表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/40

第24話 未亡人たちの採掘権

人の権利は、たいてい立派な場所ではなく端の欄外から奪われる。


 リーゼの件を起点に洗うと、同じ形の申請が次々と見つかった。クララ、ベッティーナ、アグネス。皆、夫や父から小鉱区を継ぐはずだった女性たちだ。提出済みのはずの相続証だけが、本帳へ移されていない。


「綺麗すぎるね」とマルタが吐き捨てる。


「男手を失ったところだけ抜いてる」


 私は旧帳を広げた。小鉱区は派手ではなくても、良質な原石を少しずつ出す。工房にとっては、こういう場所こそ大事だった。


 ディートハルトは机の端へ指を置いたまま言う。


「私有鉱区の譲渡は本人意思が前提だ」


「だから先に、意思を弱らせるための紙を止めています」


 生活費、相続証、納品控え。届かなければ、権利の方から薄く見えてくる。白銀宝飾商会はそこを狙ったのだ。


 私は七人分の名を一枚にまとめた。年齢、鉱区番号、最終納品日、家族構成、譲渡打診日。並べると、商会の動きが露骨になる。申請が止まって二週間以内に、必ず買い取りの使者が来ている。


「公開で再照会しましょう」


 私が提案すると、ディートハルトはうなずいた。


「領内告知を出す」


「“未亡人向け救済会”なんて名目で囲わせないためにも」


 その言葉に、マルタが皮肉っぽく笑った。


「石を見たこともない連中ほど、救済って言葉が好きだ」


 夕方、工房の広間へ七人が集まった。皆、静かだった。怒鳴る余裕もなく、ただ不安だけを抱えている顔だ。だから私は、余計な慰めを言わないことにした。


「皆さんの鉱区名義は、今ここでは消えていません。私が台帳へ載せ直すまで、譲渡印は押さないでください」


 女性たちは小さくうなずいた。その一つ一つが重い。


 宝石の台帳は石のためにあると思われがちだ。でも本当は、その石を掘った人の生活を守るためにある。帳簿の意味を誰かに説明し直せる今の仕事が、私は嫌いではなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ