表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/40

第21話 北方工房を騙る偽刻印

宝石は、光り方だけではなく名札でも値打ちが決まる。


 夏の終わり、北方工房の帳場へ一人の婦人がやってきた。三十一歳の宿屋女将エルザで、北海行きの商人から買った青石の首飾りを机へ置く。


「北方工房の刻印入りだと言われたのですが、三日で曇りました」


 私は首飾りを持ち上げた。遠目には悪くない。けれど石座の裏へ爪を滑らせた瞬間、違和感が走る。北方工房の新刻印は二重星の外に細い円を添える。そこへ刻まれているのは、角の浅い粗い星だけだった。


「これはうちの刻印ではありません」


 マルタが身を乗り出す。


「偽物かい」


「ええ。しかも刻印だけじゃない。石も北方の星彩石ではありません」


 細灯を当てると、内部に走るはずの星筋がぼやけていた。磨きそのものは悪くない。だからこそ厄介だ。工房の名を知った上で似せている。


「どこで買いました」


「白銀宝飾商会の先行市です。冬市へ向けた特別品だと」


 その名前を聞いた途端、ディートハルトが顔を上げた。


「最近、北海筋でよく見る商会だ」


 私は帳簿へ書きつける。工房名を騙る偽刻印。販売元は白銀宝飾商会。北海冬市前。


 王都で私が学んだのは、偽物は必ず急ぐということだった。本物の信用を借りるしかないものほど、広まる前に売り切ろうとする。


「返金は求めますか」と私が尋ねると、エルザは小さく首を振った。


「いいえ。ただ、北方工房の品がこう思われるのは嫌で」


 その言葉が、思ったより胸に残った。工房はやっと立ち直ったのだ。ここで名まで盗まれてたまるものか。


 私は首飾りを保全箱へ入れた。


「ありがとうございます。これは証拠として預かります。代わりに、本物の石の見分け方を書いた控えをお渡しします」


 エルザが帰った後、私は刻印見本板と偽首飾りを並べた。粗くても似せようとしている。つまり相手は、うちの名が売れると知っている。


「冬市へ行く前に洗います」と私が言うと、ディートハルトは短くうなずいた。


「なら、先に買付帳を押さえる」


 朝ごとに石を持ってくる無骨な公爵は、こういう時だけ先に道を敷く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ