第25話 磨き粉の色見本帳
磨き粉の色は、石の出自より正直な時がある。
偽首飾りをもう一度分解していると、石座の隙間から灰色がかった粉がこぼれた。北方工房で使う青灰の研磨粉とは少し違う。もっと白く、粒が粗い。
「見覚えがある」
私は棚の奥から母の色見本帳を取り出した。エヴァが残した古い帳面で、研磨粉や鉱砂の色が布片と共に貼られている。
頁をめくると、似た粉が見つかった。北方ではなく、北海沿いの海砂混じりの石英を磨く時に出る白銀色の粉だ。
「海沿いの再研磨品を、北方産に偽装しています」
マルタが首飾りを覗き込む。
「石を丸ごと偽るより安いし、見た目だけなら騙せる」
私はうなずいた。しかも白銀宝飾商会の名とぴたりと合う。海沿いの石を買い集め、北方の刻印を真似て売る。さらに本物の鉱区まで押さえれば、後から“本当に北方の供給元になった”と言い張れる。
「名前を盗んでから実体を作る気だ」
自分で口にして、嫌な滑らかさだと思った。
その夜、ディートハルトがいつものように小箱を置いた。中には、磨く前の青石と一緒に古い試薬瓶が入っている。
「書庫の奥から出た」
瓶の底に、母の筆跡で小さく書かれていた。
『海砂混和石 色移り注意』
胸が少し熱くなる。母は昔から、この手の誤魔化しを知っていたのだ。派手ではない注意書きでも、残っていれば人を守る。
「お母様、やっぱりこういう時のために残していたんでしょうか」
「おまえが読むと思ったんだろう」
ディートハルトの声はいつも低い。でも、こういう時だけ妙にまっすぐ届く。
私は色見本帳と試薬瓶を並べた。石を守るのと同じくらい、名を守るための証拠が揃い始めている。




