝飾商会の会頭令嬢ヘルミーネ・ヴァルターは、予想より若く、予想よりよく笑う女だった。二十八歳。真珠色の手袋をしたまま、工房の応接室へ入ってくる。
「北方の小鉱区を守りたいだけですの」
その一言で、私は彼女が何も守る気がないとわかった。
机へ出された契約書には、美しい言葉が並んでいた。管理代行、生活支援、冬季救済買い取り。だが細則を読むと、買い取り後の利益配分は商会へ固定、再取得権もなし。未亡人たちは冬を越えても、自分の鉱区へ戻れない。
「これを、助ける契約だと?」
私が問うと、ヘルミーネは首を傾げた。
「石は掘る人が持つより、売れる人が持つ方が幸せでしょう?」
その言い方があまりに王都的で、逆に懐かしいくらいだった。表に立つ人間だけが価値を決めると思い込んでいる。
ディートハルトが低く言う。
「領内鉱区の譲渡は、私の承認前に進めさせない」
「もちろん、公爵閣下には後からご説明を」
「先に言え」
短い返答で、部屋の空気が冷えた。
私は契約書の余白を指した。押印欄の一つに、鉱区書記オスヴァルトの確認印がある。つまり商会は最初から書記局と組んでいた。
「婚約祝いの耳飾りも、あなたの商会ですね」
ヘルミーネのまつげがほんの少し動く。
「気に入っていただけませんでした?」
「工房名を間違えた品は、祝いにはなりません」
私はにこやかに返した。怒鳴るより、この方が効く相手だ。
去り際、ヘルミーネはドアの前で振り向いた。
「北方の名は、いずれ私どもの方が広く売りますわ」
「名は、売るものではありません」
私が言い切ると、彼女の笑顔が初めて少しだけ固まった。
買い取りの値段は低い。けれど向こうが本当に欲しいのは、鉱区そのものより先に“北方の本物らしさ”なのだと、ようやく輪郭が出てきた。




