第19話 もう控えの宝石係ではない
数日後、王宮から正式な沙汰が届いた。
ベルトラン局長は更迭、レナードは典礼職を解かれ、セリーヌと伯母は宝飾関連の出入りを禁じられる。そして私には、宮廷宝飾局への復職と刻印管理官への昇格が打診された。
皆が息をのむ中、私は書状を最後まで読み、静かに机へ置いた。
「断ります」
ヨハンが目を丸くし、マルタは次の瞬間に吹き出した。
「あんたならそう言うと思ったよ」
私は笑った。
「王宮へ戻れば、確かに名誉は手に入ります。でも私が戻したかったのは、北方工房の信用と母の名前です。仕事の形は、ここで完成させたい」
公爵は何も言わない。けれど、その沈黙は最初に会った日の切り捨てるようなものではなく、答えを知っていた人の沈黙だった。
私は返書を書いた。刻印継承の再登録には協力すること、北方工房との正式契約を望むこと、そして自分は北方宝飾監理官として工房に残ること。
書き終えた時、不思議なくらいすっきりした。
夕方、工房の広間でそのことを伝えると、職人たちは派手に歓声を上げるでもなく、じわじわと笑った。ここらしい喜び方だと思う。
「もう王都の控えじゃないねえ」
マルタの言葉に、私ははっきりうなずいた。
「ええ。私はもう、誰かを飾るための控えの宝石係ではありません」
その夜遅く、工房の外でレナードと一度だけ顔を合わせた。王都からの帰りに立ち寄ったらしい。すっかり疲れた顔で、それでもまだ未練のようなものを目に浮かべている。
「本当に戻らないのか」
「戻りません」
「君なら王宮で……」
「私なら、ここで十分です」
私はそれ以上言わなかった。もう彼に説明する義理はない。
背を向けて歩き出すと、工房の窓から暖かな灯りがこぼれていた。その先に、自分の机と帳簿と、明日の石がある。
それだけで、過去を振り返る理由はなくなった。




