表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/40

第22話 冬市へ向かう買付帳

買付帳は、誰がどんな未来を欲しがっているかを正直に書く。


 翌朝、ディートハルトが工房の執務室へ一冊の帳面を置いた。領内商人から提出された冬市用の通行申請控えだ。


「白銀宝飾商会だけ、妙だ」


 頁を開くと、買い付け品目に北方では出ない等級の青石と、海沿いで採れる銀砂混じりの石英が並んでいた。しかも数量が多い。首飾りや耳飾り程度では使い切れない量だ。


「低い石を大量に仕入れて、北方産に見せかけて売る気ですね」


 私は指を走らせた。さらに目についたのは、別欄の書類束だった。鉱区仲介、採掘権譲渡、査定依頼。宝石の買付と鉱区の契約が同じ時期に重なっている。


「石だけじゃない」とマルタが唸る。「鉱区まで触ってるのか」


 北方の小鉱区は、夫婦や家族単位で守ってきた場所が多い。派手な大鉱脈ではないが、地元の研磨師や採掘夫の生活に直結している。


「冬市で北方名義の偽宝石を売る。その一方で、本物の鉱区を安く押さえる」


 紙の上では綺麗に見えるやり口だ。だから腹が立つ。


 その時、工房の受付から控えめな声がした。案内されて入ってきたのは、三十四歳の未亡人リーゼ・フェルナー。手には擦り切れた封筒を握っている。


「鉱区相続の件で……」


 私は彼女を椅子へ勧めた。封筒の中身は、相続証再提出の督促状だった。提出期限切れの場合は、鉱区を管理保全名目で商会へ預託する、と書いてある。


「相続証は出しました」


 リーゼの声は小さいが、はっきりしていた。


「夫が亡くなったあと、鉱区書記へ。控えも受け取りました。でも今月になって、記録がないと言われて」


 私は督促状の日付を見た。白銀宝飾商会の買付申請と同じ週だ。


 宝石の偽物と鉱区の相続証。別々に見えるけれど、紙の匂いは同じだった。誰かが先に名を奪い、あとから石を奪おうとしている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ