第22話 冬市へ向かう買付帳
買付帳は、誰がどんな未来を欲しがっているかを正直に書く。
翌朝、ディートハルトが工房の執務室へ一冊の帳面を置いた。領内商人から提出された冬市用の通行申請控えだ。
「白銀宝飾商会だけ、妙だ」
頁を開くと、買い付け品目に北方では出ない等級の青石と、海沿いで採れる銀砂混じりの石英が並んでいた。しかも数量が多い。首飾りや耳飾り程度では使い切れない量だ。
「低い石を大量に仕入れて、北方産に見せかけて売る気ですね」
私は指を走らせた。さらに目についたのは、別欄の書類束だった。鉱区仲介、採掘権譲渡、査定依頼。宝石の買付と鉱区の契約が同じ時期に重なっている。
「石だけじゃない」とマルタが唸る。「鉱区まで触ってるのか」
北方の小鉱区は、夫婦や家族単位で守ってきた場所が多い。派手な大鉱脈ではないが、地元の研磨師や採掘夫の生活に直結している。
「冬市で北方名義の偽宝石を売る。その一方で、本物の鉱区を安く押さえる」
紙の上では綺麗に見えるやり口だ。だから腹が立つ。
その時、工房の受付から控えめな声がした。案内されて入ってきたのは、三十四歳の未亡人リーゼ・フェルナー。手には擦り切れた封筒を握っている。
「鉱区相続の件で……」
私は彼女を椅子へ勧めた。封筒の中身は、相続証再提出の督促状だった。提出期限切れの場合は、鉱区を管理保全名目で商会へ預託する、と書いてある。
「相続証は出しました」
リーゼの声は小さいが、はっきりしていた。
「夫が亡くなったあと、鉱区書記へ。控えも受け取りました。でも今月になって、記録がないと言われて」
私は督促状の日付を見た。白銀宝飾商会の買付申請と同じ週だ。
宝石の偽物と鉱区の相続証。別々に見えるけれど、紙の匂いは同じだった。誰かが先に名を奪い、あとから石を奪おうとしている。




