第24話 未亡人たちの採掘権
人の権利は、たいてい立派な場所ではなく端の欄外から奪われる。
リーゼの件を起点に洗うと、同じ形の申請が次々と見つかった。クララ、ベッティーナ、アグネス。皆、夫や父から小鉱区を継ぐはずだった女性たちだ。提出済みのはずの相続証だけが、本帳へ移されていない。
「綺麗すぎるね」とマルタが吐き捨てる。
「男手を失ったところだけ抜いてる」
私は旧帳を広げた。小鉱区は派手ではなくても、良質な原石を少しずつ出す。工房にとっては、こういう場所こそ大事だった。
ディートハルトは机の端へ指を置いたまま言う。
「私有鉱区の譲渡は本人意思が前提だ」
「だから先に、意思を弱らせるための紙を止めています」
生活費、相続証、納品控え。届かなければ、権利の方から薄く見えてくる。白銀宝飾商会はそこを狙ったのだ。
私は七人分の名を一枚にまとめた。年齢、鉱区番号、最終納品日、家族構成、譲渡打診日。並べると、商会の動きが露骨になる。申請が止まって二週間以内に、必ず買い取りの使者が来ている。
「公開で再照会しましょう」
私が提案すると、ディートハルトはうなずいた。
「領内告知を出す」
「“未亡人向け救済会”なんて名目で囲わせないためにも」
その言葉に、マルタが皮肉っぽく笑った。
「石を見たこともない連中ほど、救済って言葉が好きだ」
夕方、工房の広間へ七人が集まった。皆、静かだった。怒鳴る余裕もなく、ただ不安だけを抱えている顔だ。だから私は、余計な慰めを言わないことにした。
「皆さんの鉱区名義は、今ここでは消えていません。私が台帳へ載せ直すまで、譲渡印は押さないでください」
女性たちは小さくうなずいた。その一つ一つが重い。
宝石の台帳は石のためにあると思われがちだ。でも本当は、その石を掘った人の生活を守るためにある。帳簿の意味を誰かに説明し直せる今の仕事が、私は嫌いではなかった。




