表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/40

第20話 私の輝きで歩いていく

 夏のはじまり、北方工房には新しい看板が掲げられた。


『北方公爵領宝飾工房 刻印管理責任者 クラリス・ノイマン』


 大げさな装飾のない木の看板だ。それでも私は、王宮のどんな金文字より嬉しかった。


 工房では明け星の首飾りに続き、祝礼用の小冠や婚礼の指輪まで受注が広がっていた。帳簿は忙しく、職人たちの手も止まらない。けれど今は、その忙しさが誰かの隠し事のためではなく、工房の未来に繋がっている。


 朝の執務室へ入ると、いつものように小箱が一つ置かれていた。


 開ける前からわかる。公爵だ。


 中には、細い銀の輪に青い一石を留めた指輪が入っていた。華美ではない。けれど星筋がまっすぐで、余計な曇りがない。私が一番好きな光り方だ。


「勝手に置くのは卑怯では」


 振り返ると、公爵が扉口に立っていた。


「逃げられると困る」


「誰が逃げますか」


「念のためだ」


 私は笑いながら指輪を持ち上げる。裏側には、北方工房の新刻印と、その横にごく小さく二重星が添えられていた。過去を消すのではなく、今の刻印に並べて残してある。


「これは、仕事の指輪ですか。それとも」


「両方だ」


 あまりに彼らしくて、胸の奥があたたかくなる。


「クラリス。これからもここで、おまえの記録と俺の領地を並べていきたい」


 派手な求婚ではない。けれど私にとっては、いちばん誠実な言葉だった。


 私は左手を差し出す。


「では、帳簿に残しておきます。北方工房の責任者は、これからも毎朝磨きたての石を届けられること、と」


 公爵が珍しく、はっきり笑った。


 指輪がはまる。窓から差した朝の光が石を通り、机の上に細い星筋を落とした。


 私はもう、安物の石がお似合いだなんて言葉で揺らがない。


 誰かに飾られるためではなく、自分の仕事と選んだ居場所の光で歩いていけると知っているから。


 今日もまた、新しい石と新しい記録が私を待っている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ